シーン制TRPGと時代劇

 ユーリ「ジャーナリズムとスイカ割りぐらい関係がありませんね」

 バレリア「『松ごっつ』の『全国お笑い共通一次』での模範解答は『ジャーナリズムのかけらもないのはキャッチボールである』やったのう」

 「松ごっつ」の「全国お笑い共通一次」:ダウンタウンの松本人志が1990年代後半に企画した「試験」。他の問題に「『ごぜんぜうな』という単語を用いて文を作れ」とか「あなたの子供が午後からやる気をなくす弁当の絵を描きなさい」とかいうのもあったように記憶している。

 バレリア「いや、あんたは判断急ぎ過ぎ」

 ユーリ「しかし……時代劇からシーン制TRPGが生まれた訳じゃないでしょ?」

 バレリア「そらそや。ここでうちが言いたいのは、時代劇の図式からTRPGを見ると興味深い点があるっちゅうことや」

 ユーリ「なるほどですね。筆者お得意のパターンですな。まあ……でも、時代劇といっても変なのが山ほどありますよ。『日本岩窟王』とか『賞金稼ぎ』とか」

 「日本岩窟王」:NHKが1979年に放映した底抜け時代劇。アレクサンドル・デュマ原作となっているが、「モンテ・クリスト伯」との共通点は「脱獄して、復讐する」というとこだけ。話の展開に島原の乱とその残党をからめていた。復讐が終わると主人公は琉球に旅立ってしまう。

 「賞金稼ぎ」:若山富三郎(故人。故・勝新太郎の兄ちゃん)主演のマカロニウエスタン風時代劇……というより時代劇風マカロニウエスタン。農民が塹壕を掘って幕府軍の砲撃をしのいだり、悪奉行がガトリングガンで銃撃したりするシーンが特に印象的だった。

 バレリア「無茶を言うな。ユニーク過ぎるんは扱わん。今回とりあげるんはTBS系TV時代劇『水戸黄門』や」

 ユーリ「へ!?『必殺』シリーズじゃあないんですか?」

 バレリア「『必殺』シリーズは正統派時代劇やないで。BGMもマカロニウエスタンを意識しとるし、主人公ズは悪人殺す時でも金もろとるやないか」

 マカロニウエスタン:クリント・イーストウッドの「荒野の用心棒」に代表される西部劇群。このジャンルから大スターになったのはイーストウッドだけ、とも言われる。

 バレリア「『水戸黄門』は1969年8月4日から2006年3月末に至るまで千回以上、第35部まで続いとる超有名時代劇や。ドラマとしてどう評価するかは別として、その類を見ない分かりやすさを認めん奴はおらんやろ」

 ユーリ「とは言っても、黄門様はTBS版だけでもこれまでに5人いますから……」

 バレリア「心配すな、4代目は外す」

 4代目:石坂浩二の黄門様。評判はあまり良くない。あるサイトでは「哲学黄門」と皮肉られていた。1年余りで降板。ちなみに初代黄門様・東野英治郎(故人)は映画「獄門島」(1977年)で石坂浩二と変則的な形で共演しており、「白い巨塔」では前者が初代・東教授を、後者が第4代・東教授を演じている。

 バレリア「まず『水戸黄門』を見ていてゲーマー的に興味深いんはマスターシーンをアグレッシブに活用しとることや。ちゅうても、マスターシーンを最初に導入した時代劇は何か、なんてことは不勉強なうちにはまだ分からん」

 ユーリ「ああ、悪代官と悪徳商人が密談しているシーンですね。たまに弥七(故・中谷一郎氏)やお銀(由美かおるさん。2001年4月以降、役名が「お娟」に替わった)が盗み聞きしてますけど」

 バレリア「しかも悪人はどいつもこいつも出て来た瞬間に悪人と断言される外見なんや。これは筆者の経験なんやが、TRPGのセッションで悪役NPCを『いかにも悪人!』てなイラストを使って示したら、プレイヤーが『これは引っかけだよなあ』と深読みしてもうてあわてたことがあるとのこっちゃ」

 ユーリ「ここらで『水戸黄門』の典型的なセッション、じゃなくてストーリーをおさらいしてみましょう」

 オープニング・フェイズ  チンピラに追われる娘さん。すぐ助けに行ってあっという間にチンピラをたたきのめす助さん格さん。そして、娘さんが礼を言い終えない内に勝手に事情を察して家まで押しかけていく黄門様ご一行。

