ユーリ「白衣の女は南雲機動部隊の正規空母で、途中から三佐になる女性は飛龍系統の中型空母で、ファーストは第3次ソロモン海戦で沈んだ駆逐艦で……。セカンドは何なんでしょう?」
バレリア「11年も前のアニメを筆者が今年になって初めて見たからいうて……。あの少女はミッドウェーで沈んだ中型空母やろ、たぶん」
ユーリ「ま、確かに読みだけなら同じですね。良かった、良かった」
バレリア「ファンに石投げられたいんか?まあ、それはそれでええとして本題に移らんとあかんわ」
ユーリ「かつてのSNE系TRPGではハック&スラッシュは御法度てなとこがありましたよね」
バレリア「確かにそやな。『ロードス島戦記コンパニオン1』にはわざわざ『なぜミッション・クリアの経験点の方がモンスター経験点より多いのか?』とほぼ1ページさいて説明されとったし」
「ロードス島戦記コンパニオン1」:なぜなのかはよく分からないが、高松市図書館に存在する。「アドバンスト・ファイティングファンタジー」リプレイ「タイタンふたたび」や「パワープレイ」、さらには「熱血専用」(これは筆者がリクエストしたら図書館が買ってくれた!)まで書庫にある(2005年4月5日現在)。
ユーリ「確かその次のページはディードリットのセミ・ヌードのイラストでしたよねえ、筆者の記憶が正しければ」
バレリア「変な所ばっか覚えてからに。でもまあ、1980年代末から90年台半ばまでSNE系列ゲームで『ビッチビッチ、ジャップジャップ、ランランラン』なテーマになっていたり、ゴブリンの首はねまくって喜んだりしているリプレイ、見たことないわ。あ、待て。『スチャラカ冒険隊』(SWリプレイ第1部パーティの愛称)の第1話がある意味そうかもしれへん」
ユーリ「こっそりと吉村萬壱さんがヨイショしてる漫画家さんのネタ入れましたね……」
吉村萬壱:「よしむら・まんいち」と読む。2003年に「ハリガネムシ」で芥川賞を受賞。ただ、何も知らずに読んだら「訳の分からない官能小説だなあ」と誤解しちゃう方がいるかもしんない。
バレリア「『ハリガネムシ』には筆者は抵抗感あるそうなんやけどなあ。それは別にして、『ソード・ワールドRPG』は旧版でも完全版でもモンスター経験点なんてほんのわずかやし」
ユーリ「『D&D』もモンスターより宝物獲得の経験点の方がはるかに多いじゃあないですか。新しい版は知りませんけど」
バレリア「いや、モンスターという存在をどうとらえるかが全然違とる」
ユーリ「というと?」
バレリア「『障害物』ととらえるか、『生きもの』ととらえるかの差やな。障害物はあくまで『物』やから扱いもぞんざいでええけど、生きものには『権利』があるとみなしてかからなあかん」
ユーリ「はあ?じゃあ、アンデッドやゴーレムはどうなるんです?」
バレリア「そやなあ、アンデッドにはほんま妥協できんわ。そやけど、アンデッドは『生きもの』やないやろ。中には知能を持つやつもおるにはおるが。ゴーレムに関しては、SW旧版シナリオ集『石巨人の迷宮』に魂のあるゴーレムなんてのが出てきた。こいつを必ず倒さなあかん!という設定やなかったな」
「石巨人の迷宮」:SW旧版シナリオ第1集。たぶん絶版。筆者はこの10年ほど古本屋ですら見かけたことがない。なお、山本弘のシナリオにはちゃんと「脱ぎ」がある。
バレリア「言いかえるとやな、『ハリウッド版ゴジラ』と『ゴジラ』第1作との差やな」
ユーリ「そりゃあ、ゴジラはモンスターですが……。それが何か?」
バレリア「前者やとゴジラが死んだ時、ニューヨーク市民が『イエーイ!』と大喜びするやろ?ところが、後者の場合は志村喬(故人)が沈痛な面持ちで新たなゴジラの出現を予言して終わる」
ユーリ「続編を作りたかっただけじゃないですか?」
バレリア「反論できん面もある。第2作『ゴジラの逆襲』は半年も経たん内に公開されとるし」
ユーリ「とは言っても、『ゴジラ』第1作でゴジラがオキシジェン・デストロイヤーで退治されても登場人物は誰も歓声なんかあげませんでしたし、当時の観客も素直にゴジラの死を喜んだかどうか……」
バレリア「ただ、『ゴジラ』シリーズも第3作『キングコング対ゴジラ』からは怪獣プロレス映画になってしもたし、昭和『ガメラ』シリーズも第2作『ガメラ対バルゴン』が余りに異色で大映の重役を激怒させてからは『よい子のみかた』になってしもたんよなあ。ほやけど、怪獣の存在を人間の愚行のシンボルにするというコンセプトが日本のTRPG業界に間接的に受け継がれたんは確実や」
