手石堂詠草


2003年2月上旬 梅の香をたどりて下る女坂
2002年10月28日 駄菓子屋の失せて谷中はそぞろ寒
2002年10月15日 百間「木蓮や塀の外吹く俄風」に寄せて 秋高し卒塔婆鳴らす俄風
2002年8月21日 谷中にて 三河屋の供花枯れてをり秋の朝
秋風や墓地にて知れるわが前世
充血のとれて谷中の草の花
谷中三浦坂の猫と 三浦坂互ひに越しし夏偲ぶ
2002年8月7日 京極堂文庫化されて夏過ぎる
2002年7月下旬 雲の影拾いあつめて炎暑かな
湖西線の車中にて 影落とす雲は琵琶湖の水馬(みずすまし)
上賀茂社にて 蝉時雨流るる果ての賀茂の川
潺湲と涼しさはこぶ社家の道
2002年4月5日   またひとつ「歳時記」増えし日永かな
2002年4月8日 春長閑路地なる犬も昼寝どき
春暑し「清次改め康次」かな
2002年4月4日
ポプラ句会
春の闇桃饅頭の笑ふ顔
春炬燵響きも忘る根無し草
釜飯のこげになりたし春うれひ
二代目魁春襲名 芸を承け名も継ぐ春や十種香
脇の芸福神漬に似たりけり
二代目魁春襲名 加賀の黄楊いざ成駒や芸は鑿
郷里蔵王を思い浮かべて 春光やお釜は天の覗き穴
2002年4月2日 谷中墓地の散る桜に10日の色川武大さんの忌日を思ふ 新緑に薄紅重ね色川忌
根津の路地、春休みで遊ぶ子どもたち 藻を買ふと親の呼ぶ声路地の春
2002年3月30日   ひと日ごと春は深まり富士の嶺
2002年3月25日 谷中の桜散りはじめ 宴果つ烏の声と墓地の花
谷中三浦坂ねんねこやにて 三浦坂猫もまどろむ春休み
弥生異人坂にて 異人坂春は桜のみにあらず
2002年3月23日 天王寺屋の「文屋」を観て 春ねむし聞きしに勝る文屋かな
北千住にて久しぶりにチンドン屋に遭遇す 花冷えの千住の宿のチンドン屋
友人の友人夫妻の結婚を祝して 見晴るかす桜の道ぞ末永く
2002年3月20日 谷中墓地、八九分咲きの桜 日に三分進みて寂し彼岸かな
  散るを惜しむ桜と犬と傘卒塔婆
  またひとつ路地を見つけし春の雲
いつも門前を通ると出てくる長運寺の犬が今日は出てこず 迎へ来ぬおまへも花を惜しみてか
2002年3月17日   九段より桜の便りいざ谷中
  あさくらのさくらの見えし屋の上
  谷中墓地彼岸に供ふ早桜
2002年3月15日   東京に居ぬ間に湯島の梅は散り
  東京に居ぬ間に谷中の桜かな
2002年3月8日 米沢にて 踏みそめし靴音香る春の雪