格闘級SLGとしてのTRPG

 ユーリ「筆者が困っているようですよ」

 バレリア「何をやねん」

 ユーリ「いや、ポニーテールのかたせ梨乃がショートスピアを振るって戦うTV映画が昔あったそうなんですけど、タイトルや共演者が思い出せないそうです。で、さらにそれをTRPGで再現してくれないか、と」

 バレリア「タイトルの方は『半身のお紺』ちゃうか?」

 「半身のお紺」:1991年に放映されたTV時代劇。主演はかたせ梨乃。育ての親を殺した疑いのある恋人・善十(京マチ子主演「必殺仕舞人」に仕舞人役で登場していた本田博太郎が演じた)に真実を問いただすために各地を放浪する短刀使いの女の物語。筆者は第1話で挫折してしまった。かたせ梨乃に剣劇の脇役はともかく主人公をやらせること自体に無理があったんじゃないでしょーか。ちなみにかたせ梨乃はシャロン・ストーンと同い年でイザベル・アジャーニより2歳若い。

 ユーリ「ではないと思うんですけどねえ。ショートスピアで相手の武器をディザームしたり、足をすくってスネアさせたりしてたそうですけど」

 バレリア「あんた、無理矢理TRPG用語使っとるんちゃうか。しかも文法がなんかおかしいし」

 ユーリ「いや、今回のテーマがテーマですから。そういう訳で誰か筆者に教えて下さい。検索してもよく分からないんです。案外、『極妻』シリーズの初期作かもしれませんけど……と書いていたら分かってしまいました。ケーブルTVの時代劇チャンネルにチャンネルを合わせてしまったので(笑い)」

 バレリア「『死して屍拾う者無し!』のやっちゃな。かたせ梨乃が演じたんは『流れ星おりん』やったっけ。TRPGで扱うなら『大活劇』のサプリメントそのまんまやないか」

 流れ星おりん:第11代将軍・家斉の時代に江戸で悪を裁いている隠密同心の1人。表の職業は魚屋。クライマックスでは髪型と服装が変わり、露出した太ももに視聴者の視線を誘導させながら短槍で戦う。

 ユーリ「漫画ネタだと『MASTERキートン』(故・勝鹿北星:作 浦沢直樹:画 小学館 全18巻)に登場したナイフ使いの『拳銃は2アクションだが、ナイフは1アクションだ』もTRPGで再現して欲しいですね」

 バレリア「『GURPS』で十分できとる気がするが?」

 ユーリ「それはともかく、TRPGは格闘級SLGだ!という辺りが今回のテーマですが、国産ゲームは戦闘システムがアブストラクトなものが多いですよね?特に……」

 バレリア「F.E.A.Rゲー、と言いたいんやな?」

 ユーリ「……まあ、確かにそうですけど」

 バレリア「国産ゲームやのうても戦闘システムがアブストラクトなもんあるがな」

 ユーリ「まさか『トンネルズ&トロールズ』の名を口にするつもりですか?きゃー、恥ずかしい」

 バレリア「あんたが言うな。そういや、漫画『マンションズ&ドラゴンズ』に似たよな名前の野球チーム出てたんとちゃうか?」

 「トンネルズ&トロールズ」:筆者の知人はオリジナル魔法「みんなでくらえ!」を追加してゲームバランスをおそろしく××なものにしていた。まあ、「you」は単複同形なんで英語名は変わらないぞ、というのがその人の言い分だったような……。でも、第7版だとどーなんでしょ。

 「マンションズ&ドラゴンズ」:ワニブックス。全6巻。TRPGと「め○ん一刻」のファンなら楽しめる(?)。個人的には多砲塔戦車が出てこなかったのが残念。あー、今筆者は中学生女子の心理的痛みをともなう恋愛劇とフラメンコを踊る平岳大の怨恨復讐劇に頭脳を撃破されているので余りまともなことが書けません・・・てな事態までには至ってないけど。

 バレリア「それからの、アブストラクトな戦闘システムのゲームでも格闘眼の必要なゲームはあるで。『六門世界RPG』(加藤ヒロノリ、安田均/グループSNE)やら『三國志演技』(たのあきら/F.E.A.R)やら」

 「六門世界RPG」:「ウィーザードリィ」にならったのか、それとも別に関係ないかどうかは知らないが戦闘時には前衛・後衛という2ポジションに分かれる。また、イニシアチブチェックも存在し、ダイスを振る手に気合が入る。比較的新しいゲームで、リプレイも7冊出ている。と、えらそうなこと書いているが、筆者は「六門」をいまだプレイしたことがない(2006年11月現在)。

