大草原の渡り鳥

(1960年・日活)


監 督:斎藤武市

原 作:原健三郎

脚 本:山崎巌

撮 影:高村倉太郎

音 楽:小杉太一郎

配 役:滝 伸次 ……小林旭

    ハートの政……宍戸錠

    清里順子 ……浅丘ルリ子

    高堂   ……金子信雄

    和枝   ……南田洋子

    セトナ  ……白木マリ

    ラッコの鉄……垂水悟郎

    信夫   ……江木俊夫

    清里   ……佐々木孝丸

 

(ストーリー)

 少年・信夫の母親・和枝を訪ねて、滝は信夫と北海道へやってくる。ところが、和枝は土地のボス・高堂の情婦となっていた。湖のほとりにあるアイヌ部落に立寄った滝は、順子とアイヌ娘セトナの話から、観光客用の飛行場用地として、部落の土地が高堂によって狙われていることを知る。順子はアイヌを保護する地主・清里の姪で、アイヌの民芸品を売る店を持っている。高堂の子分がアイヌ部落にいやがらせに来たのを滝が追っ払い、それが縁で順子は、滝が連れている信夫を預かることになる。順子は清里の息子と婚約しているが、気がすすまず、しだいに滝に惹かれていく。一方、滝は、和枝がマダムをしているキャバレーでハートの政と名乗る男と出会う。政は、7年前に高堂と共謀してやった銀行強盗の罪を一人でかぶった代償をとりたてにきていたのだ。政が、高堂の子分たちから無理やり踊らされようとしていたセトナを救ったことから、滝と政の間に不思議な親近感が芽生える。

 清里の息子が、高堂から借りていたアイヌ部落の土地を担保としていた借金を返しに行くが、キャバレーの地下の賭博場で政とポーカーをして巻きあげられてしまう。そこへ滝が現れ、政のイカサマを見破り、借用書を回収して帰る。高堂は、滝を消すように政へ命令するが、政が断ったので、二人を消すためにラッコの鉄を雇う。

 イヨマンテの夜、高堂は子分を引きつれてアイヌ部落を焼き討ちする。滝と順子の関係に嫉妬した清里の息子は、信夫をさらって高堂の仲間になり、滝の命を狙う。政は、高堂と別れようとして監禁された和枝を救い出し、滝に高堂の居場所を教える。滝と政は、高堂と決着をつけるべく、彼らが待ちうける鉱山に向かう。

 

(解 説)

 渡り鳥シリーズは全部で8作(9作目に『渡り鳥故郷へ帰る』があるが、主人公の名前もキャラクターも、物語の基本構造すら前8作と異なっているので、私としてはシリーズとして認めていない)ありますが、『大草原の渡り鳥』はシリーズ最高傑作であり、西部劇に一番近い構造を持っています。それは、内容だけでなく、北海道を舞台とした環境与件の効果も大きかったと考えています。

 冒頭、主題歌の流れるタイトル画面で、主人公は馬にまたがり、鞍の後に幼い少年を乗せています。岩だらけの山の尾根を馬で行く『口笛の流れる港町』、広大な丘陵地帯を馬車が走る『大海原を行く渡り鳥』でも西部劇タッチはみられましたが、主人公の登場の仕方だけでなく、そのロングショットにみられる空間的スケールの拡がりは、北海道の広大な自然を背景とした効果であり、他の作品には見られないものでした。

 湖のほとりにあるアイヌ部落は、一見してインディアン居留地風であり、アイヌの古老が話す言葉はアイヌ語で、字幕が出る凝りようです。同じ時期の西部劇に、インディアン語の会話に英語の字幕が出る作品があったでしょうか? 先住民族に対する表現は、本場西部劇よりすすんでいたと思います。

 アイヌ部落の飛行場建設について、次ぎのような主人公とヒロインの会話があります。

順子「滝さん、この湖畔がホテルや土産物店でいっぱいになればいいとおっしゃるの」

滝 「町が発展すれば、みんな幸せになるんじゃないか」

順子「追っ払われたアイヌの人たちはどこへ行けばいいの。観光客相手の見世物になるのが、関の山だわ」

滝 「……」

順子「アイヌの人たちにとって、今が一番幸せなんです。誰よりも汚れのない心を、そのままにしていて欲しいんです」

 子どもの頃は、全然意識しなかったセリフが、ビデオで改めて観て、妙に心に引っかかりました。飛行場ができて町が発展し、アイヌが姿を消した(良くいえば同化した)現実を考えるとね。

 

アキラとジョーのガンプレイ

 渡り鳥シリーズは、西部劇のパロディというより、私はシンギング・カウボーイだと考えています。主人公の格好を見てください。肩にいっぱいフリルのついた皮ジャンパーや、首に巻いた赤いスカーフなんて、ロイ・ロジャースやジーン・オートリーの衣装です。ジョン・ウェインやクリント・イーストウッドは間違ったってこんな格好はしないでしょう。
 主題歌を歌いながら主人公が現れ、劇中でもギターを弾きながら2〜3曲歌います。ヒロインや子どもが聴き惚れる。渡り鳥の場合、悪党連中も聴き惚れてましたが。
 この作品でもアキラ(小林旭)は、主題歌の他に「アキラのソーラン節」と「ピリカ、ピリカ」を歌っています。
 主人公は、どんな悪人であっても殺すことはありません。相手の拳銃をハジキ飛ばすか、利き腕を射ち抜くぐらいですね。渡り鳥では、アキラの代わりにジョーさん(宍戸錠)が悪党を射ち殺して、警察に行きます。この作品でも、自分が殺されかけた恨みをはらすため、逃げて行く高堂を呼びとめます。そして「丸腰の相手は射てねえ」と自分の拳銃を高堂に投げてやり、高堂が銃を拾うと、滝が自分の拳銃を政に投げ、それを受け取った政が高堂を倒します。西部劇ではお馴染みのボーダー・シフトというガンプレイで、アキラが投げた銃を、ワン・モーションで発射するジョーのガンさばきは見事でしたよ。

シンギング・カウボーイがキスする相手は愛馬だけなのと同じように、渡り鳥もヒロインに対してキスはおろか、手さえ握らずに別れるんですね。それもキザな言葉を残して……

この作品では、ヒロインの言葉が泣かせます。

順子「あの子(信夫)には何もおっしゃらないの」

滝 「言えばツライこともある」

順子「じゃあ、私にも何もおっしゃらないで。私、このままじっとしています。何かおっしゃられると、私、とってもツライ」

滝は、背中をむけている順子に、何も言わずに去っていくんですよ。

 

 

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