Sky light〜空〜
「ネス、気晴らしにでも散歩に行かない?」
それは黒の旅団のことを書庫で調べているとき、いつもの調子でトリスが僕に言ってきたことだった。
ただでさえ、あせっているのに散歩になんて行けるはずが無い。
まったく...。
またいつものごとく僕はいつもの返事をした。
「だめだ。まったく君ときたら…。黒の旅団のことを君も調べたらどうだ?!」
少し怒鳴り気味にトリスをしかった。
いつもならここでしぶしぶ帰っていくはずだった。いつもなら…。
「むぅ〜、なによ!毎日毎日部屋にこもって調べ物してて。少しは日の光に当たろうとか思わない訳?!」
「そんなこと今は日の光よりこっちが大切だ。
トリスと話しているときも手を休めたりしない。
君は分からないんだろうか…僕がこんなにあせっているのは君のためでもあるのに。
「むぅぅ〜〜!ネスのバカッ、分からず屋!もう今日は絶対一緒に行くんだから!!」
「何とでも言え。ダメなものはダメなんだ。」
「むぅぅぅ〜!」
トリスの声が曇る。
さすがに言い過ぎたかなと思い、チラッと見るとトリスは床にペタンと座り込み今にも泣き出しそうな目で僕の方を見ていた。
その仕草が子供っぽくていつになったら大人になるんだという思いが頭をかすめた。と同時に愛しさという想いも頭をかすめた。
これは僕の方も重症だなと頭に手を当て何回目か知らないため息とともに本とパタンと閉じた。
「…わかったよ、トリス。だが今日だけだからな。」
それを聞いたとたん、トリスは目を輝かせしゃきと立った。
「ありがとっネス!じゃ、行きましょ!!」
そう言うとトリスはさっきの泣き顔とは反対にパッと笑顔になった。
――そういえば久しぶりに見たな、トリスの笑顔。
君の言う通り日の光に当たったほうが良さそうだな、本当に。
そして何故か顔がほころび笑みが出た。
当のトリスは僕の手を無理やり引っ張るようにして歩いている。
トリスが引っ張るままに僕らは外に出た。
外はまぶしいくらいの青空だった。
本当にまぶしく、蒼く、美しい空。
そして何故か虚ろで寂しさもある。
僕はそんな空をボーーッと見ながら歩いていた。
「―ちょっと、ネス!聞いてる?」
「――あ、ああ。」
意識を戻しまだ少し虚ろ気な声でトリスに向かって返した。
「――あっ…。もうっネスったら顔にススがついてる。」
トリスはクスッと口元に手をやり笑っている。
「さっきは暗いとこだったもんね、分からなかったわ!」
さっきよりもいっそう声を上げてトリスは笑った。
僕も気恥ずかしさが徐々にこみ上げてきた。
「そ、そんなに笑うことは無いだろう!」
「あはは...ゴメンゴメン。だ、だってススが・・ヒゲみたいに…っアハハハッッ!!」
「なっ――!」
慌てて袖口で鼻の周りをこすった。すると袖にはススがたくさんついている。これは結構ついていたのだろう。
「トリス!早く行くぞ!!」
「あはは...はーい!」
そう言って今度は僕が先を行く。それを見、トリスは小走りになりながら僕の隣に来た。
気づくと自然に僕たちは手をつないでいた。
「わぁ〜懐かしい〜!」
途中、導きの庭園で休んだ。
ここは蒼の派閥時代、トリスがよく授業をサボり昼寝をしていたところ。そしてそのトリスを見つけ僕が説教していたのもここだ。
「この頃ここには来てなかったからね〜。あの授業をサボって昼寝をしていたのが大昔みたい。」
「僕が何回君を探しに来たと思っている。それを思い出すだけでため息がでる。」
「むぅ〜そんなこといいもん!」
少し意地らしくトリスは頬を膨らませた。
「元はといえば君がだな......説教するのも疲れた…!」
「何よ〜!ネスは知らないのよ、木陰で昼寝するのがどんなに気持ちがいいのかを!」
「僕は知りたくも無いが。」
「む〜、ほらっああいうとこがいいのよ!あそこで一休みしましょ!」
「わっ…!」
また強引にトリスに引っ張られ木陰の方へ向かった。実際、結構歩いたのだから疲れてはいるのだ。それはトリスも同じだろう。
「ふっ〜…疲れたぁ!」
その木陰に入るとトリスはドサッと草むらに寝転んだ。
仮にも女の君が...などと考えてはいるもののそれを口には出さない。
少し呆れ顔になりながらも僕も近くの木にもたれながら座った。
「ネスも寝てみなよ〜。気持ちいいよ?」
「遠慮しておく。」
即返事をしたのが気に入らなかったのか「む〜。」と言い、また寝転んだ。
しばらく無言で空を見ていた。
と突然トリスは何か思いついたように立ち上がった。
その顔には何ともいえない笑みがある。
「…?どうした、トリス。」
「えへへ〜…えいっ!」
「…なっ!!」
トリスは木にもたれかかっている僕を強引に自分の方へ引き寄せ寝転んでいる状態にさせた。頭の下には芝生とは違うやわらかさ。そして上にはトリスの顔。それはまさに―――。
「ト、トリス!!」
「いーじゃないの、ネス!」
…ひざまくら…。
赤面しながら起き上がろうとするもののトリスが上にいるので起き上がれない。
「ああ...もう...。」と勝手に出る言葉と同時に手を額に当てた。
ふっとトリスの顔がなごんだ。
「ねぇ、ネス。見える?空。こうやって見ると本当に大きいよね。――本当に大きくて自分が小さいよね…。」
目の前に広がる空はやっぱり青空で虚ろで寂しさが見え隠れしている。
「――ああ、そうだな...。」
この頃よく寝てないせいか眠気が押し寄せてきた。
そのまどろみの中、かすかに君の声が聞こえる。
「…ネス、この先大変のことが起こるかもしれない。
でも、今は、焦らないで行こうよ…。
どんなことが起こってもあたしは…ネスの…そばにいるから……。」
その先を聞き取れなくなり僕は眠りについた。
夢の中での君はあの空のように笑っていた。
僕に向かって笑顔とその手を差し出している。
―いつか君は僕たちの運命を知るときが来る。だけど、だけどその時間(とき)までこの瞬間(とき)をずっと君と―――
差し出された手を僕はしっかりと握った。
                                       fin.
あとがき…という名の泥棒。
…言うことがありません…;どうもスランプですね;
さてこの元ネタは兄弟(双子・男)からもらいました。ひざまくらというシュチュエーションが一番燃えるそうです。(書いていいの?)ちなみに兄弟はマグパフェ推奨。
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