 「三國志演技」:戦闘システムは少々特殊。2d6に能力値と技能レベルを加えた値を比べ合い、低かった方が次第に負傷コーナー(?)に追い込まれ、さらに戦えば最終的にどちらかが死亡となる。こう書くと面倒くさいようだが、「兵士10人がかりでも、ダイス運がすさまじく片寄らない限り呂布を負傷させることすらできない」ことを簡潔に再現している点を高く評価したい。しかし、10年以上前のゲームなので入手は極めて困難と思われる。

 バレリア「そもそも格闘級SLGを超精密戦術級SLGとみなした場合やな……」

 ユーリ「B社の『最前線』ですかあ?それとも『スコード・リーダー』?いやいや、『アドバンスト・スコード・リーダー』かナ?」

 「最前線」:1ユニット=1人という戦術級SLG「らしい」。「らしい」を付けたのは筆者が不所持未プレイのため。続編に「親衛隊」というものもあり、「コマンドマガジン日本版」で紹介されていた。手榴弾投擲でピンゾロを出すと「投擲失敗」となりそのユニットを含めて周囲の味方ユニットが(かなり高い確率で)肉片になるそうである。ん?「ガンドッグ」でも似たような光景を見た気がするぞ。投げ損なったのは筆者のキャラだったっけ?

 「スコード・リーダー」と「アドバンスト・スコード・リーダー」:元来はアバロンヒル社のボードSLG。「スコード・リーダー」は「分隊指揮官」の意。後者は前者の発展形で「世界で一番難しいゲーム」とも言われる。基本的に第2次世界大戦の歩兵戦闘を中心としており、ある方は「TRPGで緻密な戦闘やる前に『スコード・リーダー』の『バリケード工場』シナリオをプレイすべきだ」と言っておられた。なお、「バリケード工場」はスターリングラード市街戦における激戦地の1つ。

 バレリア「ふん、行数稼ぎしおってからに、筆者に操られた宿六が」

 ユーリ「いや、そう言っている君も筆者の脳内キャラクターですし……」

 バレリア「それを言っちゃあおしめえよ、という寅さんお得意のセリフを口にしたくなるな」

 「それを言っちゃあおしめえよ」:寅さんの有名なセリフ。筆者は「けっこう毛だらけ、猫灰だらけ、熊のお尻はクソだらけ」という文句が大好きだ。もっとも、「熊の〜」は中期以降省略される傾向にある。やはり「下品」だからだろうか。

 バレリア「格闘級SLGとしてのTRPGちゅうんは精密戦術級SLGの要素を含んどるもんやな。特に『D&D』とか『D&D』とか『D&D』とか。もっとも、戦闘システムの『軽い』TRPGやとしても『格闘級SLG』になるケースはあるな。『バブリーズ』とか菊池たけしがGMした場合とか。『ペラペラーズ』もそれに含まれる、としてええか?」

 バブリーズ:「ソード・ワールドRPG」リプレイ第3部のパーティ。初期は「ドラゴンマガジン」誌上でまるまる2ページ近く割いてその赤貧ぶりと女性PCの水浴をカラーイラストまで動員(?)して描いてたのになあ。そういえば、第2部のパーティはどこにいるの?

 ユーリ「きくたけさんの場合、あの人はSLGゲーマーあがりですから」

 バレリア「現在、第一線の人でゲーマーあがりでない人を探す方が難しいんとちゃうんか?」

 ユーリ「確かにその通りです。それはともかく、『バブリーズ』は『策謀戦術級』とか『政略戦術級』と呼ぶ方がふさわしいのでは?」

 バレリア「それはもう今回のテーマからははみ出す恐れあるで」

 ユーリ「じゃあ……おっと、その前に、……『ダンジョン&ドラゴン2』の公開はいつなんでしょう?まさかDVDの発売だけでお茶を濁すのではないでしょうね?(2006年11月時点で香川県では公開されていない)。もっとも、筆者はミニシアター系列で上映されない限り行かないとほざいていますがね。HJ社の雑誌には『今回はパーティバランスがとれてます!』とありましたなあ」

 バレリア「前回はシーフ×2、ドワーフ、エルフ、マジックユーザーやったからのう。それにあのハゲ頭のクラス何やねん(笑い)。……さて、話を戻すかの。『格闘級SLGと呼べるTRPGでは作りたてのキャラクターがドラゴン級のモンスターを気合や運のしでは倒せないTRPG』と表現するんも可能やな」

 ユーリ「『ルーンクエスト90s』(HJ)ではないんですね?できたばかりのキャラが死者を蘇らせたり、問答無用で相手を即死させたりできるというのは、サイの目にもよるとはいえ、ちょっとデンジャラスですね」

