愛しきディライラ

書いた人 LOA

プロローグ
 てっくてく……
 今日もあおぞら、ルナル晴れです。
 そんなお日様のなか、サリカさまのしんでんから続くとおりをひとくみの姉妹が歩いておりました。
 今日はお仕事もないので、ゆっくりお散歩してみよう。と、どちらが言ったのかはわからないんですが。
 とりあえず、てっくてく……と、そのとき。
「あ、ミュー?」
 呼びとめるお姉さんの声もとどかないのか、とつぜん小さなほうの女の子がかけ出しました。
 そのままモノスゴイ速さで小さくなっていきます。
 そして、すぐそこにいた大きな鳥さんのはいごをとり……
「社長さん、こんにちは〜」
 がしっ!
「ぐあああああああ」
「こんにちは〜」
 ぶらぶら。
 あいさつといっしょに抱きつきました。だきついたうでで、首がぎゅーっとなっていたりするのですが。
 まあ、そんなことはともかく。
「しゃ、社長さん。少ない余命は大丈夫ですか?」
 ミューちゃんを追って、お姉さんのほうがあわてたようすでやってきました。
「ぐ……あ……あ……ああ」
 と、社長の鳥さん。言葉になっていませんが、首にぶら下がっているおんなのこを指さしています。
 とってくれ、ということかな。
「あ、はい。ほらミュー、社長さん、もう白目むいちゃってるよ」
「……つまんないの」
   しぶしぶと、ぎゅーっとしていた首をはなします。
 社長さんは少し、ぜーはーぜーはーとしてからこう言いました。
「……ふふふ、おじさん……寿命が縮まっちゃいそうだよ」
「……つまんないの」
 まだ少しふまんそうなミューちゃん。危険です。社長さんのせすじがぞくっとしたみたいです。
「あ……何かはがれてますよ?」
 お姉さん────言いおくれましたが、カノンさんといいます────が落ちている紙を拾いました。
 ワレマトヲイタリ、といったような表情でそれにこたえる社長さん。怖いんでしょうか、やっぱり。
「うむ、ショウギョウヨウのケイジバンのところにムダンではってあったんではがそうとしたら……」
 しかし、はがそうとしたら……のところで、がしっと羽が。
「……」
 ミューちゃんが社長さんをじーっと見つめています。
「…………」
「…………」
 じーっと。
「…………」
「…………」
 ……にやり。
「はがそうとしたら、どうしたんですか?」
「……い、いや、なんでもない。ええとな……」
 見てはいけないものを見てしまった気がする社長さんでしたが、こんなことでくじけていては、社長はつとまりません。せつめいをつづけます。
 かくかくしかじか。
「ふーん、そうなんですか……」
 はりがみに目をおとすカノンさん。さっきのムヅカシイ言葉がぜんぶわかったんでしょうか。
「無断で……」
 かなりまるまった文字で、ねこをさがしてください、と。そんなことを書いていました。
 よく見ると、道のあっちこっちにはられているものと、おなじ紙みたいです。
 ……あ、なんか、目がアヤシイかがやきを見せて……
「子供がこんなに必死になるなんて……放って置けません!ぜひ見つけてあげましょう!!」
 というわけで、おやすみの日にもぼうけんのつきないもりきばなのでした。


主な登場人物
<片足>のロイ・ライトアイズ
 ミュルーンなまりのない梟族ミュルーン。片足の猛禽。
 血に受け継がれた夜目とボケは他者の追随を許さない。
 通称「社長」なみんなの人気者。

アトリー=トゥークルティア
 初登場で今回の遅刻魔。かつ家出娘と、三文字熟語を三回も使わせてくれてありがとう。
 シャストア信者で髪の長いキャラはヒロインというルナルの掟を、今回見事に守りとおした。

カノン=ギャザとミュー=ギャザ
 神殿住まいのサリカ信者の姉妹。小さな子供に見せる優しさは天涯孤独の身ゆえか。
 妹のほうが立場が強かったり強くなかったり姉のほうが料理が下手だったり上手くなかったり。

