中世・近世の銃火器(ヨーロッパ)

 ユーリ「意外にボードSLGゲーマーは中世・近世ヨーロッパテーマ、嫌いですね」

 ボードSLGゲーマーに嫌われてる:筆者の知っている限りではそうである。

 バレリア「まあの。ヨーロッパで黒色火薬を用いた銃火器が使われるんは13世紀辺りまでさかのぼれるけんど、絵画なんか見ると大砲なんやら鉄砲なんやらよお分からん代物やわ」

 ユーリ「まあ、当時はクロスボウやロングボウが主流ですからね」

 バレリア「あほ、そんなんは14世紀以降や」

 ユーリ「は?」

 バレリア「クロスボウやロングボウは騎士の衰退の頃に現れた『ハイテク兵器』なんやで。特にクロスボウは威力がでかいんで教皇が『異民族に対してだけ使え』て言うとるぐらいや」

 ユーリ「でも、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)を滅ぼしたのは大砲ですよ」

 バレリア「ああ、大砲で城壁ブチ壊したんやったな、確か。ほやけど、あれはオスマントルコ帝国のメフメト2世が使たやろが。ヨーロッパで有効な銃火器が出てくるんは16世紀以降や」

 ユーリ「日本で言えば戦国時代ですね」

 バレリア「それについては次回取り上げるがな。とにかく、初期の銃火器−大砲と小銃−は全く信頼性がない。大砲は重いだけやのうて、金属の球を発射するだけやけん攻城戦ぐらいしか使えんのや。小銃も有効射程100メートル以下で命中精度悪いし、クロスボウすらマトモなものが作れなかったぐらいやから『超ハイテク兵器』もろくなものがでけへん」

 ユーリ「はあ……」

 バレリア「ほやけど、16世紀後半から17世紀中盤までの間に銃火器は戦場の主役の座をクロスボウとロングボウから奪ったんや」

 ユーリ「何でですか?」

 バレリア「相変わらず聞き手にまわりおって。信頼性の向上と新戦術の登場、それに技術革新やな。近世までの小銃の発射間隔は分当たり2発。これはクロスボウのそれと大差ない。ロングボウは訓練すれば分当たり12回」

 ユーリ「あの〜、それですと小銃は逆立ちしてもロングボウに勝てませんよ」

 バレリア「やから、技術革新ゆうとるやろが。日本で言う『早合(はやごう)』、つまり装弾時間縮減の道具を使うと分当たり5発は撃てる。それだけやのうて、オランダ独立に貢献したマウリッツ公による小銃の革命的使用法も大きいのう。大砲の場合はグスタフ・アドルフのおかげで平地での会戦で大活躍できるようになったんや」

 グスタフ・アドルフ:17世紀最強の軍事国家スウェーデン(人口はたったの150万人だが……)国王。30年戦争に介入し連戦連勝を誇ったが、志半ばにして戦死。が、戦死した会戦でもスウェーデン軍は勝利を収めてしまった。

 バレリア「グスタフ・アドルフ時代までは大砲は皆クソ重い青銅製で機動力っつーものがまるでなかったんや。ところが、上杉謙信みたいに戦術的天才でもあった国王は数人で動かせる小型の大砲を大量使用して、大砲の軍事的役割を『革命』させてしもうたゆうこっちゃ」

 ユーリ「なんだか、佐藤大輔の『覇王信長伝』みたいですね」

 佐藤大輔の「覇王信長伝」:作者が以前ボードSLGデザイナーだったことも手伝ってか、叙情性を徹底的に排除した仮想戦記。信長が大砲の集中使用で歩兵突撃を粉砕するシーンがある。

 バレリア「小銃についてもうちょい触れておく必要があるの。16世紀に普及したっちゅうても、当時は火縄銃やったからなあ。30年戦争時代の時点では有効射程なんかにも問題あったんや。その辺が改善されるんは17世紀に火打ち石式銃が開発されてからや」

 ユーリ「火縄式の銃ですと、雨にも弱いですしねえ」

 バレリア「その辺のことも実際には特殊な蓋をこさえることでかなり改善されとったんやがの」

 ユーリ「今回はここらで終わりにしときましょう」

 バレリア「次回は日本の中世の銃火器やで」

 ユーリ「戦国時代ってもう一回はっきり言ったらどうですか?」

参考文献:「歴史群像」第11,17号 学研
「世界の歴史 3 中世ヨーロッパ」 中公文庫
「生活の世界歴史 6 中世の森の中で」 河出書房新社

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