テレビムーヴィ


『沈黙の大地』(1995年/監督:グレイグ・バクスレー)

モルモン教の戦闘集団“報復の天使”の団員であるマイルズ(トム・ベレンジャー)は、教義にそむいて教団を逃げ出したパーカーを殺した。彼にとって教団が全てで、パーカーの処罰は当然の行為であった。

 マイルズは上司の命令で、教団の指導者であるブリガム・ヤング(チャールトン・ヘストン)を護衛することになる。信徒たちの前で演説するヤングに向けられた小型拳銃を目撃したマイルズは、銃の所持者を射殺するが、その瞬間、彼も何者かに殴られ意識を失ってしまった。

 気がつくと、上司から射殺した相手を知らされないまま、誤射だったので身を隠すように命じられる。背後に陰謀の気配を感じたマイルズは独自に捜査を開始するのだった。

 ヤング暗殺の一味に殺されかけたり、彼が殺したパーカーの家族に罵倒されたりして捜査をすすめていく。パーカーの日記から陰謀の全てを知ったマイルズは、暗殺を阻止すべくヤングのもとへ駆けつけるのだった。

モルモン教を正面から扱ったミステリータッチの西部劇です。セリフによってモルモン教の歴史がわかりますよ。

出演者では、ベレンジャーに味方するジェームズ・コバーンがかっこいいんだな。バンバン撃たれても死なないと思ったら上着の下に鉄板をつけていました。おまえは荒野の用心棒か!

(モルモン教の歴史)

この映画の舞台となっているユタ州ソルトレイク周辺には、今でもモルモン教の信徒がたくさん住んでいます。モルモン教って、何でしょうね。モルモン教というのは、アメリカにおけるキリスト教の一つの宗派なのです。ジョセフ・スミス(1805〜44)という人が創設しました。

 彼が1830年に著わした経典に従って、信仰だけでなく、生活も共同で行っていました。スミスの狂信的行動と、教義で一夫多妻を説いていることから、一夫一婦制のキリスト教を信じる一般の人から迫害を受けることになります。信徒たちはオハイオからミズーリ、ミズーリからイリノイと移住に次ぐ移住をするのです。

 イリノイ州では創設者のスミスが殺害されました。新しく指導者となったブリガム・ヤング(1801〜77)は、“報復の天使”と称する戦闘部隊をさし向け、スミスを殺害したキリスト教徒たちに復讐したそうです。この映画の原題である“The Avenging Angel”ですね。主人公のマイルズはこの団員として成長するのです。

 1846年にヤングは数千人のモルモン教徒を率いて、イリノイを捨てユタへの大旅行を開始します。

 このユタへの苦しい旅はモーゼの出エジプト記によくたとえられます。ヤングがそこを選んだのは、モルモン教徒にとってまさにシオンの地だったからです。ユタには有名なソルト・レイク(塩湖)があり、死海を彷彿させたのです。それに、ユタの土地と気候は砂漠に負けず荒々しく厳しかったから、他の入植者がおらず、モルモン教徒たちが一般のキリスト教徒たちに悩まされることがなくなるのをヤングが望んだのですね。

 1848年、ヤングはここをデゼレット(Deseret)と名づけ、独自の州をつくり、自ら州知事となり、臨時政府を樹立します。

 Deseretとは、モルモン教典に出てくるミツバチのことなのですよ。ユタの地に、安住できる街をつくっていく自分たちの姿を、巣づくりにいそしみ、せっせとミツを集めるミツバチになぞらえたのです。

 だが、この年、作物を植え、水を引き、必死に開墾につとめた彼らの努力は報われません。作物は殆ど育たず、わずかに実ったものも動物や鳥に荒らされたのです。この年の冬は飢えと寒さの戦いで暮れました。

 翌年、せっかく実った作物が、今度はコオロギの大群に襲われそうになりますが、天敵のカモメが大挙して押しよせ、コオロギを食いつくすという奇蹟によって救われます。

 モーゼが奇蹟を招いたように、ヤングの導きがもたらした奇蹟だと、モルモン教徒の信仰は、さらに強まったのです。

 年ごとにモルモン教徒の共同社会は、人口数と富が増加し、議会は1850年にデゼレットをユタ准州とし、フィルモア大統領はヤングを准州知事に任命します。

 砂漠という意味のDesertとまぎらわしいという理由で、インディアン語で“太陽の国”の意のユタに変更されたのです。しかし、ニックネームはミツバチの州(Bee-hive State)と名づけられ、現在でもユタ建設時のモルモン教徒の精神をとどめています。

 1857年から58年にかけて、南北問題で合衆国はヤングの中立政策と対立し、アルバート・シドニー・ジョンストン大佐指揮の正規軍を送って、新しい准州知事を支援しますが、ヤングの“報復の天使”を中心とする民兵組織の前に敗れます。そして、南北戦争に際しては、ユタは中立を守るのです。

 ヤングは開祖スミスをしのぐ宗教的指導者であると同時に、政治家としても非常に優れていました。ソルトレイク市の広い道路は知られていますが、これはヤングが街を建設するときに、明確なビジョンをもって、都市計画に従って築いていったからです。しかし、異端や分派については、“報復の天使”を使って厳しく弾圧したのも事実なのです。

 ヤングは、アメリカの英雄の1人といっても過言ではないと思われますが、“英雄色を好む”のたとえどおり、いや、彼の場合は教義に忠実というべきか、27人の妻と56人の子どもがあったそうです。妻のうち5人はスミスの未亡人だったというから驚きますね。

