ユーリ「これはやはり・・・・・・」
バレリア「『現実の世界がくそったれだから』だけではあかんで」
ユーリ「フロイト的展開も駄目なんですか?」
バレリア「いまいちやなあ」
ユーリ「なら君はどう答えるの?」
バレリア「きくたけワールドは原民喜ワールドやないからやと答えるのう」
原民喜:「はら・たみき」と読む。「はらたいらさんに全部」で有名な漫画家のはらたいら(故人)とは関係ない。広島出身の詩人・作家。世界初(推定)の原爆文学小説「夏の花」三部作(「三部作」と言っても文庫本1冊にも満たない)で知られる。原にとって不幸なことに当時はGHQの厳しい検閲があったため編集部が掲載をためらい、同人誌にすらなかなか載せてもらえなかった。なお、原民喜は反核反戦運動に深く関与しないまま、1951年に鉄道線路に横たわって死亡した。
バレリア「原民喜の代表的散文詩『鎮魂歌』には『僕のゐる世界は引裂かれて行く。それらはない、それらはない!』とか『私にはまだわたしがあるのだ。それからまたふらふら歩きまはる。わたしにはもうわたしはない』とか言うような自己否定のフレーズが頻繁に繰り出されるんや。どうも原には原子爆弾を『不条理な絶対者』とみなす傾向があったと思えるのう。どや、きくたけリプレイ・ワールドと全くの反対やろが。あ、付け加えとくけど、彼の詩や小説は時によっては『〈幻視〉の文学』と評されることもあるそうや」
ユーリ「でも、PCにはいなくてもNPCにはそ〜ゆ〜ネガティブ思考の連中がわんさかそろってるじゃないですか。『BASTARD!!』の大臣ズっぽいのが」
「BASTARD!!」の大臣ズ:萩原一至の「D&D」漫画(あ、なんか間違えたような・・・・・・)第一部に登場する、「ただ泣き叫ぶだけ」のネガティブ・シンキング大臣の複数形。
バレリア「まあそやな。そこでPCら、もしくはその代表が『世界はまだ救われる価値がある!』と宣言するんがきくたけリプレイのお約束や」
ユーリ「きくたけリプレイに出て来るPCのセリフとしては多少間違った言い回しですが、そこにはツッコミを入れません」
バレリア「ほなどこにツッコミ入れるねん?」
ユーリ「いやそのほら、君の回答では必要十分条件を満たしていないからですよ。どうして世界は救われるだけの値打ちがあるんです?」
バレリア「はっはっは。あんた、うちにそないえらそげなこと言えるようになったとはのう」
ユーリ「その東讃地区の讃岐弁をベースとしたニセ関西弁は何とかならないんですか?」
東讃地区:旧高松藩(松平家)の主要地域に相当する。なお、西讃地区は旧丸亀藩(京極家)のそれに相当する。藩が異なることもあってか、同じ讃岐弁でも東・西で多少異なる。
バレリア「きくたけリプレイでPCが世界を救う一つの大きな目的はの、『げんじつとーひ』やな」
ユーリ「はあ?『現実逃避』?それはちょっとダメダメPCじゃないですかー!」
バレリア「『げんじつとーひ』するのはPCやない。プレイヤーの方や」
ユーリ「それもおかしいのでは?」
バレリア「ほな、あんたは『向上心のない奴は馬鹿だ』と言っていたKのように逃避を拒否する余り、現実世界を見失ってええんか?」
ユーリ「ああ、『こころ』ですね」
「こころ」:明治・大正時代を代表する作家・夏目漱石の長編小説の1つ。高橋留美子の秀作「めぞん一刻」(小学館)で第三部が紹介されていたことでも知られる。乃木希典大将に対する、漱石の複雑な想いが表れている点も重要。そう言えば、高橋留美子は看護師のコスプレをしたことがあるそうですね。
バレリア「プレイヤーは『げんじつとーひ』をすることで自分の人生を豊かにできるんや。文学や映画にしたって、それが芸術的なもんやろうとバリバリのエンターテイメントやろうと『現実そのものを直視する』もんとは違うやろが。んん?」
