ギャング映画


香港黒社会

『エレクション』(2005年/監督:ジョニー・トー)

香港の黒社会を扱ったギャング映画です。裏社会の会長を決める選挙が行われることになり、候補者が二人いるんですな。一人は常識的親分のロク(サイモン・ヤム)で、もう一人は野望むきだしの武闘派親分のディー(レオン・カーフェイ)です。ディーは買収工作を行いますが、長老幹部の意見によってロクが会長に選ばれます。ディーは会長のシンボルである竜頭棍を、現会長がロクに渡す前に奪って新組織を作ろうと考えます。裏社会の内部抗争が市民社会をおびやかすと考えた香港警察は、長老・ロク・ディーを逮捕しますが……

香港ギャング映画といえば派手な銃撃戦を想像しますが、この作品はリアリズムに徹して射合いは殆どありません。敵対していた両派が損得勘定から手を結んだりと、極めて現実的なんです。竜頭棍を奪おうとボコボコに殴りあっていた二人のヤクザが、携帯が同時になって、互いのボスからの連絡ですぐに仲直りするのには笑いましたね。だけど、“権力と結ばれるのは一人だけ”で、ラストは予想通り(殺し方には驚きましたが)ね。派手なシーンがないのでアクション映画としての面白みには欠けますが、全体的に緊張感があって楽しめました。

 

 

『エレクション 死の報復』(2006年/監督:ジョニー・トー)

前作から2年経ち、再び黒社会の会長選挙の時期がきます。候補者として前会長が信頼していたジミー(ルイス・クー)が中国本土での事業で頭角をあらわし、長老たちは本命におすのですが、ジミーは堅気の商売を考えていて選挙に興味がないんですな。現会長のロク(サイモン・ヤム)は権力に味をしめ、掟を破って再選を考えています。選挙出馬を考えている武闘派の子分をたきつけて、ジミーの事業パートナーを人質として拉致したことから……

登場人物のキャラがしっかりできており、前作と同様に緊張感漂う物語展開で良質のノワール映画となっています。それにしても、原題が「以和為貴(和をもって貴となす)」とは笑わせますね。描かれるのは、欲望おりなす抗争ですからね。会長選挙のたびに内部抗争が起こり、市民が迷惑するので、会長になったジミーに選挙などやめて世襲制にしろという警察幹部の発言も笑えました。ギャングが民主主義なんて、警察幹部は正論を言っていま〜す。(笑)

 

ジョン・デリンジャー

『犯罪王ディリンジャ』(1945年/マックス・ノセック)

雑貨屋強盗で捕まったデリンジャー(ローレンス・ティアニー)は、刑務所でギャングの大物スペックス(エドモンド・ロウ)と知り合う。出所したデリンジャーは、スペックス一味を脱獄させ、銀行強盗団を結成する。犯罪を成功させるうちに強盗団のボスとして君臨しはじめるが、スペックスの裏切りによって逮捕される。偽拳銃で脱獄に成功し、列車襲撃を計画するが……

最初の犯罪で捕まってから、映画館から出てきたところを射殺されるまでを75分で描いています。一本調子でメリハリもなく、主演のローレンス・ティアニーにも魅力がなく、安っぽさだけが目立つ凡作です。何故か、音楽は一流のディミトリ・ティオムキン。

 

『デリンジャー』(1973年/監督:ジョン・ミリアス)

愛人ビリー・フレシェット(ミシェル・フィリップス)との出会いから、売春宿の女将(クロリス・リーチマン)の密告でメルビン・パーヴィス(ベン・ジョンソン)に射殺されるまでのデリンジャー(ウォーレン・オーツ)の軌跡を描いています。実録風にモノクロ静止画像を随所にはさみ込み、バリー・デヴォーソンの音楽も御機嫌です。

内容はドンパチ中心で、登場人物のキャラ設定も三流週刊誌的ね。葉巻を咥えて二挺拳銃をぶっ放すベン・ジョンソンは漫画チックですらあります。だけど似合っているんだよなァ。暗がりで、映画館を出てきたデリンジャーの名を呼び、射ち殺すところは、パット・ギャレットのビリー・ザ・キッド射殺シーンを思い浮かべましたよ。B級ギャング映画の面白さを存分に味わえました。

傍役時代のウォーレン・オーツは存在感があったのですが、この作品ではベン・ジョンソンに完全に喰われています。それとベビーフェイス・ネルソンのリチャード・ドレイファス(当時は売出前)にもね。主役よりも、やはり“野に置けレンゲ草”で〜す。

 

『パブリック・エネミーズ』(2009年/監督:マイケル・マン)

仲間を刑務所から脱獄させ、銀行強盗を重ねるジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)に手を焼いたFBIのフーバー長官は、プリティボーイ・フロイドを射殺して名をあげたメルビン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)をシカゴ支局長に任命し、デリンジャー逮捕を命じる。しかし、デリンジャーはパーヴィスの追跡もなんのその、恋人ビリー・フレシェット(マリオン・コティヤール)との逢瀬を楽しみ、ベビーフェイス・ネルソンと組んで、ますます凶暴ぶりを発揮していた。しかし、パブリック・エネミーズbPとして全国指名手配されたデリンジャーは、組織からの保護を失い、次第に追いつめられていく。

アメリカ犯罪史に名高いジョン・デリンジャーを主人公にした実録ギャング映画です。FBIのメルビン・パーヴィスの執拗な追跡を受けながらも、恋人ビリー・フレシェットとの逢瀬を描くことにより、人間ドラマに仕上がっています。

デリンジャーだけでなく、この映画にも登場するプリティボーイ・フロイドやベビーフェイス・ネルソン、同じ頃活躍したマシンガン・ケリーなどを主人公にした実録ギャング物が、これまで数多く作られていますが、最も上出来作品といえるでしょう。

だけど、この手のギャング映画は、一級品の味わいより安手のB級作品が似合っており、私としてはそちらの方に愛着を感じま〜す。

 

 

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