バレリア「まずは六条御息所の生き霊からやな」
ユーリ「読みは『りくじょうぎょそくじょ』ですか?」
バレリア「ふむ、この手の記事での典型的かつ基礎的なボケやな。解答は『ろくじょうのみやすどころ』でええやろ。で、ここまで書いたら分かると思うけど『源氏物語』のヒロイン(の1人)な。『葵』の巻で主人公・光源氏の北の方(正室)やった葵上に憑依して殺してまう」
ユーリ「そこに陰陽師でも出て来たらそのまま平安伝奇ロマンが完成しますね」
バレリア「残念やけど露骨にそななんは出てけえへん。そーゆーネタが好きな人は『妖説源氏物語』か『平安妖異伝 道長の冒険』を読みまい」
「妖説源氏物語」:富樫倫太郎・作。中央公論社より出版。源氏の戸籍上(?)の息子・薫と孫の匂宮を主人公とした伝奇小説らしい。なお、筆者はまだ読んどらん。
「平安妖異伝 道長の冒険」:平岩弓枝・作。新潮社より出版。「平安妖異伝」シリーズ最新作。藤原道長が無明王を倒すべく、中国大陸に渡るという筋立てらしい。筆者はまだ読んでない。すんません。
ユーリ「でも、どうして葵上を殺害するんですかねえ。紫上の方が効果的だと思うんですが」
バレリア「葵上が死んでしばらく経ってからやけんな、紫上が北の方でないとはいえ源氏の妻となるんは(処女喪失の意味。その時彼女は満13歳)。それに、とりつく直前に葵上の従者が御息所の従者をさんざんどつきまわした上に牛車も一部壊しとるけんなあ。思い切り恥をかかされた訳やで」
ユーリ「『菊と刀』ですかあ、懐かしいなあ。で、とどのつまりは日陰の女の嫉妬ということですか?」
「菊と刀」:アメリカの学者、ルース・ベネディクト(女性)による日本文化論。外国人が執筆した日本文化論の古典的名作である。「恥」を日本文化の基盤と述べた。ただ、現在の視点からみるとかなり古めかしい。確か、「菊とバット」って本もあったよなあ。
バレリア「ことによるとそうでないかもしれん」
ユーリ「は?」
バレリア「『源氏物語』には、はっきりと『六条御息所の生き霊が悪さしてましたあ』と書かれとらんのや。たぶん紫式部本人は生き霊や悪霊の存在を信じていたと思うんやけど、あえて略して『生き霊になって恋人(源氏)の妻を殺してもたと思とる』御息所の苦悩を巧みに描写しとる。理性では恋人の正室に憑依するのを拒否するけど、感情がそれを許さへんという人間の業につぶされかかっとるんや」
ユーリ「それって『Role&Roll』2号(新紀元社)の『モーガン・レポート』を想起させますねえ」
「Role&Roll」:初級者への窓口を広げようとしている点を筆者は高く評価している。なお、「ゲーマーズ・フィールド」は「F.E.A.Rゲームのサポート誌」、「RPGamers」(国際通信社)は「お手軽価格のゲームに記事まで付録についてくるマルチ・プレイヤーズ・ゲーム専門誌」とみなしている。ほめているんですよ、当然のことながら。なお、「モーガン・レポート」は「ゴーストハンターRPG02」のサポート記事である。2号に掲載されていたのはいわゆる‘フランケンシュタインの怪物’であった。
バレリア「うむ、あの記事そのものはボリス・カーロフ版『フランケンシュタイン』を観とると2倍楽しめるんやがのう。それはともかく、『怪物にも心が必要だ』は『魑魅魍魎』と言い換えると『御息所も単に悪者にするのは気の毒』と思えてくるんや」
ユーリ「源氏の方が責任重いんじゃないんですか?」
バレリア「あえて否定はせん。六条御息所が精神的に苦しんどる時に源氏は紫上の養育に励んだり、義母・藤壺と密会したりしとるからのう」ユーリ「となると、御息所をゲーム上で扱う場合、クライマックスは精神戦ですかね?もしくは哲学戦闘とか」
バレリア「そうした方がええやろなあ。葵上の死は生き霊だけが責めを負うべきちゃうからのう」
ユーリ「じゃあ、光源氏はダメ人間ということでよろしいですか?」
バレリア「単発シナリオならそれでええんとちゃう?キャンペーンだとそう簡単にはいかんけど」
ユーリ「ところで六条院(源氏)と朱雀院(源氏の異母兄弟)の関係が怪しいというのはどーゆー訳なんですか?」
バレリア「『源氏の男はみんなサイテー』(大塚ひかり・著 マガジンハウス)参照や。朱雀院を『ブラコンのホモっ気ありありの青年』と過激に断定しとる」
ユーリ「次は『今昔物語集』ですかね」
バレリア「さよか。まずは芥川龍之介の今昔モノを読みまい。一番有名なのは『羅生門』やけど。他にも世界で初めて認められた日本映画の原作『藪の中』とか(中略)なんかがある」
ユーリ「でも、『今昔物語集』なんか読んでると古代日本はセックスの点でおおらかですねえ」
バレリア「奈良時代以前なら異母兄妹の結婚は何も問題ないんやから。平安時代なら叔父と姪、叔母と甥というカップルもごく当然やしな。いかん、話を元に戻すで」
ユーリ「はいはい」
バレリア「『今昔物語集』にはトンデモナイ説話もあるな。弘法大師が政敵でもある高僧を呪い殺してしもたり、お寺の本堂で男が女をレイプしようとして仏罰で殺されたり・・・・・・」
ユーリ「古典はそのぐらいにして現代作家の伝奇小説ではどんなのがいいですか?」
バレリア「普通はここで菊池秀行がくるとこやが、故・谷恒生(たに・こうせい)の『魍魎伝説』(双葉社)が結構おもろい。あ、これは『日本書紀』なんかをネタにしとるけど現代モノやったな」
ユーリ「あの人、元々は海洋冒険小説作家でしょ。仮想戦記も書いてますけどねえ・・・・・・」
バレリア「やけど、『紀・魍魎伝説』(角川文庫)は平将門の乱を扱った伝奇小説やぞ」
ユーリ「うーん、あの小説かなりエロい気がしますが・・・・・・」
バレリア「香川出身の伝奇作家・西村寿行(にしむら・じゅこう)ほどエグくはないで」
ユーリ「香川を舞台にした小説書いてくれないじゃないですか、あの人は!」
バレリア「ほやけど、長編『鬼』(角川書店)は『今昔物語集』っぽいデッチアゲ説話に東北超古代文明説をからめて小気味いいで」
ユーリ「あれもキワドイ話だと思うんですけどねえ」
バレリア「どんどん話が下品になりそうやから、今回はここらでやめとくか」
ユーリ「そーしましょ、それがいいです」
(「ロスト・イン・トランスレーション」は卓越した心理描写が見られたので続く)