 マスター・シーン  ヤクザの親分がチンピラその1をけり上げ、怒鳴り散らす。

 娘さんの家  重要ポイント:このシーンでこの回の目的がはっきりする。  ヤクザの親分は悪徳商人とつるんでいて、悪徳商人は悪代官にワイロをおくっていると黄門様は知らされる。ただし、ワイロに関しては状況証拠しかない。なお、娘さんは悪人ズのターゲットになっていることも明らかになる。

 再びマスター・シーン  悪徳商人と悪代官のやり取り。そこへヤクザの親分が顔を出し、「白いヒゲのじじい」に邪魔されたと報告する。

 ミドル・フェイズ  黄門様を参謀総長兼司令官として助さん、格さん、弥七、お銀(初登場は1986年)、飛猿(弥七の体力的衰えを補うためにアクション要員として80年代後半に登場)が行動開始。

 重要ポイント:このフェイズで最も大事なのはお銀の活躍、ことに入浴である。多くの場合、悪代官が混浴しようとしたり、のぞこうとしたりしてひどい目にあわされ、気付かぬ内に悪徳商人と取り交わした念書をスリとられる。また、お銀が「銀奴」という芸者に扮して悪代官を薬で眠らせ、念書を奪うパターンもある。

 クライマックス・フェイズ  8時45分になると、悪事の成就を確信している悪人ズの所へ、高笑いと共に黄門様が庭先から登場。モブ(もしくはトループ)の侍かチンピラがわらわらと現れる。  ここでバトルが始まるのだが、演出戦闘なので一方的な展開になる。  で、  「この印籠が目に入らぬか!ここにおわすお方を(以下略)」  その場にいたNPCは全員平伏。たまに悪あがきする悪代官もいるが、お銀が念書を見せるか、弥七が自白したチンピラを引っ張り出してきて万事解決。

 エンディング・フェイズ  娘さんとその親族、もしくは恋人が晴れ晴れとした表情で黄門様一行を見送る。

 ユーリ「こうしてみると、『水戸黄門』はミドル・フェイズに大きな問題がありますねえ」

 バレリア「そやな。由美かおるのPCのシーンばっかりや。特に八兵衛のプレイヤーが文句言うやろな」

 ユーリ「八兵衛がシーンプレイヤーになるのは腹痛を起こすところだけでしょうしねえ」

 バレリア「シーン制TRPGやろうとなかろうと『水戸黄門』セッションは『これをやっちゃあおしめえよ』の連発っちゅうことやなあ」

 ユーリ「『水戸黄門』の場合、特別編でない限り原則として1時間(実質45分前後)で事件が解決されないといけませんからねえ」

 バレリア「ほやけん、そのせいでシーンの切り替えにパターンができてしもて、いわゆる『黄金のマンネリズム』が生じてしもたんかもしれへん」

 ユーリ「そもそもシーンとは……」

 バレリア「菊池たけし先生の説明によるとやな、『GMとプレイヤーが状況を把握しやすくするためにある概念』(「アリアンロッド・リプレイ 第1巻」富士見文庫)というこっちゃ。うちなら、『シーンはPCを公正に目立たせるためにも』と付け加えたいのう。気ぃ付けまいよ、『公平』やのうて『公正』やけんな!」

 ユーリ「はあ?」

 バレリア「そのセッションでスポットライトが各PCに均等にあたる訳やないやろ?パッとステージ前面に立つPCがおるやん」

 ユーリ「まあ、確かにそうですけど……」

 バレリア「『水戸黄門』で言うなら、○○のそっくりさんが出て来た場合、○○がメインの展開になるやろ?」

 ユーリ「その○の中に『八兵衛』が入ることは……」

 バレリア「そんな回もあったけど、八兵衛のそっくりさんが東北のとある藩の大名やったちゅうのは気にしないでおこう。話を本来のテーマに戻すけんど、TV映画のバリエーションであるTV時代劇はその生まれ上、たまたまシーン制TRPGとの類似点を持ち合わせてしもた。その『シーン』という概念が裏目に出た(?)のが長寿番組と化して以降の黄門様やな」

 ユーリ「同じ事を2回繰り返していますが、不問に付します。それにしても、考えてみるとシーン制TRPGのデザイナーさん達は学習してますねえ。別ゲームごとに別のパターンが成立するようにシステムを組み立てて、ゲーマーが飽きないようにしてるんですから」

 バレリア「むろん、商業的な理由もあるやろけどのう」

 ユーリ「では今回はこの辺で」

 バレリア「うむ、そうせい」

(「ブロークン・フラワーズ」は良作なので続く)
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