プロローグ〜最強防具?全裸鎧!
ユーリ「何ですか、この書き出しは?まさか例の『裸男』ですか?」
裸男:「新ソードワールド・リプレイNEXT 1巻」(監修:清松みゆき 藤澤さなえ/グループSNE:著 富士見ドラゴンブック)参照。「裸族」のことではない。
バレリア「ちゃうがな。ま、筆者もそれだけ気合が入っとるちゅうことや」
ユーリ「で、全裸鎧って何ですか?というよりそれは鎧じゃないです」
バレリア「ふっ、あんたは会津大好き作家の早乙女貢を知らんな。彼の『うつせみ忍法帳』(春陽文庫)を読めばええ」
早乙女貢:山本周五郎(故人)の門下生である1926年生まれの時代小説作家。一般的には徹底的な会津びいきで知られるが、筆者にとっては「エロティック忍者小説作家」である。「うつせみ忍法帳」は応仁・文明の乱後における忍者たちのセクシャルな活躍を描いた怪作。「水戸黄門外伝 かげろう忍法貼」(TBS。1995年放送。全16話)とは関係ないと思います、たぶん。
ユーリ「思い出しました。あのくの一ですね。日本刀を放り上げて素っ裸で駆けて来て、雑兵供が『押し倒したる!』と槍を放り出して殺到してきたところに上手いタイミングでくの一の手に刀が落っこちて来て、それを握り直してバッサバッサと切り倒すという……」
バレリア「敢えて物理的アーマー着用を無視して精神的アーマーをまとった訳や」
ユーリ「このまま話していると『けっこう仮面』に及びそうなので、ここらで本題に移りましょう」
「けっこう仮面」:筆者は幼稚園時代に親戚の家で読みましたが、当時は悪人らがけっこう仮面の格好になぜ興奮するのかよく分かりませんでした(笑い)。
1・ビキニ鎧誕生には3つの説がある!?
T・アメリカ40年代パルプフィクション経由説
U・アグネス・ラムのビキニ・グラビア経由説
V・「Men’s Adventure Magazines 」経由説ユーリ「はー、色々並べましたね」
バレリア「筆者が主としてネット上で渉猟して得たもんが大方やけどな」
ユーリ「ネット上でビキニ鎧、もしくはそれに類する情報を与えて下さった方々に感謝いたします。ありがとうございました。て、本当だったら少なくとも『笑いの文化人講座』の単行本を謝礼として差し上げることぐらいはしなきゃいけないんですけど……」
「笑いの文化人講座」の単行本:「タウン情報かがわ」(ホットカプセル)で2002年頃まで掲載されていた読者投稿コーナーの内容をまとめた本。芥川賞最年少受賞者(受賞時19歳)の綿矢りさも「笑いの文化人講座」が結構好きだというウワサがある。ちなみに、彼女が最年少記録を更新するまで「夏の流れ」で37年間それをキープしていた丸山健二は「芥川賞最年少受賞ネタでマスコミに取り上げられるのが嫌で嫌でたまらなかった」と語ったとか。
バレリア「まずは『ビキニ』の由来からやな」
ユーリ「あー、知ってます、知ってます。確か、1954年のアメリカによるビキニ諸島での水爆実験にちなんで命名されたんでしょ。『水爆なみにパンチきいてる』という意味で。第五福竜丸の乗組員が『死の灰』を浴びて亡くなるという惨事が起こったりしましたよねえ」
バレリア「あんたはうつけ者か?」
ユーリ「『ブルータス』ではないつもりですが……」
ブルータス:塩野七生「ローマ人の物語T」(新潮社)によると、ラテン語で「ブルータス」は元来「馬鹿者」を意味したそうだ。
バレリア「いわゆるビキニ水着の発明は1946年や。水爆とは関係ない。フランスのルイ・レアールという自動車エンジニアが母親の下着会社を手伝っていて考案したということになっとる。ま、同時期に同じタイプの水着が『ビキニ』とは別の呼称で開発されとるんやが」
ユーリ「なるほどお。ウィキペディアから丸写しですねえ〜」
バレリア「やかましわ。そいでやな、『ビキニ』という呼称は1946年のアメリカによるビキニ諸島での原爆実験にちなんだとも言われる」
ユーリ「やっぱり核兵器がらみじゃないですか!」
核兵器:「レッドサンブラッククロス」等で知られる佐藤大輔の小説ではなぜか「反応兵器」と表記されることが多い。
バレリア「シチリア島にある帝政ローマ時代のモザイク壁画には『ビキニ』によく似た服を着て運動する女性が描かれているんやが、水着かどうか筆者にはよお分からんそうや」