 モルモン教徒は必ずしも複数の妻がいたわけではないですが、1896年、准州から州に昇格し、合衆国に入ることになった際、こののち一夫多妻は認めずという条件を受け入れます。連邦法によって禁止されて、一夫多妻は完全に廃れました。

 

『レッド・テキサス』(1990年/監督:ピーター・マークル)

無法者一味に教え子の美少女を連れ去られた教師(アンソニー・エドワーズ)が、ダイムノベルのヒーローを雇って彼らを追跡しようと考えるんですな。そのヒーローを知っているという黒人ガンマン(ルー・ゴセット・Jr)も無法者一味を追っており、教師とガンマンの道中がはじまります。コメディタッチの西部劇で、テレビムーヴィなので安っぽさは否めません。

黒人ガンマンがヒーローのモデルというオチがあるのですが、悪党をいきなり後ろから射ったりして、小説に出てくる正義のガンマンとは大違い。

「背中をむけている方が悪い、安全に殺すのが勝利の鉄則」というのは、西部開拓時代のガンマンの常識なんでしょうね。

パロディーなのか、リアルなのか、演出意図がはっきりしていないのが、この作品の欠点で〜す。

 

 

『ブラックフォックス(三部作)』(1995年/監督:スティーブン・ヒリヤード・スターン)

第一部

 

アラン(クリストファー・リーブ)とブリット(トニー・トッド)は、白人と黒人という関係だったが深い友情に結ばれ、家族とともに奴隷制のあるカロライナからテキサスにやってきて農地を開拓していた。南北戦争が始まり、騎兵隊がテキサスから去り、コマンチとカイオワが蜂起して開拓民を襲いだす。留守中に家族をインディアンに拉致されたアランとブリットは、開拓民が避難している砦の町に行く。そこには家族を拉致された開拓民が多くおり、二人は人質救出の対策を練る。白人を敵対ししているインディアンに対して、黒人のブリットが人質返還交渉のためにインディアン部落に単身乗り込むが……

結論から言いますと、ブリットの交渉は成功して、人質は無事救出されます。ブリットがコマンチの戦士と決闘するのですが、そのやり方は初めてお目にかかるものでした。十数匹のガラガラ蛇を入れた穴をはさんで、腕に結ばれた綱を引っ張りあって相手を穴に落とすというものなんですよ。ブリットは決闘に勝って、酋長から勇気と誠実さを称えられ、ブラックフォックスというインディアン名を授かるんですな。

テレビムーヴィなので、映画のような空間的拡がりは期待できませんが、西部劇というだけで嬉しくなるのです。それと、何故か、こんなDVDが発売されていることもね。

第二部・平和の価値は

 

第一部で人質を救出してインディアンとの間に和平がなったのですが、暴力亭主ホルツ(クリス・ウィギンス)のもとに帰るのが嫌で、優しく知的なカイオワの族長ランニングドッグ(ラオール・トゥルヒージョ)のもとに残った女性ドロレスがいたんですな。ランニングドッグもドロレスを愛していて、無理に白人のもとへ返そうとはしません。ホルツは復讐のために、インチキ牧師の銃の密売人から数十挺の連発銃(ヘンリーライフル)を手に入れ、インディアン嫌いの連中を集めて部落襲撃を計画します。ランニングドッグと友人のブリットは彼らの暴挙を止めようとしますが、アランは妻のサラ(ナンシー・ソレル)がインディアンに犯されたことから中立の立場をとります。しかし、ブリットが彼らにリンチされたことから、アランは傷ついたブリットを連れて族長に襲撃計画を知らせ、安全な別の土地へ移住するように勧めますが……

結論から言いますと、ランニングドッグは女・子どもを避難させ、部落をもぬけの殻にして襲撃隊を待ち伏せします。待ち伏せにあった襲撃隊は退却しますが、態勢を立て直して反撃に転じ、双方がぶつかりあう寸前に、銃密売人から奪ったガトリングガンを持ってアランとブリットが力ずくで仲裁するんです。

決着をつけるために、ホルツとランニングドッグが決闘するのね。馬に乗ってのライフル対弓矢の対決で、もちろんランニングドッグの勝ちで〜す。

 

第三部・軌跡の果てに

 

南北戦争が終わり、テキサスに南軍くずれの無法者が流れ込んできた。黒人ということで絡んできた無法者グレンをブリットは殴り倒す。怒りが収まらないグレンは、ブリットの家を襲うが、ブリットは留守で、様子を見にきたアランとサラに発砲する。サラは死に、グレンはカンザスに逃げ去った。愛する妻を失った悲しみと絶望からアランは一時的に酒に溺れるが、グレンへの復讐のためにカンザスへ。ブリットはテキサスの治安責任者であるマッケンジー大佐から連邦保安官補に任命され、グレン逮捕のためにアランを追ってカンザスへ……

結論から言いますと、アランはグレンの無法者仲間に加わってグレンを見つけます。正体がばれた時にブリットが駆けつけ、銃撃戦となって無法者一味をやっつけるのです。黒人やインディアンに対する人種問題を背景にした開拓ドラマだった1〜2巻の流れから一転して、アクション西部劇になっています。シリーズ物としては、テーマが曖昧になりましたね。

シリーズ全体にいえるのですが、メリハリのない演出で躍動感が足りません。だけど、この20年間の数少ない西部劇なので是としましょう。

 

 

 

トップへ    シネマ館へ   目次へ