サイレント映画


『バグダッドの盗賊』(1924年/監督:ラオール・ウォルシュ)

サイレント映画で、未見だったら欠かさずに観ているのがダグラス・フェアバンクスの映画です。

一番観たいのは、ウィリアム・S・ハートの西部劇なんですが、殆ど観る機会がない。その次ぎがフェアバンクスのチャンバラ映画。スタントを使わずに跳んだりはねたり。そりゃあ見事なものですよ。

お姫さまに恋をした盗賊(フェアバンクス)が、お姫さまに相応しい人物になるために冒険の旅に出て、宝物を手に入れてバグダッドに帰ってくる。ところがバグダッドはモンゴル王(上山草人)に占領されていた。盗賊は魔法の箱から軍隊を呼び出し、モンゴル軍を破り、お姫さまを救出して目出たく結ばれる。

サイレント映画は表情と動きが全てなんですが、フェアバンクスの動きの軽やかなこと。テラスの柵に腰掛ける動作ひとつとってみても、現在の俳優ではあんな滑らかな動きはできませんよ。

動きがフェアバンクスなら、表情で評判をとったのが上山草人でした。草人の睨みの演技は、日本のサイレント・チャンバラ映画ではお馴染みのもので、どうってことのないものだと思うのですが、欧米人には東洋の神秘に映ったんでしょうかねェ。

『バグダッドの盗賊』のは、フェアバンクスの最高傑作といわれていますが、セットが豪華で大作に恥じないものでした。フェアバンクス自身が製作に係わっており、世界的なヒット作品となったのですが、利益があまり出なかったのは、費用をかけすぎたせいみたいですね。

『バグダッドの盗賊』は、現在でもリッパに通用する魅力あふれた作品ですよ。

 

『ベン・ハー』(1926年/監督:フレッド・ニブロ)

『ベン・ハー』といえば、戦車競走。もともとはキリストを称えた宗教劇で、戦車競走はメインではないのですが、映画的な面白さはこれにつきますね。

戦前のサイレント映画ですが、馬蹄の響きが聞こえてくるような迫力でした。だけど、主演のラモン・ナヴァロは、たくましいチャールトン・ヘストンのベン・ハーが印象として強いため、美男子すぎてたよりない。メッサラ(フランシス・X・ブッシュマン)の方が、どうみてもベン・ハーよりも強そうなんですよ。

リメイク版では、キリストはほんのサワリ程度にしか登場しませんが、この作品ではキリスト誕生から始まります。

マリア役のベティ・ブロンスンが、実にキレイなんだなァ。最近の女優にない神々しさがあるんですよ。まさにマリア様といった感じでした。

 

『狂へる悪魔』(1920年/監督:ジョン・S・ロバートスン)

ジキル博士(ジョン・バリモア)は、婚約者(マーサ・マンスフィールド)の父親に侮辱され、自分にひそむ悪の性格を解放する薬を発明し、ハイド氏に変身して悪の本能を満たす生活を送るうちに、もと自分に戻れなくなり……

スティーブンスン原作の『ジキル博士とハイド氏』は、『ドラキュラ』、『フランケンシュタイン』と並ぶ古典ホラーとしてこれまで何度も映画化されています。その中でも傑作の呼声高かったのが、『狂へる悪魔』の邦題で封切られたジョン・バリモアの『ジキル博士とハイド氏』なんですね。

特撮技術なんてなかった時代なので、演技にたよるしかなく、ジョン・バリモアは熱演しています。ジョン・バリモアは、“世界一の横顔”と絶賛された彫りの深い端整な二枚目で、それが醜怪なハイド氏に変身した時のギャップの大きさに、当時の観客は度肝を抜かれたようですね。セリフのない無声映画では演技者はどうしてもオーバーアクトになるのですが、ジキルの苦悩とハイド氏に変身してからの狂的な表情はオーバーアクトが気にならないくらいピッタシきまっていました。これは、歌舞伎の世界に通じる芸術で〜す。

蛇足ですが、ジョン・バリモアの孫娘がドリュー・バリモアね。

 

『オペラの怪人』(1925年/監督:ルパート・ジュリアン)

ガストン・ルルー原作のスリラーで、何度も映画化されていますが、衝撃度ではこの作品が最高です。

怪人の存在が囁かれているパリ・オペラ座の新人歌手クリスチーヌ(メリー・フィルビン)は、壁の中から聞こえてくる声に従い歌の才能をのばします。この声の主こそ怪人(ロン・チャニー)で、彼は彼女を地下の秘密の部屋に連れていきます。楽屋の鏡が秘密の通路の入口になっているんですな。怪人は仮面をつけており、彼女のために作った曲をオルガンで弾きます。クリスチーヌは怪人の顔が見たくなり、後ろから忍び寄り、そっとマスクを取ると、骸骨のようなグロテスクな顔が現れます。ロン・チャニーのこのメークは、雑誌の写真などで事前に知っていましたが、すっくと立ち上がって振り向いた時のショックは、伝説の衝撃シーンと云われるのが過言ではありません。

クリスチーヌは歌に専念することを誓って地上へ戻されますが、仮面舞踏会で恋人に怪人のことを話してしまいます。それを怪人が聞いているんですな。真紅のマント(劇場公開では彩色されていたとのこと)をつけた死神の衣装で怪人は仮面舞踏会に現れるんですが、このビデオではモノクロのままでした。怪人はクリスチーヌを誘拐して、地下の隠れ家に逃げ込みますが、追ってきた恋人と刑事に彼女を奪い返され、暴徒に追いつめられてセーヌ河で最期をとげます。

79分の作品にしては登場人物が多く、それが巧く整理されていない欠点はありますが、サイレントならではの映像表現(ロン・チャニーの表情の凄さ、地下迷宮のセット)は、素晴らしいで〜す。

 

 

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