騎士と従者のTRPGよもやま話
香川県・上田洋一
今回のテーマ:ストーリー・テラー型の落ちる穴と脱出法
従者「どうして我々には名前がついていないのですか、ご主人様?」 騎士「それはな、レパントの海戦で負傷した作家の小説を筆者がまだ読んでいないからじゃ」 レパントの海戦:1571年にスペイン海軍がレパントでオスマン・トルコ海軍を破り地中海の制海権を掌握した戦い……などと発言するとシミュレーション・ゲーマーや戦史マニアに笑われるので注意するように。実際にはヴェネチア・ローマ法皇・スペインの連合軍であり、スペイン軍は大して活躍していない。また、この海戦後もオスマン・トルコが制海権を奪われることはなく、この大帝国が衰退するのは17世紀後半以降のことである。詳しく知りたい人は塩野七生の「レパントの海戦」を読んで下さい。 従者「ストーリーテラー型マスターって一本道のシナリオを作る傾向がありますからね」 騎士「うむ、まあアドリブ能力のあるマスターなら問題はないのじゃが。そーでないマスターの場合、プレイヤーはかなりきついものがある。『選択の自由』がない訳だからの」 従者「ではどうすれば良いのでしょうか」 騎士「『因数分解』じゃな」 従者「は?今、『因数分解』と私には聞こえましたが?」 騎士「その通りじゃ」 従者「ご主人様、この記事は数学とは縁も何もないということがないという気がするのですが……」 騎士「比喩表現じゃ。そのくらい分からぬか、たわけ!つまりじゃな、ストーリーテラー型マスターは『数学』や『整式』に相当する、いわゆるストーリーをこしらえただけで満足してしまう傾向がある。これでは、一本道にならない方がおかしい」 従者「そんなことを言っていると『ファイナル・ファンタジー』の立場はどうなるんですか?」 騎士「……コンピューター・ゲームの話を持ち込むではない!それにあのシリーズはよくできた『映画』を鑑賞する、とでもいうべきスタイルを採用していると解釈すべきじゃ」 従者「それで、『因数分解』というのは何なんですか?」 騎士「つまり、ストーリーを決定した後、それを一度バラバラにして『構成要素』を抽出するのじゃ。そして、それらの関係を整理して『網の目』状に再構築する。これが『因数分解』の正体じゃ」 従者「あのー、数学でいうところの『因数分解』とはまるで違う気がするのですが……」 騎士「比喩表現じゃとさっきも言ったであろうに。おぬしの頭はトコロテンじゃな」 おぬしの頭はトコロテン:故手塚治虫の作品の一つ「三つ目が通る」に「のうみそをトコロテンに変える機械」が出てくることに由来するセリフ。しかし、本当に脳をトコロテンに変えるとたちまち脳死状態に陥るのではなかろうか。 騎士「まぁ、しかし、この『因数分解』法を行っても『無限の選択肢』が生ずる訳ではないのじゃ」 従者「じゃぁ、ここまでえんえんと語り続けていたことは一体どうなるのですか?」 騎士「そなたはわしが『因数分解』法を否定したとでも思っているのか。わしはその限界性を指摘したまでじゃ。TRPGのセッションにおいて、現実世界同様に『無限の選択肢』を持ちこむと収拾がつかなくなるからの」 従者「『GS美神極楽大作戦』のアシュタロス編のように、ですか?」 「GS美神」のアシュタロス編のように:椎名高志(小学館)の漫画のこと。 アシュタロス編は29巻から35巻まで続き、完結後美神令子が「途中から収拾がつかなくなった」とこぼしていた。作者の本音であろう。 騎士「うむ、まぁ、そうじゃな。しかし、『制限された選択』であることを気づかれてはならん」 従者「今度はマスタリング論ですか?」 騎士「そーゆーことになる。例えば、PCが国家的陰謀に関する情報を都市の一般人に尋ねたとする。ここで、マスターが『そんなことはできねーよ』と片付けるとプレイヤーの士気は低下するじゃろ」 従者「そうですね」 騎士「そのためには、アドリブ能力の低いストーリー・テラー型マスターは『いつでも出せる情報提供/助っ人NPC』を準備せんといかんのじゃ」
(やっぱ「ゴジラ」シリーズはモスゴジが一番なので続く?)
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