執事と愉快な男性使用人達

 注・この記事では18世紀から20世紀初めまでのイギリスの男性使用人を中心に扱っています。筆者の力不足で他の諸国の男性使用人に関しては手が及びませんでした。

 プロローグ:2つの執事漫画

 ユーリ「流行ってますね、執事漫画。執事ライトノベルや執事ゲームは多過ぎてもう筆者ではカバーできませんよ」

 バレリア「ただ、その内、特に有名なものを紹介する必要はあるやろな。それにしても・・・」

 ユーリ「それにしても?」

 バレリア「筆者はメイド漫画の傑作『エマ』をいまだに読んだことがないんよな」

 ユーリ「デンマーク映画の『エマ』観てるからいいじゃないですか」

 バレリア「『いいじゃない』やない!」

 デンマーク映画の「エマ」:1988年制作。日本での公開は1991年。主演は天才子役(当時)リーネ・クルーセ。監督は「ミフネ」(1999年)でも知られる(かどうかよく分からないが)セーアン・クラーグ・ヤーコプセン。高飛車な金持ちのお嬢様が狂言誘拐を目論む映画。メイドは出て来るが、執事は登場しない。ちなみに筆者はこの映画をまだ13回しか見て(観て)いない(2007年11月現在)。

 バレリア「まずは畑健二朗(はた・けんじろう)作『ハヤテのごとく!』(小学館)。『愛と流血の執事コメディー』やな。2007年11月現在で単行本は13巻まで出とって、TVアニメはテレビ東京系列で2007年4月から放映されとる。もっとも、広島県の場合やと放映は9月1日以降やそうやが。1億5千万の借金を両親に背負わされた少年がそれを肩代わりした自尊心の高い富豪の少女に拾われてpage(後述)同然の使用人となり、時には護衛で死にかけたり、時には女装を強制されたりして債務返済に励む姿はまさに人の心を打つものがある」

 ユーリ「別の何かを打ってるような気がしますが・・・。第一、『ハヤテのごとく!』は暗い話じゃないでしょ。ぴちぴち17歳でメイドと称しているマリアさんは実際には腹黒ではなく純真ですし、本質はラブコメ要素入りのギャグ漫画に近いですし」

 バレリア「ほな、あんたは関西弁と『はるき用語』(例・可愛さ余って半殺し、仏の顔も百八つetc)を一切使わずに『じゃりン子チエ』第1巻のストーリーを紹介して『笑える漫画』と信じてもらえるのと同じくらい、あの執事漫画の展開をネタ抜きで説明しても楽しいものだと誰もが思ってくれると考えとるんか?それに、あの漫画の人間関係はやや重いのを否定するんか、この宿六」

 ユーリ「・・・分かりましたよ・・・。で、枢やな(とぼそ・やな)のある意味でコメディーな『黒執事』(スクウェア・エニックス)も押さえておくべきですね?」

 バレリア「特にボーイズ・ラブ系に抵抗感ない人とかショタとか眼帯フェチなら楽しめるやろう」

 ユーリ「眼帯フェチなんているんですか?」

 バレリア「実際、いる。数は少ないと思うけんどな。で、『黒執事』というのは2007年11月現在で2巻まで出ていて、一種のパラレルワールドとしてのイギリスが舞台になっとる。何しろ、通りにガス灯があるのに登場人物は携帯電話を使っとるから。主人公はファントムハイブ家の当主に使える超絶万能美形執事セバスチャン・ミカエリスで口癖は『執事たる者、これくらいできなくてどうします?』や。実は口癖はもう1つあるんやけど、展開をばらすことになるけえここでこらえとくわ。ほいでもって当主シエル・ファントムハイブ君は眼帯の男ヒロイン」

 ユーリ「男ヒロインって何ですか?」

 バレリア「単行本を読めば分かるわい。そして、『黒執事』は女性ファン、ことに腐女子の方々に愛されとるらしい。それでや、ドラマCDでは森川智之(1967年生まれ。「剣風伝奇ベルセルク」でグリフィス、「犬夜叉」で奈落を演じた)がセバスチャン役やそうや。それから、どうでもええことやけど、『ハヤテのごとく!』にも『黒執事』にもクラウスという名前の中年男性が登場する」