 ■依頼内容
「こねこをさがしてください」
 丸まった文字で書かれた、一つの(とは言っても、あちこちに貼られているのですが)張り紙。
「メス:オータネス産短毛種の白猫:首輪にディライラと書いてあります。見つけた方には150ムーナ差し上げます」
 張り紙の下の方に書かれた、こちらは丁寧な字。

 ……森牙お人よしメンバーが捜索に参加するのは、言うまでも無かったそうな。

 以下、プレイレポート。
 ・ロイ(以下社長)の経営する商社に無断で貼っていた一枚の紙(内容は上記参照)を彼が剥がそうとした時、街を散歩していたカノンとミューに出くわす。少し雑談の後、張り紙の内容を確認するなりそれを引ったくるカノン。
  二秒後には何か使命感に燃える彼女を見ることが出来るがそれはまた別の話。

 ・早速飼い主の家に直行。道中は何事も無く過ぎ去る(近いので当然なのですが)。
  扉の前から声をかけると、すぐに家の人らしい女性の姿が。どうやら玄関で話をしていたらしい。

 ・その玄関で話をしていたらしい人(アトリー)はギャザ姉妹の知り合いのようだ。とてとて近づくミューと、笑顔で迎えるアトリー。
  彼女と社長は初対面なので、お互いに自己紹介など。
  ニヒルな笑みを浮かべるもミュルーンにしかわからないような仕草らしく、少し寂しそうな社長。(筆者の妄想)

 ・「立ち話もなんですから……」と応接間に通される。その間家主の女性がミスかミセスかで悩む社長。
  思いきって訊ねるとミスであることが判明し、胸をなでおろす社長。何か嫌な事でも有ったのか。
  そのときに彼女も自己紹介を。シェリル=ジールックと言う名前らしい。

 ・応接間に到着。品の良いものや可愛らしいもので満たされた室内に森牙子供メンバーを放りこむのは如何かと思ったが、何とか調度品の平和は保たれる。

 ・数分後、小さな少女と共にお茶とお茶菓子を持ってシェリルさんが戻ってくる。
  シェリルさん曰く、「詳しいことはこの子から聞いてください」と。
  カノンが優しく話しかけると少女もおずおずと話し出す。名前はベルで、年齢は6歳とのこと。(何かGMが力説していた)

 ・ベルちゃんが話したのは以下のとおり。途中で涙顔になったりしましたが、頑張りました。
  「三日前、猫のディライラにミルクをあげようと近くの空き地に探しに行ったが見つからなかったこと」
  「ディライラは普段は家の中に居ること。でも時々近くの空き地に遊びに行くこと」
  「赤い首輪と鈴をつけていること。首輪に住所と名前が書いてある」
  「ごはんの合図として、小さな鐘を鳴らすこと」

 ・アトリーとある約束をして、何とか笑顔になったベルちゃん。指切りしたときにカノンが過剰な反応をみせるが何故かは秘密。

 ・とりあえず、手近な空き地から捜索を始めることに。
  空き地には土管が3つ有るわけではなく、建築資材などが剥き出しに。何かが建つ予定だったらしい。
 「猫を探す呪文」なんて都合の良いものは無く(≪生命感知≫と言う呪文が役に立ったかもしれないが、誰も覚えていなかった)
  足で探すことに。≪動植物知識≫で判定するも、見事に全員失敗。と言うよりは誰もその技能を持っていなかっただけである。

 ・そんな中、微かに猫の声を聞き取ったカノンが耳を澄ますと、確かに鳴き声が近づいてくる。
  純白の毛並みに赤い首輪をした猫。多分ディライラに間違いは無いだろうと判断。
  犬の鳴き声や何だか分からない鳴き声が聞こえたことは気にしないことにする。この際。
  社長さんが巨大な猫を妄想したことも気にしないで。お願い。

