荒野の決闘(雑感)

 
ヴィクター・マチュアが亡くなって…… (1999年8月)
   
リンダ・ダーネルと
ヴィクター・マチュア
 ヴィクター・マチュアが亡くなり(享年86歳)、ドク・ホリデーに注目して『荒野の決闘』のビデオ(フォックスビデオ)を観ました。
 この映画、今まで何回見ただろう。
 最初に見たのが中学生の時のリバイバル上映。題名は『荒野の決斗』で、フィルムはブルーに染色されたものでした。オリジナルフィルムはTV局に売られて存在せず、この時公開されたのはイタリア向けのフィルムで、プリント状態が悪かったため、このような処理がされたという話でした。
 今回見たビデオは、白黒の画像がきれいで、再生処理でも施されたのでしょうか。

 今回初めて気づいたこと。
 ドクが護衛として乗り込む駅馬車は、ウエルズ・ファーゴの輸送馬車だったですね。ドクを追って、アープが馬を替える中継所が“WellsFargo Corral”でした。
 峠でアープがドクに追いついた時、駅馬車の馭者が、前のショットの馭者と代わっていました。
 こんなことに気づくなんて、ビデオってこわいですね。

   
 それと、ドク・ホリデーがOKコラルの決闘に参加したのは、ビリー・クラントンに殺されたチワワの仇討ちのような気がします。史実が固定観念としてあったので、友情のためと今まで思っていたですが、この映画に関しては上記の理由の方が強いように私は思うのです。
 そして、ドク・ホリデーが史実と異なり死ぬのは、これまたチワワの死(ホリデーが手術するが結局助けられなかった)が伏線にあると思いますね。史実を改変したことにより、ドラマに深みがでたと思います。
 それから、ジョン・ウェインがスクリーンに初登場した『血涙の志士』(1928年製作のアイリッシュもの)で、主要人物のひとりである判事が死ぬ時、椅子に崩れながら白いハンカチをポトリと落すんですが、ドク・ホリデーが撃たれた時のシーンと、よく似てました。

 


バージルの落馬シーン他 (2000年11月)
   
バージル役のティム・ホルト  学生時代の友人と話していて、『荒野の決闘』が話題になりました。
 彼が言うには、チワワ(リンダ・ダーネル)がビリー・クラントン(ジョン・アイアランド)に射たれて、バージル(ティム・ホルト)がビリーを追跡するシーンで、ビリーに射ち返された追っ手のバージルが落馬し、馬ごと砂丘をすべり落ちる(但し、ケガはなく、そのため遅れるだけ)シーンが映画館で観た時にはあったのに、ビデオではないというんですよ。
 私も、そのシーンはうすボンヤリと記憶にあるので、自分のビデオ(フォックスビデオ)を観たら、ないんですね。2種類のフィルムが存在するようです。

 それにしても、『荒野の決闘』のタイトルはいつ見ても素晴らしいですね。
 「愛しのクレメンタイン」の哀愁を帯びたコーラスとともに、棒杭に乱暴に打ちつけられた一枚一枚の板に焼き付けられたクレジットを、交互に立て移動しながら見せるセンスが嬉しいんです。
 タイトルに流れる曲は、「愛しのクレメンタイン」のコーラスから、中途で転調してフォーク・ダンスの曲となり、次いで「テン・サウザンド・キャトル」に変わり、最後に再び「愛しのクレメンタイン」になるんですよ。「テン・サウザンド・キャトル」は、劇中でもチワワのリンダ・ダーネルが歌っています。
 ところで、「愛しのクレメンタイン」は、1849年頃西部で流行したそうです。
 フォーティ・ナイナーの歌といわれてますが、作者ははっきりしていません。
 著作権者としては、1883年にパーシー・モントローズが登録しているそうです。

 


『荒野の決闘(特別篇)』の価値 (2004年6月)
   
 今年は西部劇のDVDが次々に発売されていますが、既にビデオで発売されているものや、衛星放送(CATV含む)で放映されものが多くて購入意欲がわきません。だけど、この2枚組DVDだけは別ですね。なにしろ映像特典集として、劇場公開される前のジョン・フォードが編集した非公開試写版が収納されているんですから。
 劇場公開版は、ダリル・F・ザナックが試写版を30分カットし、一部撮り直したフィルムを挿入したものなんですよ。ザナックの編集の特長として音楽の追加と、アップ映像があります。劇場公開版との比較ですが、どっちがどっちとも言えませんね。

 音楽を使って、シーンを盛り上げるのは映画として必要な要素で、クレメンタインの初登場シーンや、ドクが金の入った袋をチワワに投げ落とすシーンは、その後の展開からみて、ザナックの編集は妥当だと思います。
 残念なことに最初19分は、試写版のフィルムが残っておらず想像するだけですが、冒頭のアープ兄弟の登場シーンや、ジェームズの死体を発見するシーンでの音楽は、非公開試写版では使われていないような気がしますね。フォードの演出は、映像中心で、音楽で盛り上げようという感覚はなかったような気がします。逆にラストの決闘シーンで、ザナックが音楽を使わなかったのが不思議なんですが……
 不明の部分では、ジェームズの恋人の名前をナンシーからコリ・スーにしたことから、関連するシーンをロイド・ベーコンがうまく撮り直(アップを多用)しているのですが、フォードの映像も観たかったです。

 残りのフィルムでは、ドク・ホリデーが初めて登場するシーンの前に、ビリー・クラントンがチワワに言い寄るシーンがカットされていますが、これはチワワの死と関連する伏線になっているので、カットすべきではなかったですね。
 それと、旅役者をクラントン一家がたむろする酒場にアープとドクが迎えに行った時、ドクの頬にバンソウ膏があった理由も試写版を観て解りました。
 撮り直したラストのアープとクレメンタインのキス・シーンは、確かに必要ないですね。
 ただ、劇場版になく、試写版に出てくるバージルの落馬シーンですが、私は絶対に観た記憶があります。
 『映画宝庫・さらば西部劇』に高橋千尋さんが、シナリオ再現しているのですが、その場面の記載は次の通りです。
     “荒野(夜)
     馬を駆るバージル。
     逃げるビリー、やみくもに発砲。
     馬もろとも斜面を転落するバージル、起き上がって乗馬。
     砂丘を越えて逃走するビリー”

 高橋さんも、落馬シーンを観ているんだと思います。
 落馬シーンがカットされていない劇場版フィルムが存在することを、非公開試写版を観て確信しましたよ。 

 非公開試写版の他にも、ロバート・ギットによる非公開試写版解説、スコット・エイマンとワイアット・アープ三世(解説になっていない)による音声解説、日曜洋画劇場放映の日本語吹替え(ヘンリー・フォンダの声は小山田宗徳)が特典としてあり、価値あるDVDとなっていま〜す。

 


 

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