「祭り」
とある街に滞在していたときだった。
ヴァッシュとメリルは明日の出発に備えて食料や備品の買い付けのため二人で商店街を歩いていた。
「―――あ…。」

「どうしたの、保険屋さん?」

「笛の…お囃子の音<ね>ですわ…。」

メリルはこの音に懐かしそうに聞き入った。

「私の街でもお囃子を吹いてたんですのよ、子供のころ。きっとこの街でもお祭りが近いんですわね。」

「行ってみようよ!僕、どんなのかわかんないし。説明して欲しいな。」

「ええ。」

二人は音のする方へ向かった。

その場所は街外れで神社が建っていた。

ところどころに子供が座って笛の練習をしている。

「へぇ〜…、こういうのもいいもんだね。」

「めずらしいですか?」

「うん。こういうの始めてみたよ。」

二人が話していると割り込むように子供のけんか声が聞こえてきた。

「なんだよ兄ちゃん!音が出てねぇじゃねえか!!」

「うるさい!お前よりはましだよ!!」

兄弟は笛を取り合うようにけんかをしている。

祭りで使う笛は普通の笛と違い横笛のお囃子で音が出にくいのだ。

メリルは突然その兄弟たちのところへ行き二人をなだめるとうれしそうな顔で二人に言った。

「ねぇ、お姉ちゃんにちょっと貸してくれない?」

背を低くし二人の目線と同じ高さで言っている。

「…はい…。」

「ありがとう。」

メリルはにっこり笑って笛を口に当てた。

その時、とても綺麗な旋律がメリルの笛から出た。

その音はとても神秘的ででも心をくすぐるような音色だった。

「久しぶりだからあんまり出来ませんでしたわ。」

「……わぁ・・お姉ちゃんすごい!」

「ふふ…。」

メリルは楽しそうに会話をしている。

「でもお姉ちゃん、それここのと違うよ。」

「ごめんね、ここの知らないの。今度教えてね。」

「うん!」

メリルは兄弟たちに手を振り笑顔でヴぇッシュの元へ帰ってきた。

「すみません、遅くなって。」

「ううん。大丈夫だよ。驚いたよ、キミがあんなに綺麗に吹けるなんて。きっと僕なんか音も出せないよ。」

「子供のころあの子達みたいに練習したんですの。そりゃもう必死に。ちゃんと吹けないよ屋台に乗せてもらえませんでしたから。」

「やたい?」

「おみこしと少し違うんですの。なんてゆうんでしょう…。二階建てで人が引くんですのよ。私の街のお祭りは本町のお祭りもあるんですがそれと違って一部町内でやるお祭りなんですの。小規模なお祭りですけど楽しかったですわ。」

メリルの顔はとても輝いていて楽しそうだ。

「そんなに楽しいんだったら僕もやってみたいな。」

「今度お囃子なら教えてあげますわ。」

「お手柔らかに。…そーいや今日は夜宮があるってきいたけどどう?一緒に行かない?」

「そうですね…いいですわよ、行きましょう。」

「よし!じゃあ一旦ホテルに帰ろうか買い付けも終わったしね!」

「保険屋さ〜ん!準備できた〜??」

夜になりヴァッシュはメリルの部屋の前で待っていた。

外はいろいろな店が出、にぎわっている。

「すみません、お待たせしました。」

メリルが出てくるとヴァッシュはその姿に驚いた。

「ほ、ほけんやさん……?」

「あの…似合いませんか…?」

メリルの姿は下地の色が藍色で柄は桃色の桜、帯は黄色の浴衣姿だった。

「似合うよ!すっごく綺麗!」

「…ありがとうございます…。行きましょう。」

メリルの浴衣姿にヴァッシュはちょっと戸惑っていた。

二人は夜の街に行く。

「あっ!金魚すくいですわ!」

街に出るとメリルは水を得た魚のように動いている。

「うわぁ!ちくしょう!!また逃げられた…!おじちゃんもう一回!!」

「へへ〜まいど、兄ちゃん。」

ヴァッシュはメリルにいいところ(?)を見せようと金魚すくいをやり始めもう20回もやっている。

「だ―――――ッッ!!どーしてつかまらないんだ――――!!!」

これで21回目。さすがにキレそうなヴァッシュを見かねてメリルが言った。

「紙のところで採ろうとするからいけないんですわよ。おじさん、一回お願いします。」

「あいよ。嬢ちゃんがんばれや。」

普通は帰ろうなどというはずのメリルはヴァッシュに変わって金魚すくいを始めた。

「こういうのは枠のところを使って…。」

ぴょんっと金魚がはねメリルのお椀の中に入った。

「うわぁお……!」

ヴァッシュは歓声を上げるしかなかった。

結局メリルはあのあと店の金魚を全部すくいその中のかわいい目出金と普通の赤い金魚をもらった。

二人は帰り道でいろんなことを話している。

「保険屋さんすごいね。全部すくうんだもん。」

「昔、母方の祖父がよくお祭りに連れて行ってくれたんですの。」

「そのおじいちゃん、優しかった…?」

「・・ええ。祭りの楽しさを熱く語ってくれましたわ。『祭りは悲しいことを忘れさせてくれるんだよ。それに……』と言っていたのをよく覚えてます。この続きは聞き取れなかったんですの。」

いつしか街の灯りも消え、辺りは闇が姿を現し、空には三つの月がヴァッシュたちを照らしている。

「…今日は楽しめた…?」

ふいにヴァッシュはメリルにたずねた。その顔がやけに悲しく懐かしそうだったから。

「…そうですわね…少し悲しくなってでも楽しくて…それでもヴァッシュさんがいたから楽しかったですわ…。」

メリルはこっちを向いて微笑んだ。

「…うん…僕もだよ。」

「さぁ、帰りましょう…。」

メリルはヴァッシュの前に手をかざしヴァッシュもその手をとった。

月の光の中で道に映る影は手をつないでいた。
ふとメリルは祖父の言った言葉を思い出し頬を赤く染めた。
『それに―――

好きな人と一緒に行くと幸せになれるんだよ。わしとばあさんがそうだからの』

Fin
あとがき〜〜。

改装に伴い、久しぶりに読み返してみました…。めちゃくちゃ下手やな、自分(滝汗)

ま、若いころの記念としてとっておきます。

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