ユーリ「ほお、2000年近い歴史の重みですかあ。で、そこからどういう風に『アメリカ40年代パルプフィクション』に到達するんですか!?」
バレリア「あんたはもうちょい落ち着きまい。筆者がネットで調べた範囲では『パルプSF世界でのローマ帝国風味スペースオペラブーム』が『未来ファッションと中世ヨーロッパ風ファンタジー世界との混合したバーギー・アール・Kというイラストレーターの挿絵』につながり、『中世風ビキニ』が誕生したという説が紹介されとった」
ユーリ「でも、どうしてスペースオペラとビキニの相性がいいんですかね?」
バレリア「相変わらず、昨日九九覚えたみたいな面しとるのう。『スターウォーズ エピソード6 ジェダイの復讐』(1984)前半でのレイア姫の格好を思い出さんかい」
ユーリ「ああ、なるほど……」
「スターウォーズ エピソード6 ジェダイの復讐」:レイア姫がビキニ状の服を着ているシーンがある。それ以上は敢えて多くは語るまい。ただ、大昔の「ビッグコミックスピリッツ」で「戦艦は〜とても〜弱い〜、皇帝は〜とても〜軽い〜」という的を得た替え歌(?)が紹介されていたことは付け加えておく。
ユーリ「加えて、『コブラ』もビキニの似合う、というかビキニだらけのジャパニーズ・スペースオペラ・コミックでしたよね。じゃあ、『アグネス・ラム経由説』というのは?」
アグネス・ラム:ハワイ出身の女性アイドル。高橋留美子「うる星やつら」のヒロインであるラムのモデルとしても有名。ちなみにアグネス・チャンと同じ事務所に所属しているそうだ。年齢については触れないでおこう。
バレリア「彼女がビキニ水着グラビアでブレイクし、ビキニ自体を日本人にも普及させたと思われるからや。ビキニ水着が初めて日本に輸入されたのは1950年なんやけど、一般に広まったのはアグネス・ラム出現期と同じ頃の70年代なんよ」
ユーリ「あれですか?日本では過激過ぎたと」
バレリア「アメリカでも『扇情的』と非難されて60年代初めまで一般的なビーチでは着用禁止やったそうやで」
ユーリ「あ、そうですか。でも、80年代初頭に日本の海水浴場でもワンピースが復興してビキニは一旦すたれたそうですけど……たぶんカメラ小僧に女性が警戒心を強めたんでしょうねえ」
バレリア「では、『Men’s Adventure Magazines』由来説に移るかのう」
ユーリ「うーん、それって何なんです?」
バレリア「『コモド大トカゲと真剣に戦う正義のアメリカ白人男性』、『イタチと真剣に戦う正義のアメリカ白人男性』、『コウモリの群れと真剣に戦う正義のアメリカ白人男性』なんかの大迫力イラストが表紙になっとった『冒険譚がメインでそこにエロ記事(例・女のひっかけ方)が盛り込まれる理想の(?)男性向け雑誌群』のことや。詳しく知りたいんなら『ゲームジャーナル 第10号』(シミュレーション・ジャーナル社)の『世界バカゲーム悲報 番外編』を読みまい」
「世界バカゲーム悲報」:タイトルの通り、世界中(と言ってもほとんどはアメリカ製だが)の想像を絶するあほらしくかつ素晴らしいボードゲーム類を扱っていた傑作記事。紹介されていたのは猫とネズミ(たまにブルドッグ)が「トムとジェリー」風に戦うゲームやボードゲーム・オタクが中古ゲームのオークション会場でゲームを買いあさるゲーム(「猛烈な便意を催して今回のオークションはおじゃん。d6で「6」を出せば200メートル走の世界記録が出る」とかいうイベントがある)や小学校の砂場で悪ガキどもが仁義無き戦いを繰り広げる戦術戦闘級ゲームやロシアの地底戦車が米軍地下基地を強襲するゲーム等など。
ユーリ「なるほど、『正義のアメリカ白人男性を拉致するアマゾネス』はいろんな意味でビキニ鎧ですし、『正義のアメリカ白人男性をいたぶる露出度の高い格好の女ナチス』は男のリビドー直撃ですね」
女ナチス:ナチズムにおいては「女性は家庭を守る存在」というのが「常識」だったので女性戦車兵とか女性武装SSなんていう「戦うお姐さん」はソ連(当時)とは異なり、ほとんど存在しなかった(らしい)。大日本帝国陸海軍と同じ発想ですね(たぶん)。ま、筆者は一般SSに女性看守ぐらいはいたんじゃねーかなーと妄想しますが。
バレリア「それと、第2次世界大戦によって結果的に女性の社会進出が発展して『強い女』『戦う女』という概念が誕生したのも大きいのう。実際、米軍内部で女性が地位を得るのは第2次世界大戦勃発以降のことらしいし」