 ・鳴き声の方向を見ると、白い小さな猫がふらふらと近づいてくる。怪我をしているらしい。
  それを視認したとたんに≪べたべた≫の呪文に集中するカノンだが、15メルー(メートル)離れているのに気付き集中を解く。
  しかし、詠唱に入っていたのでディライラも警戒モードに入る。うあ。
  この時点で全員がディライラに気付く。

 ・「ディライラ、もうおうちに帰ろうよう……」と言うベルちゃんの呼びかけにもなかなか答えないディライラ。
  そんな降着状態に終止符を打つべく鐘を鳴らすアトリー。それを聞いてふらふら〜っと近づいてくるが、ある一点を見て停止。
  猫からの視線をたどると────────────そこには社長(梟族ミュルーン)が。

 ・みんなの視線に堪えかねて、その場をこそこそと去る社長。嗚呼、何か不憫だなあ。

 ・社長が居なくなると、てんてーんとベルちゃんに向かって飛び込むディライラ。
  傷を治したり、ミルクをあげたりしている三人と一匹を、そのあたりからハンターの目つきで見ている寂しげな社長。

 ・ディライラの傷は引っかき傷……しかも猛禽類にやられたような……そこでカノンが≪敵感知≫の呪文を使い、反応が。
  まさか社長!……流石にこれ以上はかわいそうなので止めるとして。

 ・真犯人はこのあたりの縄張りを仕切っているらしい、ものすごく貫禄のある親分猫。
  にらみつけると「チッ」とか言う感じで去って行く。これで原因も判明。

 ・ディライラを連れてジールック家へ。
  一匹だけで外出させないように、とシェリルさんに事情を説明。猫用のドアはディライラが大きくなるまで閉める方向で。
  パーティみんなにお礼を言うベルちゃん。特にアトリーには満面の笑みを……だって奇跡を起こしたから。

 エピローグ

「ありがとう!アトリーおねえちゃん〜〜〜〜〜!」
 扉の前でちぎれるような勢いで手を振っているベルちゃんに、手を振り返してあげる。
 お世話になりました、とお辞儀を繰り返しているシェリルさんにも会釈を返しておく。
「あ、ディライラちゃんまでお礼を言ってますよ。にゃ〜〜って」
 少し疲れた顔をしているけど、嬉しそうな顔で隣のカノンちゃんがこう言う。
 そのお礼を聞きながら、こんな小さなお話でもちゃんとした物語になるのかな。とか思っていると、社長さんの嘴が目に入った。
「ご苦労様。社長さん。でも驚いたよ、ミュルーンってお金にうるさいって思ってたから」
 報酬を受け取る時に「このお金を窓の改造費に使いなさい」とシェリルさんに返したのは、社長さんだったから。
「ひゅーひゅー、社長。かっこいい!」
 後ろから社長さんに抱きつきながら、ミューちゃんが。
「150ムーナですからなあ……さすがに受け取る気にはなりませんでしたよ」
 私から見ると結構大金なのだけど、やっぱり一社を持つ立場からだと違うのだろうか。
 ちょっと違う意味で、こっちも受け取る気にはなれなかったのだけど。
「300ムーナだったら?」
「返しましたよ、そのくらいは」
「500ムーナは?」
「……ちょっと考えます」
 みんなが笑い出す。
「……正直だね」
「まあ、ミュルーンですから」
 とりあえず、私の知っているミュルーン観をそんな大幅に変える必要も無いみたい。
「うーん、でもちょっとだけ可哀想かな」
「誰がです?」
 何となく一人ごちた言葉に、カノンちゃんが反応してくれる。
 少しだけ微笑んで、少しだけ小さな声で言葉を返す。聞こえないよーに。
 大人たちに使われる事のなくなった空き地で、楽しげに遊ぶ一人と一匹の姿を見るのはそう遠い日のことじゃ無さそうだ。

参加キャラクター参加プレイヤー
<片足>のロイ・ライトアイズいずみの
アトリー=トゥークルティアLOA
カノン・ギャザフイム
GM黒光

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