TRPGのシナリオネタとしての試験利用法

 ユーリ「季節柄、よろしくないような……」

 バレリア「何を言うとんや。『TRPGのシナリオネタ』と但し書きがあるやろが!」

 ユーリ「でも……」

 バレリア「ちゃきちゃき話進めるで。まず、『試験は何のために行なうか?』やな」

 ユーリ「うーん、時代・国家・地域によって異なりますから、返答に窮しますよ」

 バレリア「ちっ、あんた少しは賢くなったんやな。まずは中世ヨーロッパ風ファンタジーのTRPGからやな」

 ユーリ「最近、『中世ヨーロッパ風ファンタジーTRPG』なんて流行らないような……」

 バレリア「やかましい、黙っとれ。ほじゃけえ、あんたはあかんたれなんじゃ。『ソード・ワールド』なんざベテランに酷評されることが多いけんど、ぶちプレイされとる」

 ユーリ「今度は広島弁モドキですか。でも、ファンタジー世界の『試験』なんていわゆる『試練』ぐらいじゃないですか?」

 バレリア「ふう、これやからあんたは……。あんなあ、『試練』いうんは『成人式』なんや。英語でいうならイニシエーション(通過儀礼)やの。ファンタジー世界の試験やったら、修道院や魔術師ギルドで『資格』を取るために受けるっつーのが一番楽な利用法やないかい。ほんぐらい考えとけ!」

 ユーリ「それだけですか?」

 バレリア「商人や職人のギルドでの徒弟からの昇格試験とかな」

 ユーリ「そんなもの、シナリオになりませんよ」

 バレリア「ふう、暑いのう、日本は」

 「ふう、暑いのう、日本は」:香川県のタウン情報誌「タウン情報かがわ」の投稿コーナー「笑いの文化人講座」に採用されたネタ。特に深い意味はない。

 バレリア「ギルドはルネサンスの頃になると自由な売買の阻害要因になっとったんや。無理を承知でいうなら、日本の中世にあった『座』というのんに近いの。で、職人をこれ以上増やしてそれまでの親方の利益を侵害する恐れがあるってんで超奇問・難問を徒弟に課したんやな。ほやけん、『楽市楽座(仮)じゃー』とか言って徒弟が闘うセッションでもぶちかましたれや」

 ユーリ「『水戸黄門』みたいですね」

 バレリア「で、舞台が現代のTRPGで……止めとこ。やっぱ普段苦しめられているものなんてちっともおもろないわ。近未来に移るか。近過去でもええけど」

 ユーリ「伏見健二さんの『ギア・アンティーク』なんかに応用できるんですかね。筆者は旧版も『ルネッサンス』も持っていませんから、近過去用の試験シナリオネタなんて思い付かないんじゃないんですか?」

 バレリア「何を言うと。近過去を近代、ことに19世紀終わりから20世紀初め、に置き換えて考えたらええんや」

 ユーリ「と言われましても……」

 バレリア「全寮制の高等中学という閉鎖空間で苦悩する学友を救うために死ぬとかな」

 ユーリ「試験が出てこないじゃないですかあ。それに、そんな四半世紀も昔の話、よくもヌケヌケと言いますね。恥ずかしくありませんか」

 バレリア「ふん、反抗的になりおって。うちが複線型学校制度のことを前に教えたやろが!」

 ユーリ「教育学部のゲーマーでなきゃ知りませんよ!」

 バレリア「ええか、複線型ってのは日本―ただし、戦前は別―の学校制度の逆なんや。かなり早い段階で子供達を試験結果等で全く異質の上級学校に振り分けてしまうってやつやな」

 ユーリ「えー、でも日本だって試験で高校・大学に振り分けされるじゃないですか」

 バレリア「それは結果的なものであって法律に組み込まれた制度とちゃうやろが。例えばドイツなんかの場合だと、ギムナジウムという高等中学に行かないと原則的に大学入学試験を受けることすらできへんのや。日本は戦後の教育改革で単線型に変わったけどな、さっきも言うたように」

 ユーリ「もう、大体どういうセッションを提案するか想像できましたよ……」

 バレリア「ほー、何や、言うてみまい」

 ユーリ「なまじ頭の回転が速いために複線型学校制度に矛盾を感じ、公教育の破壊を目指す悪の組織の美人女幹部が文部省(仮)を襲撃するとか」

 バレリア「あんたの言うとることの方がよっぽど恥ずかしわ!それやったら、ピカレスク・ロマン(悪漢小説)になるやろが。あんな、TRPGのシナリオは『勧善懲悪』の体裁で作る方がプレイヤーには分かりやすいんや。GMも楽やしな」

 ユーリ「じゃあ、悪の組織の美人女幹部の文部省(仮)襲撃を阻止するとか……」

 バレリア「ええかげんにせんかい!」

参考文献:「世界の学校」 福村出版
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