伝記映画


『力道山』(監督:ソン・ヘソン)をアップするのに、ジャンルを考えたのですが、悩みましたね(今でも悩んでいるのですけど)。

“伝記映画”というジャンルは他のジャンルとリンクしていて区分けが難しいんですよ。実在の人物が史実に近い内容で描かれた映画と定義しても、ワイアット・アープやジェシー・ジェームズの話は“西部劇”だし、宮本武蔵や坂本龍馬の話は“時代劇”ですからね。他にも……

ジョージ・M・コーハン、ファニー・ブライス等のミュージカル関係者……ミュージカル映画

グレン・ミラー、レイ・チャールズ等の楽団や歌手……音楽映画

エリザベス女王、ナポレオン等の歴史上の人物……歴史劇

パットンや山本五十六等の軍人……戦争映画

キューリー夫人、リンカーン等の偉人……偉人映画

ルー・ゲーリック、タイ・カップ等の野球選手……野球映画

『力道山』はプロレス映画にしようかと一瞬考えたのですが、『獣人ゴリラ男』や『カリフォルニア・ドールス』と一緒にするのもねェ。結局、伝記映画なんて、あんまり観ることはないと思い、伝記映画へ……

 

『力道山』(2004年/監督:ソン・ヘソン)

キム(ソル・ギョング)は相撲一途にガンバッテいたが、朝鮮人ということで兄弟子から差別され苛められていた。しかし、芸者の綾(中谷美紀)と知りあい、彼女の後見人の菅野(藤竜也)の目にとまったことから道が拓けてくる。力道山の四股名を与えられ、綾とも結婚し、大関昇進も眼前にせまっていた。ところが、朝鮮人を理由に昇進を見送られたため、自棄になって自ら髷を切ってしまう。荒んだ生活をしていたある日、酒場でハロルド坂田と出会い、プロレスを知る。人種に関係なく、実力通りの評価がされるプロレスに魅せられた力道山は、菅野の支援でアメリカに渡り、プロレスに生涯を賭ける決意をする。実力を蓄え、帰国した力道山はプロレス興行を開催する。アメリカ人レスラーを薙ぎ倒す力道山に国民は熱狂し、力道山は日本の英雄になるが……

時間軸の入り繰りはあっても、史実に則した展開になっています。ソル・ギョングの演技も力道山の雰囲気を伝えています。急に怒り出すところなんかね。私のような力道山に対して深い思い入れのある年代にとっては懐かしさに満ちた作品ですが、韓国人から見た力道山像が描ききれていません。

力道山が生存中、大半の日本人は力道山が朝鮮人だと知りませんでした。私も長崎県大村出身と信じていましたからね。力道山も朝鮮人であることを隠し、メディアも大衆のヒーローは日本人の方が都合が良いので暴くことをしませんでした。

「英雄は日本人でなければならない」ということ自体が差別なのですが、それを巧く描けなかったところがこの作品の弱さです。韓国映画なのに韓国で受けず、日本で評判が良かったのは、差別問題が前面に出なかったからでしょうね。

 

『百万弗の人魚』(1952年/監督:マーヴィン・ルロイ)

オーストラリアのシドニーで音楽学院を経営するフレデリック・ケラーマン(ウォルター・ピジョン)の一人娘アネット(エスター・ウィリアムス)は小児麻痺で歩行も困難だったが水泳を始めてから足に力がつき、競泳にも優勝するようになる。アネットはバレーダンサーになるのが夢だったが、世界恐慌で音楽学院を閉鎖することになり、父の友人を頼ってロンドンに行く。しかし、当てにしていた父の友人は死んでおり、生活にも窮するようになる。そんな時、ロンドンへの航海中に知り合った興行師ジェームズ・サリバン(ヴィクター・マチュア)が現れ、テムズ河を遠泳する企画を持ち込む。彼女の泳ぎはロンドン中の評判となり、サリバンはアネットをニューヨークのヒポドローム劇場で売出そうと考えるが……

エスター・ウィリアムスの水中レビューは、“ザッツ・エンターテイメント”で観て、部分的には知っていましたが、一本の作品として観るのはこれが初めてです。水泳女優の元祖アネット・ケラーマンの伝記を映画化したもので、エスター・ウィリアムスの泳ぎをふんだんに見ることができました。

内容は、“スター誕生”的なワンパターンのメロドラマですが、魅力的なエスター・ウィリアムスの水中レビューを観ているだけで満足なので〜す。

 

『ハリウッド・ランド』(2006年/監督:アレン・コールダー)

伝記映画というより、1959年6月16日に拳銃自殺したジョージ・リーブスの死の謎に迫るハリウッド内幕ミステリーとでも云うべき作品です。

リーブスの自殺に疑問を持った母親に雇われた私立探偵(エイドリアン・ブロディ)の捜査と、リーブス(ベン・アフレック)の生前の生活が並行して描かれていきます。色々なことを詰め込みすぎて全体的には希薄なものになっていますね。私立探偵の視点か、リーブスの視点か、どちらかに重点を絞る方が良かったと思います。

それにしても、スーパーマンのイメージが強すぎて他の役を得ることができなくなった俳優業の行き詰まりが原因の、単純な自殺と思っていたリーブスの死に、殺人の与件がこれほどあったとはねェ。

 

 

『アビエイター』(2004年/監督:マーティン・スコセッシ)

親の遺産を受継ぎ、映画事業や航空機事業などいろいろな事業に手をひろげ、巨万の富を築いたハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)の伝記映画です。その病的な性格と行動力は、映画的人生と云えますね。

映画は惜しげもなく金(400万ドルという当時としては空前の巨費)をつぎ込み、自ら監督した超大作『地獄の天使』の製作場面から始まります。この映画で、ジーン・ハーロウがセクシー女優として大々的に売り出されるのですが、そのへんは軽く流しています。ヒューズの女優遍歴では、キャサリン・ヘプバーン(ケイト・ブランンシェット)との関係に重点が置かれていますね。ケイト・ブランンシェットのキャサリン・ヘプバーンは、顔や声は似ていないのですが、雰囲気はピタリときまっており、まさにキャサリン・ヘプバーンでした。なりきり演技に脱帽です。ジュード・ロウのエロール・フリンは雰囲気を伝えていましたが、ケイト・ベッキンセールのエバ・ガードナーはだいぶ感じが違っていましたね。

全体的にはハリウッドの内幕部分より航空事業の部分の方がストーリーの中心で、巨大飛行艇の飛行成功でエンドとなります。私はこの飛行艇の実物をロスで見たことがあるので、感慨ひとしおでした。興味本位で楽しめた作品で〜す。

 

 

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