ユーリ「佐藤大輔の『皇国の守護者』(中央公論新社)にもクラウスという男性は出て来ますよ」

バレリア「やかましい」

「皇国の守護者」:高松市中央図書館とその分館(香川県)には2007年11月現在で9巻までそろっている。そういや、「地球連邦の興亡」も4巻までそろっていたな。誰だ、犯人は。

 本編〜その1・日本人の考える「執事」はbutlerではない

 バレリア「はい、ここ重要やで。日本人が英国文学を読んだりして想像する『執事』はbutlerちゃう。house steward(ハウス・スチュワード。単にstewardと称する場合もある)がそれに近い。日本語訳やと『家令』なんやが、この言葉は古い言葉やからワープロ機能で一発変換できないことがある、とぼやいとる英文学研究者もおったな。ただ、すべての貴族がhouse steward雇うたんとちゃうで。かなりの場合、butlerがその代役を務めていたようや」

 ユーリ「で、house stewardって何が仕事だったんです?」

 バレリア「カントリー・ハウスやマナー・ハウスと呼ばれる貴族の邸宅の管理・運営やな。それに公的な手紙を書くこと、荷造りの監督(よほど重大な場合はhouse steward本人が荷造りする)、旅回りの劇団への支払いなんかも大事な仕事。使用人の人事もhouse stewardの管轄や。つまり、『家事に関する主人の代理』というこっちゃ。古代ローマで言うなら『アトリエンシス』(奴隷頭)に近いかな。そんでや、地位の高い使用人なんで個室も与えられとる。また、house steward専門のパブもあったらしい」

 ユーリ「ほお、そうかい」

 バレリア「『刑事コロンボ さらば提督』のつもりか?そいでや、house stewardは他にも特権を持っとった。ダンス・パーティーの際には奥様と最初に踊る権利があったんじゃ!さらには奥様付きメイドの結婚パーティーも主催したそうや。ついでに言うと、今では旧語になった『スチュワーデス』という表現もここから生まれとる。また、アメリカ海軍では将校宿舎担当下士官のことをstewardと呼ぶそうや」

 「刑事コロンボ さらば提督」:旧コロンボ・シリーズで唯一、コロンボが追求していた容疑者が真犯人に殺害される作品。「ほお、そうかい」はクライマックス・フェイズで容疑者(の1人)が言うセリフ。

 ユーリ「やはり日本人は『執事』と聞くと高師直(?〜1351)を連想するんですよ」

 高師直:足利尊氏(1305〜1358)の執事。「太平記」ではかなりの悪役。それもあってか歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」での悪役、つまり吉良。

 バレリア「ちゃうと思うがなあ」

 その2〜butlerとその他の男性使用人ズ

 ユーリ「butlerの仕事とその待遇なんかは・・・」

 バレリア「house stewardが存在しない場合はその代役、存在する場合はワインをはじめとする酒類の管理が主な役目になる。butlerの語源はbotller(酒類管理者)やし。イギリス史ではbutlerは『宮内省酒類管理官』を意味する。それだけディナーなんかで飲まれる酒が重視されていたいうこっちゃ。ただ、それを悪用して(?)ワインをちょろまかす奴もおったらしい。で、必然的にbutlerはワインの清澄法、ビールの醸造法を心得とる。そして、butlerは原則的に独身で『紳士である』ことを要求されとった。で、house stewardと同じく、個室を与えられていたとのこと。場合によってはbutlerにはbutler付き召使いが存在することもあった。時には専属のメイドがおる場合もな。それから、彼らは多くの場合、経験を積んだ年輩者であることも要求されたようやの。『butlerは貴族の子弟がなる職業だった』と新紀元社の本にあったが、筆者が調べた範囲ではその通りなんかどうかは確認できなんだ。ただ、最下級の使用人から20年以上かかってbutlerになった男性もおることもあげておく。ほいでや、彼らはお仕着せではなく、フォーマルな服を着用しとった。『執事服』なんて無かった訳や。それから、他の使用人や主人の未成年の子供らには姓で呼ばれるという特権もあった。ちなみに年棒は現在の日本円に換算すると1000万円強。しかも、住み込みの使用人なんで衣・食・住はご主人様の負担となる」

