絃を紡ぎ 奏でる
声が聞こえない いつもあたしを叱り飛ばしてくれる声が
聞こえない あたしとを繋ぐ絃が切れてしまったみたいに
奏でる音が
聞こえない
テンとソラたちがストロスを発つ前のほんの数十分。 ドリスはもう現れることのない、扉の場所に居た。 昨日のように、膝をつき、地面を見つめる。 あんなに出たはずの涙が、また出てきた。 「―――バカ、バカ。…カデシュのバカ。」 一筋だけ、頬を伝って、カデシュから借りた紋章に落ちた。
瓦礫の間から、一輪の赤い花が咲いていた。 それが、紋章の真ん中にある宝石のようで。 そう思うと、回りのふちは彼の髪の毛の色に似ていた。
「あたしは結局…あんたのなんだったのよ。またあんたの勝ちじゃない…あたしをこんな気持ちにして。……聞こえなくなったのよ?音が…。」
いつかの夜。 二人で踊った祭りの音楽。
あんたの声。 あたしの声。 あたしを呼ぶ声。
全てを奏でる音。
「…どうしてなのかなぁ…きっと、答えはあんたしか判らないのよ、カデシュ。」
今まで紡いだ絃が 切れた 切れたけど 切れて悲しいけど あんたは戻るって 帰るって言った。
あたしたちはまた 切れた絃を 紡ぎなおせば いい。
だから。
「―――早く、帰ってきなさいよ、カデシュ。」 目元を拭い、勢いよくドリスは立ち、背を向けて歩き出した。
風に群青色の髪の毛がなびく。 一輪の赤い花と同時に、胸元の紋章も揺れた。 fin. |
|||||
あとがき
初めて書いたドリス→カデシュ(笑)うーん…やはり5やるべきか…。 読んでくださいましてありがとうございます。 2004 10 1 伊予 |
|||||