「ガメラ対バルゴン」:田中重雄監督。特撮担当・湯浅憲明。出演・本郷功次郎、江波杏子。人間の欲やエゴをテーマにしたシリアスな作品。そのため、上映中に子供が退屈して映画館内を走り回ったそうである。ちなみに同時上映は「大魔神」。
ユーリ「はあ?」
バレリア「ゲームデザイナーさんに特撮もののファン、多いと感じへんか?むろん、あくまで『間接的に』受け継がれたにではあるけどな」
ユーリ「かなり乱暴な意見ですねえ。それにしても、この数年でハック&スラッシュは見直されつつあると思いますよ。『サタスペ』は素晴らしいゲームですけど、あれが90年代前半に同人誌以外の形で出版されていたら、かなり問題になったのでは?」
バレリア「『バイオレンス』とかも15年前の日本やとマスコミに叩きまくられとるやろな」
ユーリ「15年前だとそもそも『バイオレンス』がまだこの世に存在しないような気がしますけどねえ」
バレリア「いちいち茶化すな、あんたは。しまいから言うと、ゲーマーの成熟が一因やろ。『セッション内殺人(殺獣?)』はゲーム上でのことやから、割り切ってしまおうじゃないか、というような」
ユーリ「そんなにTRPGのゲーマーさんが成熟してますかね〜」
バレリア「ユーザーが成長しとらんと、メーカーサイドもうかつには危険な香りのするゲームを提供できへん。『これはゲームの上でのことに過ぎまへんがな』と割り切ってTRPGを楽しむ精神的ゆとりがユーザー間に生じて来たんやわ」
ユーリ「ゲーマーの高齢化とも関係しているんですかねえ」
バレリア「それだけやのうて、TRPGの先祖返りも後押ししとる。『アリアンロッドRPG』なんてイラストはホエホエ〜な感じやけど、実態は格闘級シミュレーション・ゲームの色合いが濃いわ」
ユーリ「それだと、『ガンドッグ』の立場はどうなるんです?」
バレリア「あれは『役割』を演じるという意味でのRPGやな。やから、昨今の『キャラクター・ロールプレイング・ゲーム』とは一線を画しとる。もっとも、格闘級やら戦術級のSLGとはまた別やで。それから、ゲームの評価とはまるで関係ないけど気になるんは巻末の参考文献・映像にリドリー・スコット監督の市街戦映画『ブラックホークダウン』が入っていなかったり、邦題『スターリングラード』の独ソ戦映画が『涙するには寒すぎた』のキャッチコピーがついとる方か、『エナミィ・アット・ザ・ゲイト』の方なんかがよお分からへん」
ユーリ「『ぴあ』の別冊で販売元から確認すればすむことじゃないですか?」
バレリア「筆者は県立図書館で調べたそうやが、結局どちらか判断できなんだ」
ユーリ「後者はソ連軍狙撃兵が主人公ですから、『ガンドッグ』のデザイナーさんはそっちを意識したんじゃないですかね〜」
バレリア「そんなとこかもしれんな。それでや、ハック&スラッシュの再評価は非ゲーマー層がオタク文化としてのTRPGにある程度寛容になったんやないかとうちは思うんやけど、どや?」
ユーリ「どや、と言われましてもね。筆者が高高生だった頃にはオタク文化全般が白い目で見られていたことは確かですけど」
高高:「たかこう」と読む。2005年の春のセンバツでは「希望枠」で72年ぶりに甲子園出場。ただし、初戦敗退。
バレリア「オタクへの視点がちょっと変わってきたんかいうエポックメイキングは92年に公開された『七人のおたく cult seven』あたりかもしれへんな」
「七人のおたく cult seven」:監督・山田大樹 原作・脚本:一色伸幸 出演:南原清隆、内村光良、江口洋介、山口智子。なお、ナンチャンは香川県の高松第一高等学校出身。
ユーリ「ま、『恋の門』(監督:松尾スズキ 主演:松田龍平)にくらべるとまだまだ甘いと思いますが」
バレリア「それに対して断固『NO!』と言う気はないな。それはともかく、『OTAKU』というテーマで大々的に展覧会が開かれて、それがNHK教育『新日曜美術館』で堂々と放映されるご時世や。TRPGにおけるハック&スラッシュが1つのゲーム文化として再び脚光を浴びとるのも当然かもしれん」
ユーリ「変われば変わるものです」
(イリナ・ミハイロフ警部の死を悼んで続きます)