 ユーリ「女性butlerは?」

 バレリア「おらん!女性召使いの頭目はhousekeeperやな。一般的には『家政婦』と訳される。『召使いの中の王様、女王様』というのがイギリスにおけるbutlerとhousekeeperの位置付けやとも言われる。『ハヤテのごとく!』のメイド、マリアは執事長クラウスの給料に口出ししたりSPに命令じみた指示を与えていることから察するにhousemaid(一般メイド。かなり地位の低い使用人。19世紀以降は主として部屋の掃除を受け持つメイド)でもparlormaid(食卓の整理や給仕を担当するメイド。これもやはりかなり地位の低い使用人)でもなくむしろhousekeeperに近いの」

 ユーリ「三千院家のSPは全員男性だったと思うんですが・・・」

 バレリア「あいつら全員メイドガイやと思たら問題ない」

 ユーリ「ありますよお」

 メイドガイ:「仮面のメイドガイ」(赤衣丸歩郎・作 角川書店)のこと。実写映画化望む(やる気のない口調で)。

 バレリア「ちなみにparlormaidよりhousemaidの方が地位が高いようやね。まあ、ドングリの背比べなんやけど。では、butler並みに偉い、というかbutlerが入っていけん男性使用人、それはchef(料理人)。これはイタリア人やフランス人が多い。やはり18世紀の頃からイギリス料理はまずいとイギリス人自らが認めていたようや。トンデモな説としては、イギリス料理がまずいのは『男性が海外進出に熱心で味のことに気を配らなかったからだ』とか『貴族の赤ん坊が貧農出身の乳母から乳をもらったからだ』とかいうのがある。もっとも、『ミセス・ビートンの料理読本』の同人誌をもとにケイジャリーを作った筆者はその見解に不服なようやが」

 「ミセス・ビートンの料理読本」:1861年にイギリスでベストセラーになった。「ケイジャリー(Kedgeree)」はこの「料理読本」の同人誌に紹介されていたカレーの炊き込みご飯。しかし・・・どんな分野でも同人誌は作られるんですね。オタク文化万歳(少々語弊あり)。

 バレリア「映画『宮廷料理人ヴァテール』を観た人ならバーチャルに実感できる(?)やろうけど、フランス料理では『隠し味』という理由でぎょうさんの食材を使う。これがイギリス貴族には我慢ならんことやったらしい。なお、chefの年棒は場合によってはbutlerを上回る」

 映画「宮廷料理人ヴァテール」:‘太陽王’ルイ14世時代の料理人ヴァテールの奮闘を描いた作品。2000年の仏・英合作映画。制作・監督:ローランド・ジョフィ。主演:ジェラール・ドバルデュー。料理バトルはありません。

 ユーリ「で、その下には?」

 バレリア「chefの下というよりはbutlerの下位クラスなんやけどvalet(ヴァレット。従者)がおったそうや。『紳士付き紳士』とか言われて、主人に常にベタ〜とはりついて時には敬遠されることもあったとかなかったとか」

 ユーリ「同性愛はイギリスではご法度じゃなかったんですか?」

 バレリア「うちはそーゆー意味で言うたんとちゃう!valetは御主人の生活のあらゆる面、朝起きてから服を着せて化粧をさせてカツラをつけさせて旅行先ではベッドのノミ駆除や通訳や鉄道が普及してからは時刻表チェックしたり・・・と実際的なことは何もできない貴族様のためにおはようからお休みまで尽くさんとあかなんだ。古代ローマの『ノーメンクラトール』に近いかのう」

 古代ローマの「ノーメンクラトール」:執政官(コンスル)等の選挙期間中の情報通、現代風に言えば「後援会会長代理」を務めたり、宴会の席順を決定したりする「従者」。「ノーメンクラトゥーラ」の語源とされる。

 ユーリ「何だか、全然楽しそうな仕事じゃないですね」

 バレリア「いやいや、上級使用人やけん、給料は高いぞ。個室ももらえるし、時にはbutler代わりになるし。食事かてbutlerやhousekeeperと同部屋や。それに、valet専門のパブもあったそうやぞ。まあ、主人と常にいっしょやけに他の使用人から警戒されることもあったらしいが。ついでに言うと、『黒執事』のセバスチャンはbutlerというよりはこのvaletに近いな。作中、そう記された手紙を受け取るシーンもあったし」

