廃棄物の定義
日常の生活の中では「廃棄物」という堅い言葉できなく「ごみ」という言葉を使う。ごみと廃棄物は同じものかというと、法律上は違う。つまりごみは廃棄物だが廃棄物のすべてがごみではない。
「ごみ」という言葉は和語だから、カタカナで標記するのはおかしい。
ごみの語源は定かではないが「散込」の略、とか「木積み」の転化したしたものとか、「こみ」澇 からきたものとかいろいろな説がある。
日葡辞書(1603)では「ごみ」はにごり水にたまる泥のことをさし、草木の屑やわら屑などは「あくた」としている。
塵芥、芥塵、などの字を当てる。塵は10億分の一、芥は1000億分の一。塵埃(あい)。埃は100億分の一。(分厘毛毫絲忽微繊沙塵埃渺漠 模糊 空清浄(10-24))
〔ちり〕dust;〔がらくた〕junk;〔ごみ〕《主に米》garbage,
trash,《主に英》rubbish 〔廃棄物一般〕refuse [réfju:s];〔一般に,または台所の〕garbage,《米》trash,《主に英》rubbish;〔ちり〕dust/waste――廃棄物 bulky waste 粗大ごみ、combustible 可燃 incombustible 不燃 |
漢字からイメージできるように、もともとごみという言葉は大変小さいちりやほこりを指していた。それが今では「粗大ごみ」漢字で書けば「粗大塵芥」という妙な言葉が使われるようになっている。
最近制定された法律には、副産物とか循環資源という新たな言葉が使われている。廃棄物の定義の問題を避けるために新たな用語が使われるようになったものだが、概念や定義が統一されていない現実を示している。
法律上の定義では「「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物または不要物であって、固体または液状のもの(放射性物質及びこれに汚染された物を除く)をいう」(新版ごみ読本p52)
つまりごみは廃棄物に含まれるが、廃棄物はごみ以外のものも含むということである。
この定義では「ごみ、粗大ごみ」以外の物は具体的にわかるが、「ごみ、粗大ごみ」については説明がない。ではいったい「ごみ」というのは何だろうか、ということになる。
かつてはごみはまったく無価値なものという共通の概念があったが、今ではそのものが製品や資源としての価値を持っていたしても、所有者にとって不要となり所有の意志を放棄し、処理する目的で廃棄したものがごみである。法律の解釈もそのようにされている。
法律では資源とごみを区別して、「専ら再生利用に供するもの」は廃棄物処理業の許可がいらないことになっている。すなわち廃棄物ではないといっているわけである。
資源と廃棄物の区別はどうするか。有価で取り引きされるものは資源、処理費を伴うものは廃棄物だと、通達している。
これによっていろいろな問題が発生している。古紙やボロ、鉄くずなど従来から資源として扱われてきたものが、価格の低落で処理費を伴うようになっている。これを逆有償という。逆有償のものは廃棄物ということになると、古紙問屋のヤードは廃棄物処理施設ということになり、規制を受ける。
逆に誰が見ても廃棄物であっても、これは有価で売れると言い張ると、廃棄物として規制を受けないことになる。1円で買って、処理費は別名目で取るといった脱法行為が実際に行われてきた。
このようなことから廃棄物をいかに定義するかは重大な問題となっている。2003年改正では有価物と称して野積みしたりしているケースについて、廃棄物と見なして規制ができるようにした。
廃棄物をどう定義するかということは、廃棄物管理の制度設計に関わる重要なテーマである。一般に環境省では廃棄物をできるだけ広く定義して規制の網をかけようとし、経産省や経済界は定義をできるだけ狭くしようする見解を持っている。
個別リイサクル法として、家電リサイクル法。食品リサイクル法などいろいろな法律ができているが、これらの法律では例外的に廃棄物処理法の規制を緩和するという仕組みになっている。
廃棄物の定義の考え方をおおざっぱに言うと、個人の用に立たないものは全て廃棄物だとする考え方と、社会的に有用なものは廃棄物とすべきでないという両方の考え方がある。ここで廃棄物と言っているのは、規制の対象になる廃棄物という意味である。
個人にとっては役に立たないものはどんなものであれ廃棄物として規制しないと、それを収集したり処理したりする過程でいろいろ環境汚染を引き起こす可能性がある。リサイクルするための取引や流通は、監視しながら認めていくべきだ。という考え方と、個人にとっては役に立たないけれども、社会的にはなにがしかの利用価値がある。そういうものはある程度自由な市場の取引や流通に委ねた方が、効率的な処理ができる、という考え方が対立している。
もうひとつの考え方は、その取引に於いて、有価か無価ということである。これは外形的にはわかりやすいので、先に述べたように便宜的に有価物は廃棄物ではない。無価物は廃棄物だというように定義されてきた。
しかし有価無価というのは原材料市況によって大きく左右される。例えば古紙は今中国やタイ、台湾などアジア諸国の旺盛な需要で国際価格があがっている。そのため国内相場も上がっているが、4−5年前には問屋が回収業者から古紙を買うのではなくお金を取るというような状況もあった。