 バレリア「うちは『天羅万象・零』(F.E.A.R)ではないと言いたかったんやけどなあ。まあなあ、運のしプレイもすごい人はばりすごのようやけど……。ノンフィクション『ヤマダ英雄伝説』の主人公は『バルジ大作戦』(鈴木銀一郎 エポック/国際通信社)で『1ゾロを出したら、落とせるんです』と断言して第1ターンにサンビットを、さらには『1ゾロを出したら(以下略)して第2ターンにバストーニュ(史実では陥落しなかった。「バンド・オブ・ブラザーズ」参照)を攻略したそうやから」(参考文献:シミュレーションジャーナル社「ゲームジャーナル」20号)

 「ヤマダ英雄伝説」:同人誌時代のゲームジャーナルにおける伝説的連載。あえて多くは語るまい。

 「バルジ大作戦」:鈴木銀一郎デザイン。国産バルジ・ゲームの金字塔。同名の映画がタイトルの源流だろう。映画は史実をデフォルメした娯楽大作で、「12人の怒れる男」で知られる名優ヘンリー・フォンダが主演。なお、「このティーガーはティーガーじゃねえよ」というツッコミはなしね。

 バレリア「ただのう、TRPGの戦闘システムがどんなに精密戦術級化しても本来の意味でのSLGにはならんのや。SLGの場合、『ルールで定められた勝利条件を満たすことで相手プレイヤーに勝利する』という競技性が重視されるんけど、TRPGは『競技としてのゲーム』とちゃうけんな。あくまで『遊戯としてのゲーム』や」

 ユーリ「でも、そうなるとシミュレーションRPGの立場は?」

 バレリア「『大饗宴』(エンターブレイン)に収録されとる『モンスターメーカー戦記』(鈴木銀一朗)のこと言うとんか。あのゲームの場合は一種のキャラクターSLGや。『格闘』以前の段階である『戦術』や『戦略』いうもんを理解しやすくするための道しるべやな」

 ユーリ「なある。『はさんで除去』とか『二目の頭は見ずハネよ』とかいうことですね!」

 バレリア「後者は囲碁のエレメンタリーな格言やろが!」

 二目の頭は見ずハネよ:囲碁をたしなむ者なら筆者のようなヘッポコでも知っている格言。というか、囲碁を始めるとたぶん最初に教わる格言。

 ユーリ「でも、あのリプレイ小説は説明的セリフが多い気が……」

 バレリア「リプレイ小説と小説を混同すな」

 ユーリ「分かりましたあ。それはともかく、高平鳴海の『サバイバー』(同じく「大饗宴」に収録)も格闘級SLGに含むべきですよ」

 バレリア「は?なんでやねん」

 ユーリ「あれは大自然と格闘するゲームじゃないですか!1週間限定ですけど」

 バレリア「……。つまり、格闘級SLGは『精密戦術級SLGの要素を含んでいる遊戯としてのゲーム』なんや。その上である種の『ロマン』に近いもんがないとなあ。『ヤ○ト』や『ガ○ダム』は格闘級SLGになりうるが、『橋』は難しい」

 「橋」:1959年旧西独の西武戦線末期戦映画。一説によると「プライベート・ライアン」に影響を与えているとか。キーワードは「der Kindergarten」(独語で「幼稚園」の意。英語でも定冠詞は付かないが、同義。関連教育者:フレーベル)。

 ユーリ「とは言っても、機動打撃戦力を拘置するTRPGゲーマーは少ないと思います」

 バレリア「さらに付け加えるんやったら、『格闘級SLG』では遠戦、つまりクロスボウやマスケット銃だけではケリがつきにくいわな」

 ユーリ「『ガンドッグ』(狩岡源/アークライト)のスナイパーの立場はどうなるんです?」

 バレリア「あのゲームの狙撃は、本来の意味での遠戦とはちょっとちゃう気がするんやがのう。現実の戦争、ことに中世日本の遠戦なんかは戦後処理をも含めて行われたようやし。中世ヨーロッパにおけるクロスボウの使用も宗教勢力が介入する余地があって、ちょっとした政治問題に発展しかけたとも言う」

 ユーリ「ははあ、なんだかんだ言ってもやはり結局のところ君はパカパカズンバラリンとやる方が『格闘級SLG』としてふさわしいと考えてるんですね?」

 バレリア「……否定はせん。結論としては『格闘級SLG』としてのTRPGはファンタジー系に求めるが吉やな」

 ユーリ「それではまた」

(劇場アニメ「時をかける少女」のキャラデザは貞本義行だったので続く)
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