 ユーリ「うーん、やっぱり楽しそうじゃない・・・」

 バレリア「で、valetの下位にくるのがfootman(従僕)やな。これは御主人様の護衛役。とにかく体力・忠誠心・敏捷性が問われたそうや。さらに容姿端麗、身長6フィート以上というのも重視されとる。ちなみに服はお仕着せ。『執事服』はなくても『従僕服』はあったちゅうことや。19世紀以降には石炭運びという重労働も強いられた。それから、馬車が水たまりに入り込んだら奥様やお嬢様を安全に降ろして差し上げるという重大な『任務』もあったとか」

 ユーリ「『お坊ちゃま』はどうなるんですか?」

 バレリア「ん?・・・筆者の参考にした文献にはないようやな〜。ま、『男の子はどうでもええ』ではなかったと思いたい、というのが筆者の見解みたいや。それで、footmanというんは『下の上』か『中の下』ぐらいの召使いなんでbutlerやvaletのような個室はなく、かなり主人にこき使われたとか。もし主人が夜更かしすると一睡もできないこともしばしばだったそうや。特にかわいそうなんは急ぎの手紙を届けたり、主人の馬車の前を走って先触れやらされた時やな。『running footman』と呼ばれたそうやが。ひどい時には一晩で100キロ以上走らされたfootmanもおったらしい。さらに呼び名もひどい。『footmanにはfootmanらしい名前がいい』という現代から考えると無茶な理由で、主人から『チャールズ』とか『ジェームズ』とか『ジョン』という呼称を付けられたそうや。一番年輩のfootmanは『チャールズ』となるんが普通やったとか。ちなみにこいつらには個室なんて無いから。階段の下とか地下室で他の男性使用人と雑魚寝な。まあ、普段ロウソク立ての世話してるんで残ったロウを売って副収入にするというオイシイこともあったそうやがな。それにfootmanは男前ばかりなので若い女性使用人からもてたらしい。むろん、使用人同士の恋愛は原則禁止なんやけど。年棒は7ポンド前後」

 ユーリ「じゃあ、綾埼ハヤテはfootmanなんですね?」

 バレリア「たぶん違う。pageやろな。これは筆者の持っている辞書だと『小姓。近習。給仕』ということになるんやが、footmanの下働きや下っ端召使いの少年がこう呼ばれたりしたそうや。ただ、最下級召使い少年はlamp boyとかいう呼称だった場合もあるそうやが。年棒は4ポンド程度やったらしい。ただし、これは18世紀の数字やけんな」

 その3・butlerの1日

 バレリア「butlerの朝は他の使用人より多少遅かったらしいが、それでもご主人様やその家族よりはずっと早くて午前4時ないし5時。まず、酒蔵のチェック。次に主人が読む新聞にアイロンをかける」

 ユーリ「新聞を仕立てて服にでもするんですか?」

 バレリア「新聞が濡れとったら嫌やろ?」

 ユーリ「そりゃま、そうですが」

 バレリア「主人一家の朝食がすんだら、午前8時から朝食。なお、飯には毎回ビール500ccがつく。11時にお茶の時間。正午に昼食。これが使用人にとってのディナーで、ローストした肉に野菜の付け合わせ、ライス・プディング、アップル・パイというのが相場。午後4時に再びお茶。夕食は8時か9時。寝る前(当然、深夜)には戸締りと暖炉・ランプの状態を確認」

 ユーリ「・・・butlerって早死にするんじゃないんですか?」

 バレリア「そのセリフを口にしたいうことは『週刊少年サンデー 2008年2・3合併号』を読んだのを自白したのも同然や」

 「週刊少年サンデー 2008年2・3合併号」:声優つながりで「ジャンクにしますよ」というセリフ(一応、寝言らしい)が飛び出したことを付け加えておきます。

 その4・男性使用人たちの黄昏

 バレリア「19世紀末期、すなわちヴィクトリア朝全盛期にはイギリスには150万以上の使用人がいたそうや。労働人口の16パーセントが使用人だった計算になるとも言われる」

 ユーリ「へー、じゃあbutlerだらけですね」

 バレリア「それがそうでもない」

 ユーリ「じゃ、メイドさんばかりですか、わーい」

 バレリア「実はメイドにとっては辛い時代なんやがそれはおいといて、男性使用人が比率の上では非常に減少した時代でもある」

 ユーリ「やっぱりメイドさんには勝てないんだあ、わーい」

 バレリア「1777年に北米植民地(現在のアメリカ合衆国)との戦争の戦費にあてるために特定目的税として贅沢税法が議会を通過したんや。『男性使用人は贅沢品だ!』ということでな。19世紀初め以降は軽減されたが、それでもこの税金は1937年まで法的には存続したそうや。1869年からは1人当たり15シリングやったらしい」

