東映のドル箱シリーズだった“網走番外地”は、1965年〜73年まで全18作が作られていますが、毛色の変わったヤクザ映画でした。欧米映画からのアイデア借用(第一作は『手錠のままの脱獄』を完全に借用)が従来のヤクザ映画と溶け合って、アクション映画として一種独特の味わいを出していましたね。特に、北海道を舞台とした作品は、西部劇の匂いがプンプンです。 荒野の町に流れ者がやって来て、町を支配する無法者から弱い人たちを守って戦い、悪を倒して立ち去るという西部劇の定型パターンと同じ構造なんですよ。主人公は戦前のウィリアム・S・ハートやハリー・ケリーが演じたような“グッド・バッド・ガイ”です。つまり、法律を犯す無法者だが、根は正義感に燃える男なんですね。有名なところでは、『駅馬車』のリンゴ・キッドにも同じことがいえますか。 |
網走番外地・荒野の対決(1966年・東映)
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(スタッフ) 監 督……石井輝男 脚 本……石井輝男 原 案……伊藤一 撮 影……稲田喜一 音 楽……八木正生 (キャスト) 橘 真一……高倉健 大槻 ……田中邦衛 栗田 ……田崎潤 鮫島 ……杉浦直樹 反町 ……待田京介 鬼寅 ……嵐寛寿郎 権田 ……河津清三郎 あけみ ……三原葉子 路子 ……大原麗子 |
(感 想) シリーズ5作目。馬相場をめぐっての西部劇タッチの作品。 網走刑務所を出所した橘は、射撃大会で優勝して賞品として子馬を獲得する。子馬を騙し取ろうとした権田牧場から子馬を取返した橘は、務所仲間の反町が働く原口牧場の世話になる。 原口は、周辺の牧場主を脅して馬のセリ市を独占しようとしていた権田と対立していた。 橘たちの活躍により、年に一度の馬のセリ市は無事開催されたが、怒った権田は原口牧場の牧草に毒をまき、牧場の馬を殺してしまう。決着をつけるべく、橘たちは権田牧場へ殴り込む…… 射撃大会で、標的に命中させたのが高倉健でなく、陰から射った田崎潤という身代わり射撃は、『リバティ・バランスを射った男』でもお馴染ですね。 悪い牧場主が私欲のために、一般の大人しい牧場主を脅すというのも西部劇にはよくあるパターン。当然、悪い牧場主に対立する良い牧場主も出てくる。 悪い牧場主に雇われた用心棒が、主人公の気風に惚れて主人公に味方するというのもね。 ラストで主人公たちが馬に乗って、敵の牧場に殴り込むのですが、武器が拳銃でなくドスというのが、やっぱりヤクザ映画です。(笑) |
網走番外地・大雪原の対決(1966年・東映)
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(スタッフ) 監 督……石井輝男 脚 本……神波史男、松田寛夫 原 案……伊藤一 撮 影……稲田喜一 音 楽……八木正生 (キャスト) 橘 真一……高倉健 大槻 ……田中邦衛 鬼寅 ……嵐寛寿郎 吉岡 ……吉田輝男 白熊 ……内田良平 ニセ鬼寅……上田吉ニ郎 待子 ……国景子 秀 ……砂塚秀夫 千恵 ……大原麗子 |
(感 想) シリーズ7作目。石油の利権をめぐっての西部劇タッチの作品。 脱獄の首謀者の濡れ衣を着せられて拷問死した務所仲間・秀の遺骨を持って、橘は網走刑務所を出所するが、遺骨を届けに訪れた町は、ニセ鬼寅が支配していた。 ニセ鬼寅は石油の利権を独占するため、土地の買い占めをしており、秀の父親の土地も狙われていた。 借金の形に土地を取られそうになるところを、本物の鬼寅と橘の活躍で救われるが、ニセ鬼寅の息子の白熊に秀の父親は殺されてしまう。この白熊こそ脱獄の首謀者で、秀と父親の復讐のため、橘はニセ鬼寅一家へ殴り込む…… ニセ鬼寅が経営する酒場兼ホテルの造りが、西部劇のサルーンと同じなんですよ。ただ、ベッドのかわりに畳が敷いてあったのには笑いましたけど。 ラストで高倉健がウインチェスターを射ちまくり、弾丸がなくなって日本刀で斬り込むのですが、その時、内田良平が持っていた武器がトマホーク。 アラカンの手綱さばきも堂にいったもので、さすが鞍馬天狗! 両作品に大原麗子が出演していますが、この頃はまだ添え物程度の存在でした。それと、小林稔侍もチンピラ役。 石井輝男の演出は、健さんの唄う主題歌を巧みに使い、気分を最高に盛り上げてくれます。このへんは、マカロニ・ウエスタンに通じるものがあるかもしれませんね。 |