ヴァレリア島戦記

〜灰色の魔導師〜

 
 


「おのれ解放軍、バーニシアへは絶対行かせんぞッ!」

 敵ドラグーンが叫ぶ。ここランベスの丘は今、壮絶な戦場と化していた。

 その様子を遠く離れたところから見守る、一人の老人がいた。元ヴァレリア解放戦
線のメンバーで現在はヴァレリア解放軍となった神竜騎士団の戦士であるバイアン・
ローゼン・オーンだ。

 今戦っている神竜騎士団の一員であるはずの彼がなぜこんなところにいるのかとい
うのには深い理由があった。先日、神竜騎士団には新しい仲間が加わった。それは彼
と共に解放戦線のメンバーであったセリエ、システィーナの姉妹だというシェリーと
いう女だった。聞くところによると彼女はセイレーンでしかもバイアンと同じ大地神
バーサの加護を受けているという。神竜騎士団の一軍であった彼は少しその部分を聞
いて引っかかるものを感じたが「なに、こんな小娘ごときには負けんだろう。何より
今までここで積み重ねてきた実績がある。」とタカをくくっていた。だが予想以上に
彼女の能力は高く、若い女性という点も手伝ってかすぐにバイアンに変わって一軍入
りし、彼は彼の必殺技ともいうべき召喚魔法ノームを引っぺがされて、ベンチウォー
マーにまでおとされてしまったのだ。 

「バイアン、気持ちはわかるがそんな光景見てたって寂しくなるだけだぞ。こっちへ

来て一緒にのんびりしようじゃないか」

 一人たたずむバイアンに声をかけたのは彼と同じくヴァレリア解放戦線から神竜騎
士団へ移籍してきたフォルカス・リダ・レンデだった。彼もバイアンより一足先に、
ゼノビアから来たという聖騎士二人に一軍の座を追われたという運命を背負った男
だ。

 フォルカスのほうを振り返ってみるとサラ、ヴォルテールなど新規加入者に一軍を
追われた面々が草原の上にお弁当などを広げてくつろいでいる。

「お主ら一体何をしに来とるんじゃ!仲間が命がけで戦ってる時に不謹慎じゃろッ!!」

 その堕落した姿に腹を立てたバイアンは思わず怒鳴った。だが彼らはそんなバイア
ンの姿にもいっこうに動じない様子だった。

「あーあ、バイアン怒ってるよ。」

「まあ、最初にこの中に入ってくる奴はみんなこんな感じだからな。気にすんな。」

「まーそうねぇ。」

 サラ、ヴォルテール組が小声で話す。

「まあ、落ち着いてくれバイアン。君の言うことももっともだが我々は他にすること
がないのだから仕方ないのだ。じっと待ってるよりは楽しくこの時間を過ごしたほう
がいいだろう。」

 フォルカスがなだめるように言う。

「しかし・・・」

「君の気持ちはわからなくない。いや、我々だって元は君と同じ境遇だ、痛いほどに
わかる。だがね、現実を見てみようじゃないか。あのメンバーの中で私たちに入る隙
がどのくらいあると思う?多分彼らのうちの誰かが戦死でもしてくれるか、あるいは
ネクロ、リンカの苦痛なドーピングに耐えなければ我々がまた日の目を見ることはな
いだろう。しかしだからといって誰かの戦死を君は望むか?死を以って行うあのドー
ピングを受けるか?もう私たちにできることはないんだよ、これからの平和は彼らが
作ってくれる。だから私たちは彼らの与えてくれた、この平和な時をかみ締めて生き
ていくべきなんじゃないのかい?」

 バイアンの言葉をさえぎってフォルカスが力説した。さすがのバイアンもこれには
押されたようで、「う、うむ・・・」と短く答えることしかできなかった。

「わかってくれればいいさ、君が悪いんじゃないんだ。そのうちこの雰囲気にも慣れ
るさ。さあ一緒に話でもしようじゃないか。」

 ベンチウォーマーの先輩のフォルカスがバイアンの手を引いてつれてきた。新しい
仲間の加入にベンチウォーマーズの間から拍手が起こる。当の本人は力なくへたりと
座り込んだ。

「それでは我々の新しい仲間に、かんぱーい!」

 ベンチウォーマー歴の一番長いヴォルテールが代表となって乾杯の音頭をとった。

「かんぱーい!」

 ベンチウォーマーズもそれに続いて乾杯した。

「でもさー、そろそろみんな話す持ちネタ尽きてきたよねー?」

「そうそう、話し手の番が回ってくるといつも困っちゃうんだよ俺。」

 それぞれ食べ物や飲み物を口にしながら雑談をしだした。

「そーだ、バイアンさんに話してもらおう♪」

「そうだな、人生経験も豊富そうだし、そうしよう!」

 あたりにバイアンコールが起こる。

「というわけだバイアン。みんなもその気だし、ここはひとつ何か話してくれないか?」

 フォルカスがバイアンの肩をポンッとたたいた。当の本人はグラスを手にしたまま
回りをきょろきょろと見回している。

「頼むよ、若い頃の話とかでいいからさ。」

「若い頃・・・ねえ」

 ふうむと少し考えるようなしぐさをしてから彼はゆっくりと口を開いた。

「あれはまだわしがほんの書生だった頃のことじゃ・・・」

 

 

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