また価格が上がっているといつても、末端では家庭から古紙を買い取るという状況ではない。むしろ自治体が補助金を出して集団回収を行っている。
こういうものは伝統的にリサイクルされてきたものであるから、「専ら物(もっぱらぶつ)」として逆有償でも廃棄物の対象外とされてきた。先ほどの古紙問屋のヤードの話は、専ら物と言うことで廃棄物処理施設ではないということになっている。
もうひとつの例を挙げると、ペットボトルがある。ペットボトルは容器包装リサイクル法で自治体が回収したものを事業者が引き取るというスキームになっていて、その費用を事業者負担している。
ちなみにその費用(再商品化委託費用)は1s当たり31円である(17年度、16年度=48
円 、15年度=64 円、 14年度=75
円、 9年度=101円)。回収したペットボトルはフレーク状にされ、繊維やフィルム、成型品の原料になるが、再商品化委託費とは自治体のストックヤードからの運賃と選別、洗浄、加工などの費用に充当される。
ところが、である。最近は古紙や鉄屑など同様に、中国で廃ペットボトルの需要が高まっており、国内でも輸出する為に、有価で売買されている。その価格は1sあたり8円とも10円とも言われる。先日ある業者に聞いたところでは20円だという。
私のところにも「中国向けに8円で買う」というバイヤーが来たことがある。350ミリリットルのペットボトルに換算すると1本0.5円くらいになり、アルミ缶並みの価格になる。容器包装リサイクル法にしたがうと30〜40円もの費用がかかり、輸出ルートのある業者に引き取ってもらうと8円もらえる。1トン当たりにすると差し引き5万円前後の格差である。
国内にもペットボトルの再商品化施設が増え、またペットボトルをボトルにもどすケミカルリサイクルの技術が確立されて再商品化の手法として認められたことから、需要も格段に増大している。しかし工場を造っても容リ協会ルートで入手できる原料が限られており、そのために事業系のごみから回収されるペットボトルを有価で購入してまかなうところもあると聞いている。
容リ協会ルートすなわち家庭から排出されて自治体が分別収集した物は、処理費が支払われてリサイクルされるが、事業系はお金を払ってくれる。言い換えれば、容リ協会が支払う再商品化委託料で足りない原料を購入すると言う形になり、きわめて不合理である。
有価で取引されているなら明らかに廃棄物ではないはずだが、容器包装リサイクル法のスキームでは処理費が支払われているわけだから、明らかに廃棄物である。このことも不合理と言わざるを得ない。
こういう例はたくさんある。家電製品でも正規の処理をすれば、テレビは2835円の家電リサイクル券を買って処理してもらう必要がある。しかしこれを買って集めて回っている業者がいる。もちろんこれは輸出されるのだが、有価物である。したがって廃棄物処理法の規制は受けない。
つまり家庭から出るテレビは廃棄物なのかどうなのか、ということが法律的に安定しないことになる。これが道ばたに捨ててあると、廃棄物の不法投棄なのかそれとも有価物をおいているのだから不法投棄とは言えないのか、というようなことになる。
このような問題の典型的な例が自動車の不法投棄である。放置自動車というように言い方がされるが、そもそも自動車は廃棄物であるという定義がされていない。実態として処理費を支払わないと処理できなくなっているのだが、かつては鉄くずとしてどんなポンコツでも売れていたから、廃棄物かどうかと言うことが明らかでないのである。
だから処理費を払うのがいやで、そのへんの農道や山道に放置していく輩が少なくない。しかしこれは廃棄物かどうか不明確なままなので、不法投棄ともみなせず、しばらく様子を見て、警告書を出して、所有者が特定できないとなってようやく撤去する、というようになっている。その場合でも所有者が特定されても廃棄物処理法違反で検挙されたというような例はきいたことがない。
廃棄物であるかどうかという定義が曖昧なので、こういう問題が起きる。家庭から出た自動車は一般廃棄物か、という問いには、今でもだれも応えられない状況である。
自動車リサイクル法は、破砕したときのダストの処理費などを所有者からあらかじめ徴収するということで、廃車にする場合の負担をなくし、不法投棄をなくそうということもねらいになっている。しかしそれでも自動車がどういう廃棄物なのかは定義されないままである。
産業廃棄物と一般廃棄物の区分も曖昧である。同じ性状のものでも排出元によって産業廃棄物になったり一般廃棄物になったりする。産業廃棄物と一般廃棄物では処理責任の体系が違う。処理ルートも違う。処理料金も違う。規制もまったく違う。
このように廃棄物をどう定義するかということは、廃棄物処理システム、社会制度設計の根幹に関わる問題である。なぜこういう混乱が生じているかというと、焼却・埋立という体系から、リサイクルへと処理の主流をシフトしていこうとしているからである。リサイクルというのは民間の経済活動であり、廃棄物処理は公共的な事業である。民間の事業を効率良く行うには規制は少ないほどよい。しかし環境汚染のリスクを回避する為には規制を強化することがもっとも効率的な政策手段である。
こういう2つの考え方のあいだで法律がつくられているので、現場ではいろいろな矛盾が出てきている。
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