ユーリ「まあ・・・・・・一理はありますが・・・・・・。しかし、それだけでは『TRPGをプレイする理由』にはなっても、ジャンルがファンタジーになることと、最終目的が『世界の救済』に至ることの説明にはなりませんよ」
バレリア「ぐっ・・・・・・。痛いとこ突きおってからに。けど、うちはそれも予測しておいとったんや」
ユーリ「本当ですか?」
バレリア「ファンタジーというジャンルが『世界救済』のインパクトを一番強烈にするんや。SFやサイバーパンクやと、小説は別として、TRPGでは『世界を救うぞ!セッション』には不向きやとうちは思うで」
ユーリ「サイバーパンクはSFの一ジャンルではないんですか?それに、ファンタジーも広義のSFですよ」
バレリア「やかましいやつやのう、あんたは。確かにその通りやけどな。で、なんでファンタジーTRPGっかてえとやな、『ファンタジー世界では官僚制が未発達、つまり個人=キャラクターが世界の動向に与える影響が大きい』ちゅうこっちゃ。ま、これが某氏の受け売りなんはつっこまんといていた」
ユーリ「『モダンタイムス』ではないということですね?」
「モダンタイムス」:チャーリー・チャップリン製作・監督・脚本・作曲・主演の長編映画。トーキー嫌いのチャップリン初のトーキー映画。ただし、チャップリン自身はデタラメな歌詞のデタラメな歌を歌うだけでまともなセリフはない。無声映画の喜劇王としての意地であろう。1936年の作品だからもう71年経つのかあ。
バレリア「それに、デカイことをしでかす方がセッション自体盛り上がるし、リプレイとしても痛快や。いや、ちまちました話があかんゆう訳やないで」
ユーリ「『アリアンロッド・リプレイ・ルージュ』も第3巻で世界規模の話になる!といまだ第3巻を買ってはいるが読んでいない筆者も勝手に予測していますね」
バレリア「前シリーズでエイジはアガメムノン的存在(仮)と戦ったけん、ノエルはクリュタイメーストラ的存在(仮)に挑むんやろなあ、というのが筆者予言や。どうでもええけど、『アガメムノン』と『クリュタイメーストラ』は一発変換やったぞ。これを打ちよる30男が喜んどるがな」
ユーリ「そのー、展開予測と無駄話がごっちゃになってますよ」
バレリア「ほな、きっちり本題に戻るで。きくたけリプレイって、『世界が英雄を生み、英雄が世界を動かす』という感じがするの」
ユーリ「何だか『英雄戦国時代』みたいですね」
「英雄戦国時代」:日本の戦国時代(なぜ「日本の」とわざわざ断るかとゆーと、「中国の戦国時代」を扱ったボードゲームも存在するため)を舞台としたプレイアブルなマルチ・プレイヤーズ・ゲーム。プロフェッサー・デザイナーだった高梨俊一によるもので、翔企画から出版された。現在では入手は困難と思われる。「出雲のお国」がユニット化されている珍しいゲーム。彼女が踊ると敵の軍団駒が1つ除去されてしまうという冗談のようなルールがあるとのこと。
バレリア「ただ、一つ重要なんはきくたけリプレイのPCは革命家ではないっちゅうこっちゃ。『暴力革命』を実行するんは、むしろ敵対する魔族や秘密結社や邪教徒ちゃうんかのう。PCは原則的に『世界秩序』を守ろうとしとるな。TRPG自体が1960年代に世界各地を席巻した学生運動の先鋭化と挫折後に誕生していることなんかを考えると、因縁めいたものを感じてまうわ」
ユーリ「そこまでいくときくたけリプレイの本質とは離れ過ぎてますよ。まあ、要約すると、きくたけリプレイのもとになるセッションに参加するプレイヤーはそれによって自身の精神内面をヒールし、「世界を救う」という行為の擬似体験でその治癒効果を大きくする、と。それがあるからこそ、PCは世界を助け出そうとするということですね?」
バレリア「ほお、うまくまとめたやんけ。筆者は妙な哲学ネタを持ち込むつもりやったらしいがなあ」
ユーリ「それではまた」
(ソン・ガンホは容姿はぱっとしないがいい役者なので続く)