シャーロック・ホームズに学ぶ聞き込み法

 ユーリ「100年以上前の推理小説持ち出すってのもちょっと……」

 バレリア「何言うとるんや!ホームズものはいまだ全世界に熱狂的なファンがおるんやぞ。『ギネス・ブック』によると彼は映画史上最も多くスクリーンを飾った人物や。ま、それはそれでええとしてや、聞き込みに関しては『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されとる『青い紅玉』が一番参考になるの」

 「シャーロック・ホームズの冒険」:ホームズものの第1短編集。いきなりホームズが失敗する話から始まる辺りがなかなか。やはり「赤髪組合」がピカイチ。「オレンジの種5つ」も後味の悪さという点ではシリーズ最高である。(題名は新潮文庫版による)

 ユーリ「どんなとこがですか?」

 バレリア「ホームズがガチョウを売りさばいている親父から買い取り先を聞き出す場面の見事さやろな」

 ユーリ「世界一の名探偵が何でそんなしょうもないこと聞き出すんですか?」

 バレリア「それ説明しょったら『青い紅玉』の内容あかさないかんやないか。そこんとこの場面のみに触れてみるわ。とにかくな、そのガチョウ売りの親父が頑固者でホームズが『君、このガチョウはどこから買い取ったものかね?』という彼独自のきどった口調で尋ねたんや。そしたらそいつ急に怒り出したんや。『ガチョウをどこから買い取ったなんていうこたあどうでもいいじゃねえか!さっきから何べんもしつこくしつこくしつこく(中略)しつこくしつこく尋ねられてんだぜ!』とかいう風にの」

 ユーリ「あのー、小説とはかなり口調が違うような気がするんですけど……」

 バレリア「やかましわ。多少の脚色せんと変に文語調になるけんな。で、ホームズは即興で『それじゃあ、仕方がない。賭けは中止だね』と言ってのける。頑固親父は急に態度を変えて『賭け?そいつはおもしれえや』と乗り気になって、賭けることでホームズに全ての手掛かりをベラベラしゃべってしまった訳や」

 ユーリ「何でその親父が賭けに出るってホームズは分かったんです?推理ですか?」

 バレリア「観察やがな。親父はズボンのポケットからスポーツ新聞を覗かせとったからの。それでギャンブル好きと判断したんや」

 ユーリ「説得力があるようなないような……」

 バレリア「そこはそれフィクションやから。小さいことには目をつぶるのが礼儀やで」

 ユーリ「あのー、バレリア」

 バレリア「何や?」

 ユーリ「冒頭の説明とかなりくい違ってる気がするんです」

 バレリア「大したこっちゃない。とにかくなあ、ホームズの聞き込みというのは半ば誘導尋問に近いんや。聞かれた側が意識してないのにポロリとこぼしてしまう、それやから名探偵なんや!」

 ユーリ「コロンボと似たようなもんですか」

 コロンボ:ご存じ、「刑事コロンボ」の主人公。演ずるは名優ピーター・フォーク。「アンツィオ大作戦」とか「名探偵登場」(続編もある)に出演していることは何か忘却のかなたにあるような……。豆入りのチリが好物。犬を飼っている(「断たれた音」で活躍した)が、名前をつけていない。イタリア語ペラペラ(イタリア系移民なので)。

 バレリア「そやな。あんたも20年に1回くらいはええことを言うことかの。ま、話を戻すと、ホームズはたいがいのTRPGのPC同様あくまで民間人なんや。つまり、彼は職権行使による聞き込みができへん。やから、相手の自尊心をあおったり、世間話に見せかけたりして聞き込んでいく。ちょくちょく『クトゥルフの呼び声』みたいに活字の出版物、主として新聞やが、を利用することも多いがな」

 ユーリ「でも、ワトソンが足を引っ張っているような気がするんですけど……」

 バレリア「あんたはグラナダTVの『シャーロック・ホームズの冒険』を見たことないんか!!」

 グラナダTVの「シャーロック・ホームズの冒険」:「とにかくどんな手間をかけてでもパーフェクトなホームズものを再現しよう」という壮大な構想の下に作られたTVドラマ。ホームズを演じていたジェレミー・ブレッドが死去したため、全作品(短編56、長編4)を映像化することはできなかった。ワトソンを原作通り「良識を備えた紳士」として描写したことをバレリアは言っているのである。

 バレリア「それから、ホームズものの最高傑作『バスカヴィル家の犬』も必読」

 ユーリ「どうしてですか?」

 バレリア「この長編ではワトソンがホームズとの付き合いで学んだ聞き込み法を実践しとるんや」

(ソフィア・コッポラ監督の「バージン・スーサイズ」はすげえ!ので続く)

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