“影なき男”シリーズ


 “影なき男シリーズ”は、『影なき男』、『夕陽特急』、『第三の影』、『影なき男の影』、『風車の秘密』、『影なき男の息子』(日本未公開)の全6作が製作されています。

このシリーズは、ニック(ウィリアム・パウエル)とノラ(マーナ・ロイ)のチャールズ夫妻がくりひろげるスクリューボール・コメディと、殺人ミステリーを融合させたところに特徴があり、人気シリーズとなった要因がありますね。話の展開や謎解きは、ノンビリしたものですが、全編に漂うソフィスティケートな雰囲気は、最近の映画では味わうことのできない魅力を持っています。

 

『影なき男』(1934年/W・S・バン・ダイク監督)

探偵家業を引退して金持ちの妻・ノラと優雅な新婚生活を楽しんでいたニックは、友人の娘(モーリン・オサリヴァン)から事件の依頼を受ける。行方不明の父に殺人容疑がかかっているというのだ。ニックは捜査を開始し……

考えているばかりのニックに対して、好奇心旺盛で積極的に行動するノラとのやり取りが実に面白いんです。ノラの推理は一見まとを得ているようで実はハズレ。ニックが最後に関係者を集めて真相を究明するんですな。探偵劇そのものより、二人と一匹のキャラクターで成功していま〜す。

 

『夕陽特急』(1936年/W・S・バン・ダイク監督)

シリーズ第2作目で、前作の事件を解決してニックとノラがサンフランシスコの自宅に帰ってくる。そして、ノラの従姉妹の夫が殺される事件が起こり、捜査を開始することになる。

私が観たシリーズ4作の中では最高の出来です。ただし、前作の『影なき男』を観ていることが条件。ニックとノラのキャラクターを事前に知っていることが前提なんです。前回では省略されていた、愛犬アスターの家庭を含むニックとノラのプライベー ト部分が事件発生までに手際よく紹介されていて、この部分が良質のコメディとなっています。思わず声をあげて笑ってしまいました。ミステリー部分についても、犯人の意外性があり、なかなかのモノですよ。それと、若き日のジェームズ・スチュアートが従姉妹の恋人役で

出演しており、意外な一面を見せてくれて、うれしくなりま〜す。

 

『第三の影』(1939年/W・S・バン・ダイク監督)

シリーズ3作目。ニックとノラが相続したチャールズ家の財産管理をしている富豪の大佐が殺され、またしても夫婦で探偵することになる。

この作品までがダシール・ハメットの原作ですが、原作そのものがつまらないせいか、ミステリー部分が今イチよありません。それでも、ニックとノラ、それにワンちゃん(名犬アスター)が絶妙な呼吸で、それだけで愉しくなります。

 

『影なき男の影』(1941年/W・S・バン・ダイク監督)

シリーズ4作目。競馬のノミ組織に係る殺人事件に、たまたま競馬場にいあわせたニックとノラが首をつっこむことになる。

これ以降の作品は、原作はハメットでなく、主人公のキャラクターだけを借りたオリジナル。ニックとノラと愛犬アスターに加えて、愛児ニック・ジュニアを登場させて、コメディ部分を膨らませていますが、たて続けに観るとサスガに飽きてきます。3年おきに観る分には、結構楽しめる作品になるのでしょうが。

 

 

 

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