 1人当たり15シリング:1971年2月までは20シリングで1ポンドだったので、0.75ポンドに相当する。なお、1シリングは12ペンス。1クラウンは5シリング。1フローリンは2シリング。1ギニーは1.05ポンド。ヴィクトリア朝期には駆け出しの新聞社員の月給は9ポンド前後だったらしい(この額にはボーナスや残業代は含まれていない)。ね、19世紀末の15シリングは意外と大金でしょ?

ユーリ「でも、使用人は貴族や大金持ちに雇われてるんでしょ?少々の出費を彼らが嫌がりますか?」

 バレリア「それがなあ、18世紀終わりから地代で生活していた中小貴族が産業構造の変化で財政的余裕がなくなってきて男性使用人を大量に雇用するのが困難になってきたいうんが1つの原因や。19世紀初頭には女性使用人と男性使用人の比率は8対1やったのに1881年には22対1やったという研究もあるそうやし。17世紀なんかにゃ『台所には女性使用人は1人もいない』と豪語した貴族様もおられたようやが・・・。それに1840年代になっても『貴婦人(貴族ではなく富裕な中産階級も含まれる)が男性使用人を従えずにロンドン市中を散歩するのは恐るべきことだ』と真剣に言われたぐらいなんやが・・・」

 ユーリ「どーゆーとこですか、ロンドンって!?」

 バレリア「18世紀には犯罪王ジョナサン・ワイルドなんていうシンジケートの大ボスが実在したぐらいやからのう・・・って本題に戻るで!」

 ユーリ「はいな」

 バレリア「ぶっちゃけて言うと、さして豊かでない中産階級が産業革命にともなって激増し、彼らが『見栄を張るために使用人を雇用した』結果、税金のかかる男性使用人を避けたというのがもう1つの原因やな。なんせ、ミドルクラスの地位のシンボルとして『最低1人のメイドを雇う』のが当然という風潮やったらしい。ちなみにメイド達がお仕着せ、すなわち『メイド服』を着用し始めたのはこの頃から・・・って言わずもがなやな。ちなみに当時の写真を見るとメイドはたいがい不機嫌な表情をしとる。とにかく、男性使用人の天下はヴィクトリア王朝期に崩壊したと言ってええやろ」

 その5.1:TRPGに執事を出す場合(NPC)

 バレリア「NPCの場合、一番手軽な方法は『クトゥルフ』でやたらでかくて秘密たっぷりな館で何かを隠している執事を出すこっちゃ。あるいは主人が何か怪しげなことやってるのを知ってるんやけど、PCらには隠してるとか」

 ユーリ「別に家政婦が隠してもいいような気がしますけど・・・駄目なんですか?」

 バレリア「英語に『what the butler saw』という表現があるんや」

 ユーリ「はあ?」

 バレリア「直訳すると『執事の見たもの』、つまり『見てはいけないもの』という意味なんや。やから、butlerには『クトゥルフ』のキー・パーソンとしてのNPCが似合うと妄想する!」