ユーリ「『戦後、強くなったのは女とストッキングだけだ』という言葉もありますもんねえ」
バレリア「極論やけどな。ほやけど、19世紀的女性像からはビキニ鎧は誕生せなんだやろ。女性キャラがさらわれ役でなくなった訳や」
ユーリ「それは確かにそうです。『堤防で女性と出会う小説を書いたらどうだ?』とアドバイスした某作家の父親の感覚では絶対にビキニ鎧なんて生まれません」
某作家:高倉健を主役にした小説を書いたことで知られる。
バレリア「で、日本での最初のビキニ鎧着用者は『うる星やつら』の弁天様らしい。79年前後らしいな」
ユーリ「へ!?ラムじゃないんですか?」
バレリア「彼女のあれは衣服であって鎧やないやろが」
ユーリ「そう言われるとそーですね」
2・アニメやゲームにおけるビキニ鎧の隆盛期
バレリア「こうした条件がそろって日本のアニメ界にもビキニ鎧が活躍し始めた。その先駆者はやはりというか何というか、手塚治虫」
ユーリ「さすがは作品を有害図書扱いにされた経験のある手塚先生ですね。そっちでも第1号ですかあ」
バレリア「そのアニメのタイトルは『プライムローズ タイムスリップ10000年』。24時間TV向けに手塚プロによって制作されたそうや。1983年の作品で脚本は藤川圭介。キャラクターデザインは手塚先生なんで大御所自らビキニ鎧をデザインした可能性が高い」
「プライムローズ タイムスリップ10000年」:ストーリーを簡単に書いておきます。悪魔バズス(千葉耕一)が日本の九十九里市とアメリカのダラス市の一部を1万年未来にタイムスリップさせ、人間同士の戦いをゲームとして楽しむ(手塚先生、こーゆー話好きですね)。一方、タイムパトロールの凱(水島裕)は少女エミヤ(岡本茉利。このキャラがビキニ鎧を装着するらしい)と出会い……というもの。なお、塩沢兼人も出演しています。以上、ウィキペディアから丸写しでした。
バレリア「なお、漫画の方面では『「レモンピープル」に84年以前にビキニ鎧ものがあったのではないか』という説もあるんやと」
ユーリ「何でも、86年前後がビキニ鎧全盛期だったようですね」
バレリア「そやな。OVA『幻夢戦記レダ』(85年)、横スクロール・アクションゲーム『夢幻戦士ヴァリス』(86年)、『アテナ』(86年)、他には漫画『アウトランダーズ』や『マップス』等など。すごい顔ぶれやのう。とはいえ、この中で筆者がきちんと内容を把握しとんは『アウトランダーズ』だけやけど」
「夢幻戦士ヴァリス」:ヒロインのスリーサイズはB81、W61、H85だそうです。
ユーリ「少し後の話になりますが、88年には『ドラクエ3』の『神秘のビキニ』がありますね」
バレリア「ああ、メダルおじさんの秘蔵アイテムやな。『小さなメダル』95枚と交換でそれだけのためにグラフィックが変わるという……。しかも女戦士の外見は最初からビキニ鎧やし」
ユーリ「『ドラクエ3』は容量との闘いでゲーム起動時のファンファーレを削除して、オープニングデモもないってのに妙なところで意地張ってたんですよね」
バレリア「ま、ほやけど『神秘のビキニ』は守備力高かったけん許そう。『あぶないみずぎ』は78000Gもするのに、守備力は『1』やで!『ぬののふく』より弱いやん」
ユーリ「落ち着いて下さい。水着は鎧じゃありませんよ」
バレリア「う、あんたにツッコミされるとは……」
3・ビキニ鎧の衰退
バレリア「しかし、このよーに隆盛を極めたビキニ鎧も90年代前半に入る頃には人気に陰りが生じてきたようや」
ユーリ「そーですね」
バレリア「ビキニ鎧が素直にエロを感じる対象からギャグにされる対象に変わっていったっちゅうことやな。有名な例をあげると90年の『スレイヤーズすぺしゃる』(神坂一・作 富士見ファンタジア文庫)でリナがナーガの格好にツッコミを入れとる」
ユーリ「でも、あれは『悪の女性魔導師ルック』だった気がするんですけど」
バレリア「相変わらず尻の穴のこまいやっちゃ。プロの世界は厳しいで」
ユーリ「そんな大昔のいしいひさいち氏の4コマ漫画のホモネタ使わないで下さい」
いしいひさいち氏の4コマ漫画のホモネタ:4コマ漫画革命の金字塔「がんばれ!!タブチくん!!」の初版に収録されていたような気がします。双葉文庫に収録されているかどうか確認していません。甲子園にホモクラブのスカウトが視察に来るというトンデモな4コマ漫画です。さすがはいしい先生。
