1日目


 

 台風18号の影響をなんとかかわし、定刻10時45分を少しおくれて離陸したタイ国際航空621便は経由地のマニラに向けて順調に飛行していた。1年前、バンコクからシンガポールまで2000キロを5日間で慌ててかけ抜けてしまったので、今回は6日間バンコクに落ち着こうと思っていた。今、隣の席に座っているNは大学時代の友人である。彼は今年会社をやめた。そして、今回、バンコクをはじめ、マレーシア、シンガポール、インドネシアそしてロンドン、パリまで飛んで1ヶ月以上にもおよぶらしい。そのはじめのバンコクにおともすることにしたのだ。

意外に時間がはやく過ぎ、機内食を食べたり、ガイドブックを読んでいるうちにマニラに到着した。マニラで30分ほどの休憩があったので、空港内をウロウロしてからトイレに入った。用をたし、何気なくボーっとしながら手を洗いに行くと、すかさず蛇口をひねり、タオルを差し出す男がいた。「あ、チップがいる」と思った瞬間、その男は手のひらに千円札をのせて、暗に千円を要求してきた。トイレ1回でなんで千円やねんと心に思いつつ10円玉を出した。すると男はそれを拒否した。仕方なしに百円玉を出すと、なんと男はまた拒否するではないか。結局1円も払わずに出てきた。「これが東南アジアの洗礼か」とわかっていないのにわかっているような気にながらもトイレをあとにした。

それから約2時間半、バンコク・ドンムアン空港に着いた。空港で1万円札1枚をバーツに両替してから外に出た。早速、タクシーの強引な客引き。とにかくしつこい。彼らにNo Thank you!をひたすら浴びせ、とにかくバス停に向かった。機内でのガイドブックの予習によると、空港から安宿街であるカオサン通りまで(約25キロ)は、タクシー、列車、バスがある。去年はタクシーに乗って贅沢したので、今年はバスに挑戦してみることにした。バスにも、エアポートバスと普通のバスがあって、それぞれ70バーツ(210円)と3.5バーツ(10円)だったので、もちろん普通バスに飛び乗った。が、なんか変だ。旅行者は誰も乗っていないし、乗客や車掌の妙な視線が気になる。そう思いながらも30分ぐらいは乗っていただろうか。やっぱり心配になり調べ直すことにした。確か、ガイドブックには59番バスに乗ると書いてあったはずだが・・・。もう一度よくみるとノンエアコンの59番と書いてある。このバスはメチャクチャエアコンが効いている・・・。間違いを確信したが、もうどこをどう走っているのかさっぱりわからない。仕方なしに車掌にジェスチャーや変な英語やらで聞いてみたが首を横に振るばかり。ああ、どうしようと考え込んでいたところ、近くにいた女性が心配して聞きに来てくれた。その人は英語バリバリだったので、なんとか聞いたり、紙に書いてもらって説明してもらうと、このバスはカオサン通りには行かないので、途中で降りて乗り換えらなければならないということだった。こちらが不安な顔をすると、「心配いらない、私も近くまで行くので一緒に行ってあげる」と言ってくれたのだ。神様にみえた。ということでバスを降り次のバスを待った。待ちながらつくづく思ったのだが、バスのシステムが日本とかなり違う。まず、同じバス停に様々なバスがビュンビュン走って来る。しかも、こちらが「乗りたい!」と意思表示をしないと止まってくれない。必死で自分が乗るバスの番号かどうかを走ってくるバスをみて確認しなければならない。動体視力が必要なのである。もちろん目が悪いと悲劇である。バスが来る時刻も決まっていない。来たときに乗るのである。降りるときも自分が降りるバス停の前でブザーを鳴らし「降りる!」と意思表示しないと止まらない。だから、地理を知らない旅行者にはちょっときつい。スチュワーデスさんにも、帰りは一番わかりやすいエアポートバスに乗るようにといわれた。

そうこうして、かなりの時間をかけバスを降りたら、雨が降ってきた。カオサン通りまで少しの距離だったが、靴に穴があいていたこともあり、完全に靴の中は浸水した。なさけなくなりながらも宿を探さなければならなかった。結局、究極の安いところは避け、一応エアコンはついている1泊190バーツ(570円)の宿に泊まることにした。