 ユーリ「つまり、NPCのbutlerが『主人は死ぬ前は140ポンドだったのに、死体は280ポンドの重さだった』ことを秘密にしてるんですね?」

 バレリア「そりゃ、永井豪先生の『デビルマン』第1話やろが」

 永井豪先生:まさかレイザーラモンHGを主役にした探偵もの漫画を描いておられた(雑誌自体が既に消滅)とは最近まで知りませんでした。

 バレリア「それから、元butlerのパブ経営者なんてのもええな」

 ユーリ「一種の情報屋ですか?」

 バレリア「そや。butlerに限らず元使用人が退職後にパブをやるというんは実際に1つのパターンらしい。まあ、何もパブに限定する必要はないけんどな」

 ユーリ「宿屋とか料理屋とか製麺所とか?」

 バレリア「・・・最後のはちと違う気がするがまあええか。後はトンデモ貴族とその尻拭いに苦労する老執事(と男性使用人)の凸凹コンビ(もしくは集団)もありやな」

 ユーリ「トンデモ?」

 バレリア「自分が超能力者だと信じ込んでいる貴族とか、12匹の愛犬それぞれに対してわざわざ男性使用人に給仕をさせる貴族とか、グライダーを設計して御者をそれに乗せて飛ばした挙句に『自分は飛ぶために雇われたのではない』と苦情言われる貴族とか、吸血鬼でもないのに棺桶の中で毎晩就寝する貴族とか、美形の男性使用人を××しようとするばかりで遂に生涯独身だった男色貴族とか、強風が吹けば倒壊するようなええかげんな建物を趣味で作りまくる貴族とか、自分の顔を見た召使いをその場で解雇したがる貴族とか、全長300メートルに及ぶトンネルをきまぐれで使用人に掘らせる貴族とか、運動不足解消のために特製大型三輪車に真剣に乗る貴族とか。あー、もっとありそうな気がするけど、メンドくさくなったわ」

 トンデモ貴族:すべて実在した貴族である。なお、御者をグライダーのパイロットにしたのは航空機の歴史上重要な貴族:ジョージ・ケイリー(1773〜1857)である。彼は御者を飛ばす前に10歳の少年に滑空させている。

 ユーリ「執事と主人の凸凹コンビはPCでもできると思います」

 バレリア「ああ、なるほど。あんたにしてはマトモな発想や。PCの『足手まとい』がトンデモご主人様やそのボンクラ息子という訳やな」

 ユーリ「あ、それから辞書貸して下さい」

 バレリア「かまへんけど何するんや?」

 ユーリ「あ、これですよ。『No man is a hero to his valet』ってのがありますよ。『下男の目には英雄なし』ですね。valetは執事じゃないですけど、凸凹主従にはあてはまる表現じゃありません?」

 バレリア「トンデモ貴族としっかり者の召使いというとこやな。『マクベス』の鎧持ちを連想してまうわ」

 その5.2:TRPGに執事を出す場合(PC)

 バレリア「PCを執事にするならfootmanチックな執事やな」

 ユーリ「そーせざるをえないでしょーねー」

 バレリア「いきなりやる気をなくすな!」

 ユーリ「いやあ、もうしゃべり疲れて」

 バレリア「それからfootmanは複数おるんが史実でも普通なんで、footmanパーティも可能やな」

 ユーリ「footmanは男性でしょ?」

 バレリア「女も『man』や。文法上の問題はあらへん。それに現代日本は建前として男女共同参画社会やし」

 ユーリ「没落貴族の下でお家再興に努力するbutlerなんかはどうですか?」

 バレリア「オーケーやろな。というか、ごっつありふれたパターンやないか。うちとしてはbutler養成学校というのもええんでないかと思う」

 ユーリ「ただの学園モノじゃないですか・・・」

 バレリア「甘いのう、あんたは。butler養成学校は恐ろしいことに、実在する。日本にはないけどな。とは言っても現代のbutlerは秘書兼運転手兼護衛や。ちなみに執事候補生は空手も教わるそうやで」

 ユーリ「はあ、それならそれでよろしいんですけど・・・」

 バレリア「他に不服が?」

 ユーリ「女性butlerは?」

 バレリア「TRPGなら『特例として学長が認めた』でええと思うぞ」

 ユーリ「でも、女性butlerはいないって言ったばかりじゃ・・・」

 バレリア「ゲーム世界は現実世界を完全に無視して成立しないが、無理に現実に適応させるのはゲーム性を損なうやないか」

 ユーリ「確かにその通りですけど・・・」

 ユーリ「ところで、『RPGめおと漫才』シリーズ自体は一旦ここで終わりにしようと筆者が言ってます」

 バレリア「誰も見とらんのに、いまさら?」

 ユーリ「別のやり方でネット上に展開させるということも1度は考えたようですが、家庭と健康上の理由からそれは断念せざるをえませんでした。そのため、文芸同人誌の『鼎』や『函』にTRPG色抜きの評論ないしエッセイ、もしくは小説という形で発表するつもりでいるそうです」

 バレリア「『鼎』と『函』の方が余計誰も読んどらんぞ。第一、そんなんで『RPGめおと漫才』と言えるんか」

 ユーリ「言えないでしょうねえ。でも、筆者の事情では色々あってメールアドレスの設定すらリスクが高いですから、仕方ないです。そーゆー訳でしばしのお別れです」

 バレリア「ほなまたネット以外の場で会いましょう」

(これまでありがとうございました)
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