平成16年度花の会への寄稿文
「接ぎ木と合併」
掛川市助役 小松正明
  私が学んだのは北海道大学の農学部農学科というところである。今日の北海道大学は農学部はもちろん、工学部、医学部、理学部など数々の学部を有する総合大学であり、各分野で大いに成果をあげている。現在は学科の再編により「農学科」という名前が消えてしまっているのが残念だが、私が在学中は農学部農学科と言えば、北大の前身である札幌農学校時代に最初にできた学科としての誇りを胸に秘めていたものである。
 さて、私は農学科の中でも「花卉(かき)・造園学講座」というところに属して緑化や公園計画を学んだ。演習と称して、札幌の観光スポットとして名が売れた北大ポプラ並木のすぐ隣に畑が与えられて、そこで庭木の根回しやら剪定、各種の園芸技術をかじったものだ。もっとも実際世に出てみると、園芸のプロ級などという方は実にたくさんおられるので、「大学で園芸を学びました」などとたいそうなことを言うこともできず、まことにお恥ずかしい限りである。

【接ぎ木の話】
 さて、そんな演習の一貫として多少かじった園芸技術の一つに、「接ぎ木」があった。「接ぎ木」はあえて難しく言うと、「増殖を目的とする植物体の一部(穂木)を切り取って、ほかの植物体(台木)に接着させて、独立した個体に養成する栄養繁殖法の1つ」ということになる。接ぎ木植物は、栄養的に見ると台木は根からの養水分を接ぎ穂に送り、接ぎ穂は同化養分を台木に送り、共生関係になるのである。接ぎ木は主要果樹のほとんどや、一部の花木、枝に出来る野菜類などで主に行われている技術なのである。
 接ぎ木をするとどんな良いことがあるかというと、病害虫に抵抗力のある台木などを使うことで、同じ畑に続けて栽培すると生育が悪くなる連作障害を回避したり、種から育てた苗や挿し木苗よりも、早く開花、結実をさせたりすることができる。
 ただ接ぎ木は、台木と穂木の組み合わせが悪いとうまくいかないため、なるべく、近縁のもので行われ、例えばスイカにはユウガオやカボチャの台木を使うし、バラには野生種のノイバラ、ボタンにはシャクヤクが使われるのである。私も何度かやってみたが、形成層と呼ばれる栄養の通る部分を上手に合わせることが決めてのようだ。

【合併の成功に向けて】
 ここ二年間、掛川はお隣の大東町、大須賀町との合併議論を進めていて、合併のための決めごとを協議する合併協議会もいよいよ最終局面が近づいてきた。歴史も文化も制度も様々に異なる一市二町が合併しようとして、一八三九項目もの事務事業の調整を進めている。
 近いけれども異なるものを融合させて、それでいてお互いの長所を共有し、短所を少なくすることが合併の大きな目的なのだ、と考えれば、それはどこか園芸の世界の接ぎ木に似ているような気がする。もちろんただ合わせれば良いという単純なものではないので十分な話し合いが必要だし、その過程では部分的に捕らえればデメリットと感じることもあるかもしれない。
 しかしこの際、大局的な見地に立って合併というものを捕らえたいものだと思う。どちらが台木でどちらが穂木かなどというつまらない議論はやめて、お互いが得意とするところを持ち寄ることで、新市が丈夫に育って綺麗な花を咲かせ、そしていつの日か美味しい実がなって欲しいものだと心から願うものである。