『自由の剥奪、知られざる権力FEMA、 そして日本にも、、、国家秘密法』

「おい、向こうから例の夢見るお方がやって来る。 さあ今だ。あれを殺して穴のひとつに投げ込もう。 後は野獣に食われたと言えばよい。 あれの夢がどうなるか見てやろう」

創世記三七・一八−二〇

 皆さんの中に、劇場版X−FILESをご覧になった方はいらっしゃるだろうか? その映画の中で、ある老人紳士が「殺人エイリアンがアメリカ国内を野放しに動き回った場合、 ”FEMA”という影の国家権力が行動を開始するかもしれない」と語っている。 結局、映画ではFEMAが実際に登場することはなく、言葉だけの表現で終わってしまったために、 FEMAが一体どのような組織であるのか、 もしくは現実にFEMAが存在するのか疑問を持った方もいたのではないかと思う。
 FEMAとは、連邦緊急管理庁と呼ばれる実在の政府機関で、 自然災害救助と民間防衛計画に対応する機関として39代大統領ジミー・カーターが設立したものである。 『災害救助』というと聞こえはいいが、 ロナルド・レーガン政権時代にFEMAは危険極まりない体制に変貌する。 1984年10月、コラムニストのジャック・アンダーソンは記事の中でFEMAを 「憲法および憲法修正条項を執行停止にし、手際よく私有財産を没収し、 自由企業を廃し、アメリカ人を広く全体主義的に締め付ける」と説明した。 ボストン大学の政治学者ヘンリー・クライマン博士は 「FEMAは、いつか国家そのものを乗っ取ることになるだろう。 その官僚たちも認めるように、FEMAの本当の役目は、ひたすら準備して待ち、 アメリカを警察国家に変貌させるに十分な、何らかの深刻な事態が起こったときに、 これを乗っ取ることにあるのだ」と語っている。 FEMAは、まるで『クーデター』と呼べるような活動を法的に認められている機関なのだ。 FEMAは大衆操作の指導者養成を目的とした特殊訓練計画を実施し、 訓練を受けた者は1万4000人にのぼるという。
 FEMAは自然災害にとどまらず、「何らかの国家危機に類する情況の中で 政府の存続も保証する必要のあるときには」いつでも介入することができる。 では、政府にとって危険な事態が発生した場合、どのようなことが起こりうるのか? 答えは、そのときに発動しうるEO(大統領令)にある。

 EO10995:言論の自由の剥奪、通信メディアすべての徴用。
 EO10997:電気その他の燃料源の没収。
 EO10998:農地を含む食糧源を政府の管理下におく。
 EO10999:公共・私用を問わず国内の輸送力すべての没収。
 EO11000:市民労働団の結成を強行する。
 EO11001:健康、教育、福祉における施設や事業のすべてを没収。
 EO11002:国民総背番号制の実施。
 EO11003:航空機、空港をすべて没収する。
 EO11004:国民をある地域から別の地域へと移すことを命じる権限を政府はもつ。
 EO11005:鉄道、水道、倉庫の没収。
 EO12148:この法令は政府の機能を引き継ぐ権限をFEMAに与えている。

 無論、これらの大統領令は議会によって立法化されているものであり、 国の緊急事態では直ちに市民権の剥奪を実行することが可能なのだ。 何とも恐ろしい! 全世界の中で最大最高の民主国家であるアメリカにはこのような反民主的な政府機関が存在するのである。 『自由の国』アメリカの自由とは、政府管理のもと、一本の糸の上でその体裁を保っているようなもので、 政府の一方的な都合でその糸がプツリと切られてしまうことにもなりかねないのだ。

 市民権を剥奪するアメリカの政府機関FEMA。 しかし、民主主義の精神を汚す法的材料はアメリカだけでなく、 我が日本にも存在する。 それは国家秘密法、そして精神保健法だ。 2つの法律ともに、直接的に国民の自由な権利を束縛するような構成になっているわけではないのだが、 執行する側の解釈によって、いくらでも悪用が可能であるという。 故・手塚治虫氏を含む複数の作家らによって執筆された『国家秘密法を考える』には、 2つの法律に対し、様々な懸念が記されている。
 国家秘密法は、これまで日本が他国によるスパイ活動に対して無防備であったことを教訓にして制定されたもので、 国家の防衛機密の国外漏洩を防ぐことを目的としている。 この法律の内容を一部だけ以下に示す。

第一条
この法律は、防衛秘密の保護に関する措置を定めるとともに、 外国に通報する目的をもって防衛秘密を探知し、若しくは収集し、 又は防衛秘密を外国に通報する行為等を処罰することにより、 これらのスパイ行為等を防止し、もって我が国の安全に資することを目的とする。

第四条
次の各号の一に該当する者は、無期又は三年以上の懲役に処する
一.
外国(外国のために行動する者を含む。以下この条及び次条において同じ。) に通報する目的をもって、又は不当な方法で、防衛秘密を探知し、又は収集した者で、 その探知し又は収集した防衛秘密を外国に通報したもの
二.
、、、

第六条
次の各号の一に該当する者は、十年以下の懲役に処する
一.
不当な方法で、防衛秘密を探知し、又は収集した者
二.
、、、
 ここで問題であるのが条文にある『防衛秘密』だ。 大体、防衛秘密は何であるのか? 民主国家として、政府が、外国はもとより日本国民に知られたくない秘密があっていいものなのか? しかも、政府は秘密を握った人間を法的に公然と始末することが出来るのである。 国家秘密法は、日本国憲法上、最も尊ぶべき『言論の自由』をも否定してしまうことにもなるのだ。 スパイ防衛のはずが、自らによるスパイ攻撃へと変貌する、、、 CIAに似た恐ろしさを持ち合わせた、全く持って軽視できない危険な法律である。
 最後に、精神保健法であるが、この法律には次の制度が盛り込まれている。
応急入院制度
指定医が「医療および保護の必要」があると認めると、 『精神障害者』は、いつでも、どこでも、だれでも、72時間も強制入院させられる。 指定医の指定・資格剥奪は厚生大臣が行う。
 この法律の恐ろしい点は、政府が、政府にとって邪魔となる人間を、 政府自身が指定した医師によって、 『精神障害者』と都合良く決めつけることが出来るということだ。 精神病院へ隔離してしまえば、その医師が邪魔者を『好きなように処置』してしまえばよい。 あくまで、このことは想像に過ぎないのだが、精神保健法では問題なく実現可能なのである。
 法律というものは、人間社会の中で、人々が不条理を被らないように、 そして最高とはいかないまでも「よりよい」生活が送れるために必要である。 だが、法律は扱う側の解釈により、悪用されてしまうことも数多い。 この問題を解決するにも、扱う側のモラルを問うことは、その対象が個々であるため極めて困難である。 むしろ、法律について、対応力に富んだ機能性の向上を図ることが得策ではなかろうか。 そのためにも、法律の立案に関しては、幅広い分野の人々を議論に参加させ、 惜しみなく時間を費やして熟考することが必要なのである。 一部の人々の利益にそくした法律など決してあってはならないはずだ。

参考文献:
「超陰謀」60の真実 ジョナサン・バンキン&ジョン・ウェイレン 徳間書店
[超極秘]第四の選択 ジム・キース 徳間書店
国家秘密法を考える 茶本繁正他