「信用」を武器にする悪役・イアーゴー

 ユーリ「イアーゴーって誰でしたっけ」

 バレリア「シェイクスピアの四大悲劇『オセロー』に出てくる悪役や。あんたの脳みそはところてんか!」

 シェイクスピアの四大悲劇:「ハムレット」、「マクベス」、「リア王」、「オセロー」の4つ。いずれもしつこいほど上演され、映画化もされている。ただ、「リア王」について当時の評論家ベン・ジョンソン(ソウル五輪でドーピングした短距離ランナーではない。同名異人である)は「余りに偉大で上演不可能だ」ともらしたとか。ああ、だから「乱」は失敗したんだね。

 ユーリ「脳みそがところてんになったら脳死すると思うんですけど」

 バレリア「くだらんとこで反論すな。イアーゴーというのはヴェニス、ようはヴェネティア共和国の将軍オセローの旗持ちで、そのオセローを破滅させる奸臣やがな」

 ユーリ「将軍の旗持ちということは身分は高くない・・・・・・じゃあ社会戦では勝てないなあ。剣術とかマーシャルアーツに優れているんですか?」

 バレリア「そうは思えんな。こいつはフランコ・ゼフィレッリ版『オセロー』では最後に瞬殺されるし」

 フランコ・ゼフィレッリ版「オセロー」:故ルキノ・ヴィスコンティ(真性のホモセクシャル。バイエルンの狂王を描いた映画「ルートヴィヒ」やマレーネ・ディートリヒの扮装が似合い過ぎる少年が実母を犯す「地獄に堕ちた勇者ども」、ダーク・ボガートが美少年に恋をして化粧する「ヴェニスに死す」等で有名)の弟子ともされる映画監督兼舞台演出家フランコ・ゼフィレッリ(ヒロインが巨乳の「ロミオとジュリエット」がことによく知られる)が撮ったオペラ映画。なお、故ヘルベルト・フォン・カラヤンも「オセロー」をオペラ映画化している。

 バレリア「イアーゴーは自身への『信用』を利用する悪人なんや。上官オセローからの信用、オセローの副官マイケル・キャシオーからの信用、オセローの幼な妻・デズデモーナからの信用、ボンボンのロデリーゴーからの信用、その上嫁さんのビアンカからの信用+愛情まで利用して主人公を破滅させてまう」

 ユーリ「そこまでしてオセロー将軍を死に追いやるのはなんでなんです?」

 バレリア「正直言うて逆恨みというか、逆ギレというか。自分を副官に昇進させてくれへんかった不満と将軍が嫁さんを寝取ったんとちゃうかという疑いだけやな、理由は」

 ユーリ「なんか自滅主義ですねえ。奥さんまで利用したら例え復讐が成功しても家庭崩壊だと思います」

 バレリア「そやな。あんたの言うとおりや。たまにはまともな方向に頭が働くことを再認識したわ」

 ユーリ「一言多いですよ、君は」

 バレリア「性格設定の都合上しゃあない。ま、それは置いといて本題に戻らなあかん。さて、どこまで話したかいな」

 ユーリ「家庭崩壊とかいうとこでしたけど、気にかかるのは具体的な復讐方法です」

 バレリア「上官に新婚ほやほやで溺愛しとる年下の妻を殺害させるちゅうことや。まさか嫁さんが不倫しとるとは思いもせんというか、もちろんそんな事実ないんやけど、イアーゴーがうまいこと誘導してデズデモーナが副官とデキとると思いこませてまう。で、怒り心頭に発したオセローが嫁さんを絞殺するまで追いやるんや」

 ユーリ「途中で気付かないんですか、将軍は?」

 バレリア「全然気付かへん。オセローは根っからの武辺者で交渉だとか謀略がいっちょもできへんという設定になっとる。それに、イアーゴーは原則的にウソついとらんのや。『将軍、奥方が浮気してます』なあんてことは1回も口にしとらんのやなあ、これが。『いや、これは言わない方が・・・・・・』とか『まさかそんなことはないと思うのですが・・・・・・』とか言って疑心暗鬼に陥るよう仕向ける」

 ユーリ「ははあ、『99の事実を言って最後の100個目にウソをつく』ってやつですね?」

 バレリア「強引に要約するとそうなるな」

 ユーリ「でも、イアーゴーは最後は何もかも失うんでしょ?」

 バレリア「そらそうや。ボンボンのロデリーゴーに罪を着せようとして切り殺してまうわ、愛妻のエミリアも口封じに殺してしまうわ。ええとこまるでなしや。『人を呪わば穴2つ』どころか穴を3つも4つも掘ってしまうんやから」

 ユーリ「でも、イアーゴー的NPCをセッションに出すの大変ですよお」

 バレリア「第3世代までのシステムやったらGMへの負担が重過ぎるな。シナリオ作成の時点で頭がちぎれるぐらいひねって、参加するプレイヤーとその持ちキャラの性格を把握しておく必要があるんやもん」

 ユーリ「つまりF.E.A.Rゲーをやれと」

 バレリア「それが絶対に正解やとまでは言わへんが、ベターであるのは確かや。ハンドアウト、シーン制、登場判定なんかは映画的展開の再現に適しているからなあ」

 ユーリ「でも、『オセロー』は芝居でしょ?」

 バレリア「オペラ映画にもなっとんやし、構へんやないか。ま、カラヤンのバージョンは映画というより舞台劇を固定されたカメラで撮っただけという印象が強いのは認めざるをえんが」

 ユーリ「でも、どのゲームがいいんでしょーか。『ナイト・ウィザード』は何だか違うと思います」

 バレリア「『ブレイド・オブ・アルカナ』や『エンゼルギア』辺りとちゃうか。『アルシャード』はF.E.A.R系列システムを大胆に簡略化しているきらいがあるし」

 ユーリ「はあ、なるほど。けれど、イアーゴーはラスボスにできませんよ」

 バレリア「トループ扱いの黒幕やろな。エキストラでは宣言だけでつぶされるんでちょっと張り合いが無さ過ぎるわ」

 ユーリ「ゼフィレッリ版では瞬殺されるんですからエキストラでもいいのでは?」

 バレリア「いや、映画を観たら分かることやけど、あれは神業。死に方がすさまじ過ぎる。なんにせよ、嫉妬により狂気を抱いたオセロー将軍を・・・・・・」

 ユーリ「倒すんですよね?」

 バレリア「それもありやがデズデモーナに特殊なコネや感情持っとるPCに酷や。妻殺しを阻止せんとして将軍と戦い、戦闘能力を奪った上でイアーゴーをオラオラパンチでどつきまくるんがええ」

 ユーリ「そんなものですかねえ。さて、今回はこの辺で」

(ダニー・ボイルの「シャロウ・グレイブ」はB級だけどそこそこいいので続く)
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