レトロ・ヒーロー


『豹(ジャガー)の眼』(1956年・大映/監督:鈴木重吉)

イランゴル国王の忘れ形見・沙利姫(藤田佳子)は、国王を殺して莫大な秘宝の隠し場所の地図を奪ったジャガー(清水元)一味に捕らえられ、北海道に向かう密輸船に監禁されていた。地図の半分は沙利姫が隠し持っていたからだ。コックに化けて船に乗り込んでいた沙利姫の忠臣・陳爺は、船の中で熱血漢の日本人青年・旭杜夫(北原義郎)と知り合い、援助を求める。杜夫は陳爺と協力して沙利姫を救出するが、ジャガー一味の追手の銃弾で重傷を負う。三人は濃霧に乗じて上陸し、謎の好漢・王大人に救われアイヌ部落にたどりつく。杜夫はウスクラの秘術によって傷が治り、沙利姫を護ることを誓う。ここまでが前編で、後編が『青竜の洞窟』となります。

熊祭りの夜、沙利姫は再びジャガーの手下によってさらわれ、港町マシベの魔窟・十三番街に連れ去られる。杜夫と陳爺は救出に向かうが、逆に陳爺は捕らえられ、杜夫は乱闘のさなか地下道へ落ちてしまう。そして、杜夫を助けたのは、またしても王大人だった。王大人が黒眼鏡を外すと、杜夫が行方を捜していた兄の義夫だった。義夫はアジアの小国の人々のために地下運動を続けていたのだ。ジャガーのアジトが“青竜の洞窟”と、兄からきいた杜夫は、沙利姫救出のため“青竜洞窟”に乗り込む。しかし、3日間笑い続けて死ぬという“笑死薬”を沙利姫は嗅がされており……

原作は高垣眸の少年冒険小説。映画の方も少年向けなのでしょうが、内容があまりにも陳腐すぎます。死人を生き返すウスクラの秘術には笑ってしまいましたよ。ジャガーが使うバラモンの妖術もね。あんな少林寺拳法も初めて見たし、ツッコミ出したらキリがありません。子供をバカにしてはいけませんぞ。子供心に判断しても、テレビの『豹(ジャガー)の眼』(大瀬康一主演)の方がはるかに上手くドラマ作りをしていましたよ。

ところで、原作の『豹(ジャガー)の眼』ですが、戦前の少年向け人気雑誌『少年倶楽部』に昭和2年1月号〜12月号に連載された冒険小説です。

主人公は、インカ帝国の王室の血をひく日本人青年。インカ帝国の秘宝を狙う怪人ジャガー(先祖がインカ帝国の宰相)を相手に、太平洋上、サンフランシスコ、アリゾナの奥地を舞台に波乱万丈の活躍をします。

「ぼくは、はじめて自分の身のうえを聞いた瞬間から、白人どもにしいたげ苦しめられている旧インカ帝国の人民たち(何故かアメリカ・インディアンなんですけどね)を、1日も早く幸福にしてやろう。あわせて、わが父の祖国、大日本帝国のためにも、その国運の発展につくそうと、深く覚悟をしたのでした。この大目的のためには、どんな危険をもおそれず、どんな苦しみをも避けません。ぼくは、全世界を敵として戦う勇気が生まれました」主人公のセリフですが、凄い決意でしょう。てらいもなく文章にできたのは、当時の社会環境によるものでしょうが、このストレートさがいいんだなァ。

 

『マライの虎』(1943年・大映/監督:古賀聖人)

戦争前のマレーで理髪業を営む谷豊(中田弘二)は、華僑の暴徒に妹を殺される。この暴動は、日本人をマレーから追い出すために英国が煽動したものであり、町を統治していた英国警察は見て見ぬフリをしていた。これに怒った谷は、警察署長に暴力をふるい、警察から追われることになる。谷はマレー人の従僕サリーとジャングルに逃げ込み、強盗団を組織する。谷はハリマオと名乗り、英国人や彼らと結託している商人を襲い、奪った金は貧しいマレー人にバラ撒いた。やがて太平洋戦争が勃発し、ハリマオはシンガポールへ進撃する日本軍に協力してイギリス軍と戦うが……

ハリマオといえば、私たち団塊の世代はテレビ映画『快傑ハリマオ』になりますが、これは戦時中の戦意高揚のために作られたハリマオ伝説を元にした作品です。

“東洋平和のために討ちてしやまん”のスローガンがクレジットされ、マレー人に民族独立をうながし、強欲非道な英国人から国を解放するための正義の戦争を全面に打ち出していますからね。

この作品に描かれている英国人と中国人華僑は皆悪い奴で、実にわかりやすい。クライマックスも、日本軍の進撃を遅らせるためにはマレー人の村が水没しようとお構いなくダムを破壊しようとする英国軍の作戦を、ハリマオがマレー人とともに阻止するので〜す。

 

 

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