3D西部劇


テレビの普及により映画観客が激減したハリウッドが、テレビ対策の一つとして採用したのが立体映画でした。

二台のカメラを組み合わせて人間の目と同じ間隔(役55ミリ)に離したレンズで撮影した二本のフィルムを、二台の映写機の前に取り付けられたポラロイド・フィルターを通してスクリーンに映します。観客はポラロイド眼鏡をかけて観ると、アラ不思議、画面が飛び出して見えるんですね。

立体映画の第1回作品『ブワナの悪魔』を製作したアーチ・アボラーは「二年以内にハリウッドで製作される50%が立体に、5年間で100%立体に転換するだろう」と予言しましたが、見事にハズレました。

 

『フェザー河の襲撃』(1953年/監督:ゴードン・ダグラス)

南北戦争で勇士としてならしたアーチャー(ガイ・マディスン)は、民間人として暮らしていたが、ベロース砦に呼び出される。砦の指揮官から、5年前にシャイアン族に拉致された白人娘アン(ヘレン・ウェスコット)とジェニー(ヴェラ・マイルズ)の救出を頼まれる。彼女たちが南北戦争時に共に戦った部下の姉であることを知ったアーチャーは、その任務を引き受けるが……

主人公が率いる兵士が営倉入りしている囚人兵というのはよくあるパターンです。北軍嫌いの元南軍兵(ネヴィル・ブランド)や、コメディリリーフ的な大酒飲みの兵士というキャラクターも毎度お馴染みですね。

娘の救出劇や、インディアンの追撃をかわしながら砦に帰途する展開にも目新しいところはなく、定石通りの西部劇です。

この作品は3D映画で作られていますが、ナイフ・矢・斧・槍などが画面から飛んでくる見世物的趣向を効果的に使ってサスペンスを盛り上げているのが、普通の画面からでも伝わってきま〜す。

3Dカメラによる撮影風景

 

『ホンドー』(1953年/監督:ジョン・ファーロー)

騎兵隊の斥候ホンドー(ジョン・ウェイン)は馬をなくして、アンジー(ジェラルディン・ページ)とジョニー(リー・アーカー)の母子が暮らす牧場にやってくる。夫のエド・ロウは家を出たまま行方不明となっていた。ヴィットロ酋長(マイケル・ペイント)率いるアパッチ族が蜂起して危険なので、ホンドーはアンジーに一緒に砦に来るように促すが……

『肉の蝋人形』、『フェザー河の襲撃』に続く、立体(3D)映画の第三弾です。『フェザー河の襲撃』と同じようにインディアンとの戦いを描いた西部劇で、ナイフ・矢・斧・槍などが画面から飛んでくるのは同じです。演出面で見るべきものがなく、クライマックスで襲ってきたアパッチに対して円陣で応戦し、怯んだところを円陣をといて突進し、また円陣を作って応戦するという戦法が目新しかったくらいで、全体的には平凡な内容です。

ジョン・ウェインは、アパッチの妻を亡くした騎兵隊のスカウトですが、アパッチに対して理解があるわけでなく、キャラが明確になっていません。後年リメイクされたテレビ西部劇『アパッチ大平原』(ラルフ・テーガー主演)の方が主人公に魅力がありましたね。映画では死んでしまうヴィットロ酋長も、テレビ版の方がマイケル・ペイント(同じ役)が齢を重ねただけ貫禄があってよかったです。テレビ西部劇といえば、子役のリー・アーカーは 『名犬リンチンチン』の主人公ラスティ少年でしたね。

立体映画が定着しなかったのは。眼鏡をかける煩わしさもあったのでしょうが、立体効果だけを狙った安易な製作も要因としてあげられるでしょうね。タイトル画面の表示も単に文字が飛び出してくるだけ(普通画面でも文字の下に影がついているので立体映像とわかる)で工夫がありませんからねェ。

 

『限りなき追跡』(1953年/監督:ラオール・ウォルシュ)

元南軍兵のスレイトン(フィル・ケリー)一味に駅馬車を襲われ、恋人ジェニファー(ドナ・リード)を拉致されたベン(ロック・ハドソン)は彼らを追跡する。仲間割れして禿鷹の餌食にされそうになっていたスレイトン一味のジェス(レオ・ゴードン)、妻をスレイトンに殺されたインディアンのジョハシュ、スレイトンに捨てられたメキシコ女のエステレラ(ロバータ・ヘインズ)が味方になり、スレイトンを追い詰めるが……

ロック・ハドソンはピリっとせず、フィル・ケリーは親玉としては頼りなく(部下のリー・マービンとネヴィル・ブランドがいらいらするのが分かります)、ドナ・リードも刺身のつま。全体的に盛り上がりに欠ける内容で、演出的にも見るべきものはありません。

オリジナルは3D映画ですが、日本での公開は2Dだったので3Dのメリットが活かせず、当時の評価も芳しくありません。専用映写機や眼鏡の回収といった手間がかかるので映画館から嫌われ、他にも3D西部劇『地獄の狼』が2Dで公開されています。

ところで、「ベートベンは耳が聞こえなくても立派に作曲した。片目が見えなくとも立体映画が作れんことはない」と言ったのは、アンドレ・ド・トスでしたが、ラオール・ウォルシュも片目なんですよねェ。

 

 

 

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