『第二次大戦後の日本軍の戦犯とアメリカの関わり』
「正義は国を高くし、罪は民をはずかしめる」
箴言十四・三四 口語訳
現在、日本は不況のまっただなかだ。
知識人たちはテレビ番組の中で「このままでは日本は滅びる」とか
「日本は金融戦争で再びアメリカに負けた」など、なかなかに過激な発言をしている
(金融戦争でのアメリカ、IMFの陰謀については、いづれ別の機会に)。
しかし、どこか彼らの熱心な言葉が私の心に響かないところがある。
これは、私だけのことではなく、他の皆さんもそうではないだろうか。
危機感が希薄なのか?
まさしく、私たちが平和ボケしている証拠なのか?
「国は外圧のみで滅びることはない」という定説がある。
私たちが精神的に腐敗しているとしたら、今の日本は、外の勢力に付け込まれている最中なのかもしれない。
世界的にみて、十分に平和な国といえる日本であるが、半世紀前は第二次世界大戦の中、
混沌とした状況にあり、生き死にが日常で語られる時代であったことは誰もが認識しているところだ。
それは、当時を伝える様々な資料があり、教科書があり(あまり役に立たないが)、
何より、今もご健在である戦争経験者が私たちに語り継いでくれるからだ。
彼らは語ってくれる…『核被曝』のこと、『南京大虐殺』のこと、『特攻隊』のこと…
戦争がどれほど残酷で、無意味なものか。
彼らのおかげで、私たちはこれらのことを知り、戒めとすることができるのである。
ところで、戦争経験者から得られる『殺戮と惨劇の戦争』は、戦争の一側面に過ぎない。
今回は、これとは別の面を紹介する。
第二次大戦後の日本軍の戦争犯罪人に対してのアメリカの措置についてだ。
皆さんはご存じでいらっしゃるだろうか?
まず、『七三一部隊』の指揮をとっていた石井四郎だ。
七三一部隊とは、言うまでもないが、第二次大戦において、
軍事的にもタブーとされる細菌兵器の使用や、捕虜に対する残酷きわまりない人体実験によって、
大量殺人の限りを尽くした当時の日本最大最悪の汚点だ。
そんな部隊の頂点にいた石井が大戦終結後、戦犯として、どのように処罰されたか。
実は、彼は、彼の部下とともに非人道的戦争犯罪を問われなかったのだ。
どうして、こういうことになったのか?
石井らがアメリカとの間にある取り引きを交わしたことが免罪の理由だ。
ある取り引きとは、想像するのも忌々しい『細菌実験のデータの譲渡』だった。
アメリカの軍上層部は、石井部隊(七三一部隊の別名)の恐怖の実験を憎悪することもなく、
逆にそのデータに興味を持ち、取り引きの手配を指示したのだ。
何たること!
石井は、その後、アメリカに赴き、米軍の生物兵器計画の発祥の地とされるメリーランド州フォード・デトリックにおいて、
極秘の講演を行なったということだ。
さらに、朝鮮戦争でのアメリカの細菌兵器を使った作戦で手助けをしたという噂もある。
全くもって、石井部隊とアメリカの間で行われた取り引きは『悪魔の契約』というより他ない。
もう一人、こちらの方がもっと重要であるかもしれない、児玉誉士夫について触れておこう。
彼は大戦中、軍の調達代理人として活躍した男で、『A級』が上に付くほどの戦犯として刑務所に投獄された。
児玉は元々、やくざのリーダーであり、右翼過激主義者だった。
彼の所有する資産は膨大で、その金の力と暴力を使い、上海を拠点に、
ヘロイン、通過、金、銃などの取り引きを不法に行なっていた。
そんな悪人というに相応しい児玉に、アメリカが関心を持ったのは必然だったろうか?
1947年、児玉は、アメリカ陸軍対敵諜報部隊(CIC)に一億ドルを支払うことによって刑務所から釈放された。
そして、その後、CIAの見えざる日本政治の操作に手を貸すことようになったのである。
彼は、暴力団と政治との関係を再構築するにあたり、『自由民主党』を作った。
!!?
なんと、我らが日本の最大政党は、児玉というやくざによって作られたものだったのだ。
ここで一つ、皆さんに質問をしたい。
「なぜ、自民党は、1955年から1993年まで、日本政治の一党支配を保つことができたのであろうか?」
どのように、自民党はそれだけの力を持ち得たのか?
児玉の資金力もさることながら、その答えの一要因にでもなるかどうか、こんな話がある。
1994年10月、『ニューヨーク・タイムズ』が、最近公開されたアメリカの機密文章によれば、
1950年代と1960年代に、CIAが秘密援助として『数百万ドル』を自民党に投入していたということを報じた。
つまり、これによって、飛躍的だが「CIAが日本を陰で操るために、児玉を使って、自民党を作らせた」という陰謀論も出来上がるのだ。
戦後の日本は、まさしく、CIAの手の平の上の存在だったのか?
自民党は、CIAからの資金援助を否定しているが、『ニューヨーク・タイムズ』によれば、
CIAは自民党の選挙運動に資金を与える計画を1958年に承認し、その活動理由として、
野党である社会党がソ連から秘密援助を受けとっていることを持ち出した(社会党はこれを否定)。
さらに、CIAは自民党の宿敵である社会党を潰す任務を最重要としていたという。
こうしたCIA陰謀論について、その正しさを証明する術は、今となっては皆無であろう。
ただ、CIA陰謀論を疑うと同様に、自民党の40年支配についても首をかしげるべきであると思う。
大戦終結後、アメリカは敗戦国の日本の戦犯を大量に裁いたわけだが、
その内容は、アメリカの役に立つ者には自由と引き替えに忠誠を求め、
一方、そうでない者たちはただ葬り去るという、立派と呼ぶにはほど遠いものであった。
ドイツに対しても、同じように、いや、それ以上に熱心なアプローチで、
アメリカは大量のナチ党員を自国に招き入れ、その力でCIAを創設した。
これが戦勝国アメリカの姿だ。
日本は当時、他国へ侵略するしか生き延びる手段がなく、戦争の渦へ自らの身を投じた。
だからといって、戦いの中での日本軍の殺人・略奪は決して正当化されるものではなく、
必ず、その償いを果たすべきである。
だが、日本を敗北へ追い込んだアメリカに対して、畏怖し、ひけ目を感じなければならないことは、何一つとしてないのだ。
参考文献:
超陰謀 ジョナサン・バンキン 徳間書店