バレリア「ちっ、まあええわ。それはともかく、一説には『ロードス島戦記』のディードリットの可憐さがビキニ鎧の流れを蹴散らしたともいう」
「ロードス島戦記」:塩野七生のヴェネチア三部作の1つ、「ロードス島攻防記」(新潮社)にあまり影響されてないと思います、たぶん。つづりも違うし。
ユーリ「ディードリットの登場は80年代後半なので『蹴散らした』というのは言い過ぎのような……」
バレリア「やからうちは『一説には』と言うたろうが。うちとしてはTRPGゲーマーが『ビキニ鎧なんてナンセンス』と総ツッコミを入れるのが定着した頃からこの種のアーマーが衰退したんちゃうかという仮説を改めて提唱したい!まあ、誰も相手にせんやろし、立証する根性もないんやが」
ユーリ「ネット上に色々ありましたよね。『とりあえず腹は守った方がいいと思う』とか『着用者は鉄の腹筋を持っている』とか『プロミジーでこれを着ると勇者と呼ばれる』とか『闘技場では見世物として需要があるかも』とか『ガルガライスでは標準装備?』とか『古の女戦士の正装』とか『武具関連のネタでここまで埋まるとはな〜』とか」
バレリア「まあ、それでも一部ではビキニ鎧ファンは根強いようや。2006年5月の『ヤングアニマル』の表紙はビキニ鎧のコスプレやったそうやし」
「ヤングアニマル」:筆者の知り合いの少女漫画ファンは「『ヤングアニマル』は女性が買うのは恥ずかしいですよお」と語っていた。
バレリア「結局、ビキニ鎧はポルノライトノベルの領域で生き延びるしかないかもしれん」
ユーリ「なんでかはよく分かりませんが、その手のライトノベルではいまだに根強い人気を保持しているんですよ。ビキニに妄想を抱ける読者層の平均年齢を調べると面白いかも……と一瞬思いましたが、面倒なので止めておきます」
エピローグ〜ビキニ鎧のこれからの可能性〜
バレリア「『魔術探偵スラクサス』や……」
ユーリ「は?」
バレリア「マーティン・スコット作。内田昌之(うちだ・まさゆき)訳」
ユーリ「あのー」
バレリア「カバーイラスト:大本海図」
大本海図:ネットで調べたら「鳥類大好きの漫画家兼イラストレーター」だそうです。あまり「萌える」画風じゃないです。
ユーリ「ちょっとちょっと」
バレリア「ハヤカワ文庫」
ユーリ「僕にも分かるように話して下さい」
バレリア「おお、すまんかったのう。『魔術探偵スラクサス』というんはビキニ鎧の存在理由を世界設定レベルで描いた珍しいファンタジー小説なんよ」
ユーリ「露出部の防御はどうするんですか、防御は」
バレリア「へ!?この小説のヒロインで人間とエルフとオルクの混血美女・マクリは戦闘時は全身防御しとるで」
マクリ:偶然だが、同名の虫下しが存在するらしい(はるき悦巳・作「じゃりン子チエ」双葉社 単行本44巻参照)。ちなみにサリンという女性キャラも登場する。
ユーリ「そーゆーのはビキニ鎧とは言いません」
バレリア「おいおい、ビキニ鎧は戦闘時にのみ着用するものと誰が法律で決めたんや。この女はいわゆるフーターズのウェイトレスする時にビキニ鎧を装着するんや」
ユーリ「フーターズ?」
バレリア「文庫の解説からそのまま丸写しで教えたろう。フーターズいうんはアメリカの男性向けレストランで、短パン・タンクトップ姿のウェイトレスが給仕するそうや。むろん味は最悪」
ユーリ「西原理恵子が学生時代にバイトしててお尻を触られまくったミニスカパブ(旧語か?)みたいなもんですか?」
バレリア「うーん、マクリがおさわりされるシーンはないけんなあ。よお分からんな。むしろ、ランジェリーパブに……いや、違うな」
ユーリ「それはともかく、どーして『魔術探偵スラクサス』がビキニ鎧の新しい可能性を開拓できるんですか。しょせん一発モノの色物ファンタジーでしょーが」
バレリア「いやいや、そんなことないで」
ユーリ「ひどく自信がありますね」
バレリア「『魔術探偵スラクサス』は日本では第1巻しか訳されとらんが、本国では完全にシリーズ化しとると文庫本の解説には書いてあったのう。つまり!マクリが死なない限り、読者は彼女のビキニ鎧姿を妄想し続けることができるんや!」
ユーリ「問題はこのシリーズの2巻以降が和訳されるかどうかですね。では、今日はこの辺で」
(「世界最速のインディアン」はモテ親父映画なので続く)