「マクベス」から学ぶコミュニケーション断絶の問題

 ユーリ「まずは『マクベス』のあらすじの紹介をしませんと……」

 バレリア「そやな。以前、黒田幸弘さん(通称クロちゃん)が『RPG千夜一夜』かなんかで誤解を招く紹介しとったしの」

 黒田幸弘:ボードSLG(だけじゃないけど)の名デザイナー。

 バレリア「『マクベス』はシェイクスピアの悲劇。あらすじは一言で表現すると、『主君殺しとその報復』。11世紀のスコットランドの武将マクベスが魔女に『将来、スコットランド王になる』と予言され、その妻と共謀して王を暗殺して王位につく。ほやけど、イングランドに逃亡した王子らに反撃されて討ち死にして果てる。とまあ、こんなもんかのう」

 ユーリ「あのー、バレリア。スコットランドとイングランドは別の国なんですか?」

 バレリア「時代背景が11世紀やけんな。17世紀にスチュアート王朝が成立するまでスコットランドとイングランドは別の国や」

 ユーリ「で、『コミュニケーション断絶の問題』ってのは……」

 バレリア「『マクベス』は芝居、それも舞台装置の未発達な17世紀初めに上演されただけに、その分までセリフで説明せなあかん。ところが……登場人物の言葉が『空回り』しとるんよな。特にヒドイのがマクベスの嫁さん。王殺しを躊躇するマクベスを必死に説得したそのすぐ後に、来訪した王を美辞麗句を並べ立てて歓迎する。もう『言葉』がコミュニケーションの道具でなくなっとるんよ。これは同じ頃の『ハムレット』にも若干見られるけど、それを上回っとる」

 「ハムレット」:シェイクスピアの戯曲中、四大悲劇(後の3つは「マクベス」、「オセロー」、「リア王」)の1つ。「ゲーマーズ・フィールド」で「ブレイド・オブ・アルカナ」のシナリオのネタになっていましたね。でも、例え殺戮者を倒せてもオフィーリア(ハムレットの彼女)は発狂する方がいいなぁ。

 バレリア「その後でマクベス夫妻は力を合わせて(?)王を暗殺するんや」

 ユーリ「推理小説でないとはいえ、アリバイ工作とかはどうやったんです?」

 バレリア「王の護衛役を酒で眠らせて血のついた凶器を持たせた上に、目を覚まさない内に彼らをマクベスが憤激したフリをして口封じのために惨殺。そんだけ。で、黒幕は王子ということにしたんや」

 ユーリ「コロンボ警部(ピーター・フォーク)の出る間もなくばればれですよ」

 コロンボ警部:よれよれのトレンチ・コートとボロ車がトレードマークの名刑事。でもねー、シリーズ第1作「殺人処方箋」ではぱりっとした格好してたんだよ。ドストエフスキーの「罪と罰」でしつこくラスコリニコフを追求する判事(だったっけ?)がモデル。

 バレリア「やけん、『コミュニケーション断絶』というとろうが!誰もがマクベスの言動に疑いを持ったんや。で、戯曲内ではある者はスコットランドを去り、ある者は逆にマクベスに疑いを持たれて家族を皆殺しにされ、マクベスの無二の親友すら暗殺されてしまうんや」

 ユーリ「ドロドロですねえ。でも、あの嫁さんはうまく夫を盛り立てていったんでしょ?」

 バレリア「いんや。マクベスのエスカレートする暴君ぶりについていけなくなってしまうんや。そして、この夫婦に亀裂が起こり、マクベス夫人は遂に神経症(心の病)になってそれを癒せぬまま命を落とす。それを聞いたマクベスは『妻もいずれは死ななければならなかった』などと冷淡な感想をつぶやくだけ」

 ユーリ「TRPGとは何の関係もないような……」

 バレリア「あるわい!この数年間に出版されたTRPGのシステムを見てみい!『いかに効率よくキャラクター(及びプレイヤー)間のコミュニケーションを発展させるか』ということに気を配ったものが目立つやろが。N◎VAでいうところの『コネ判定』や天羅万象・零での『裁定者ルール』、『邂逅ロール』とかが筆頭やなあ。ほやけど、ここにも落とし穴がある」

 ユーリ「システムに問題があると?」

 バレリア「ちゃうちゃう。プレイヤーに問題があるんや。なんぼシステム支援を受けてもプレイヤーがそれを無視するのなら、どうしようもない。これはGMにも言える。コミュニケーション推進システムを誤解したような場合にのう」

 ユーリ「つまり、君はTRPGで遊んでいても『マクベス』的世界が襲ってくると言いたい訳ですね?」

 バレリア「その通り。もっとも、これが飛躍した論理であることを筆者は否定していない。『例え話』みたいなもんや」

 ユーリ「今回はこの辺で」

(「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」はお薦めなので続く)

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