日活ウエスタン


幌馬車は行く(1960年/監督:野口博志)

幌馬車隊が負傷して倒れていた若者を助ける。彼は列車強盗をして逃走中のギャング団のひとりだった。幌馬車隊長や隊長の娘の親切で、彼の荒んだ心も和み、追われる身を忘れて幌馬車隊で働くのだった。しかし、ギャング団の仲間が追手の目から逃れるために幌馬車隊に乱入し、若者の正体がばれる。仲間の傍若無人な振舞いに、若者は彼らと戦う決意をし……

こんな風にストーリーを紹介すると、まるで西部劇でしょう。幌馬車隊に悪漢が紛れ込むというのは、ジョン・フォードの『幌馬車』などに見られるように、西部劇においてはよくあるパターンです。

この作品では、季節の花を追い、蜜を求めてミツバチと旅をする移動養蜂隊を幌馬車隊に見立てています。隊長の芦田伸介がワード・ボンド、娘の笹森礼子がジョーン・ドルー、ギャング団のボスの水島道太郎がチャールズ・ケンパーといったところでしょうか。主人公の赤木圭一郎は、イメージは違ってもジョン・ウェインだな。

列車に飛び乗り、屋根伝いに機関車まで行き、機関士を射ち殺すところは西部劇のノリだし、キャンプファイアーを囲んでの団欒や、隊員の妻が産気づいて緊張感を増すというのも西部劇を意識していますね。60〜61年の西部劇ブームの時、もっとも影響を受けていたのが日活でした。

 

赤い荒野(1961年/監督:野口博志)

恩人の墓参に、ジョー(宍戸錠)が矢崎牧場へ帰ってくる。矢崎牧場は土地の買占めを計画しているヤクザの小池組に狙われていた。返済日までに借金が返せないので、矢崎(小高雄二)の妻・咲江(南田洋子)は子供と牛を連れて、隣りの奥井牧場の世話になる。小池組は奥井牧場も乗っ取ろうとしており……

舞台は島根の三瓶高原。高校時代、松江で暮らしており、遠足で訪れたことがあったので懐かしかったで〜す。

馬による追跡シーン、ポーカーの勝負、歌とバンジョーの演奏によるダンス、ラストのガンファイトと、内容は西部劇。

惚れている女性のために、亭主を殴り倒して悪党たちとの決闘に行くところは、『シェーン』ではありませんか。拳銃を射つときに黒い手袋をはめたり、素手で蝿を捕まえたりする殺し屋の内田良平は『荒野の七人』のロバート・ヴォーンです。

西部劇ゴッコの世界ですが、これが愉しいんだなァ。

 

メキシコ無宿(1962年/監督:蔵原惟繕)

 事故で死んだメキシコの友人・ペドロの頼みでメキシコへ渡った危険屋ジョー(宍戸錠)が、ペドロの弟と恋人のためにペドロの濡れ衣をはらし、金山を支配する地主と戦う物語。

 日活ウエスタンの魅力は、日本の風土で西部劇の世界を繰り広げるアンマッチさにあります。現実の世界から遊離した夢の世界で遊ぶ楽しさですね。リアルな西部劇の世界を目指して大々的にメキシコ・ロケした『メキシコ無宿』でしたが、異国での日活ウエスタンはシラけるだけ。面白くも楽しくもない完全な失敗作です。

 この作品に限らず、当時海外ロケした作品には、あからさまに観光名所が出てきて観光案内がされます。海外旅行が珍しかった時代ですから、観客サービスのつもりでしょうが、物語の流れが遮断され、結局作品の質を落とす結果になるんですよね。海外旅行の夢を育むということでは、貢献したかもしれませんが……

 

高原児(1961年/監督:斎藤武市)

 山の工事現場で働く小林旭は、診療所の看護婦・浅丘ルリ子に好意を寄せている。ルリ子は弟から実家の牧場の窮状を聞き、故郷へ帰る。アキラは、7年前に家を出て行方不明になっていたルリ子の兄を偶然救ったことから、ルリ子の兄から事情を聞き、ルリ子の牧場へやって来る……

 “渡り鳥シリーズ”の流れをくんだ日活ウエスタン。

 工事現場のレクリエーションが射撃大会で、アキラがライフルの練習をしているところに、兄の仇を捜している郷^治が現われるのですが、その格好が『早射ち野郎』の宍戸錠の黒ずくめスタイルと同じなので笑ってしまいました。この二人が射撃大会で腕前を披露するのですが、そっくり『ヴェラクルス』です。(笑)

 射撃大会の賞品がウィンチェウター銃で、それを持って九州・久住高原のルリ子の牧場へ行くわけです。牧場を狙っている悪い奴が二本柳寛に金子信雄。金子信雄がアキラを倒す殺し屋を採用する試験が『七人の侍』と同じだったのには、またまた笑ってしまいました。

 郷^治はアキラ相手に目一杯ガンバッテいますが、錠さんと比較すると格が違いましたね。そのため、どうしてもアキラの一人舞台となって、物語に厚みがありません。アキラとルリ子が結ばれることを暗示して終わるのは、“渡り鳥シリーズ”にも“流れ者シリーズ”にもなかったことで、それでシリーズと異なる単独作品になったのでしょう。

 蛇足ですが、この作品で高橋英樹がデビュー(ルリ子の弟役)しています。但し、演技は学芸会。(笑)

 

 

散弾銃(ショットガン)の男(1961年/監督:鈴木清順)

魔の山と村人が恐れている鷲霊山に、散弾銃をかついだ男・良次(二谷英明)がやって来る。西岡製材所の乱暴者たちと殴りあいになるが、社長の西岡(田中明夫)は良治を気に入る。製材所には、鎌(江幡高志)、勝(郷^治)、寅(野呂圭介)の三人組の用心棒がいた。ある日、西岡の情婦(南田洋子)がマダムをしている麓の町の酒場で、良治は恋人がしていたネックレスを見つける。恋人は2年前に何者かに乱暴されて殺され、良治は犯人を捜していたのだ。誰がそのネックレスを持ってきたのかと、マダムに詰め寄る良治に、酒場の用心棒・政(小高雄二)が割って入る。良治と政が喧嘩をはじめ、それを止めたのは私設保安官の奥村(高原駿雄)だった。奥村も二ヶ月前に妻を乱暴されて殺され、犯人を捜していた。夜間巡回中に奥村は何者かに襲われ、負傷する。奥村の妹・節子(芦川いづみ)が止めたが、良治は代わりの私設保安官に志願する……

村に駐在所がないので、治安を守るために村長が任命するのが私設保安官なんですよ。西部劇のタウン・マーシャルと同じです。村の酒場のスイングドアを開けると、テーブルでは製材所の連中がポーカーに興じています。製材所の連中は何故か銃(猟銃だけでなく拳銃も)を携帯しているんですね。信州の片田舎に西部劇の世界が出現しているんです。

鈴木清順にしては雑な演出で、内容的にはお薦めできるような作品ではありません。二谷英明がお世辞にも上手いと言えない主題歌を歌い、おまけにアコーディオンを弾きながら挿入歌まで歌ったのにはマイッタ!

 

赤い谷間の決闘(1965年・日活/監督:舛田利雄)

自分の生まれた土地を確かめるために東京から健(渡哲也)がシベトロの町にやってくる。町の顔役・鮫島(小沢栄太郎)の息子三人が健に絡んできて殴り合いになるが、石切場で働く風間(石原裕次郎)に助けられる。鮫島は石切場を自分のものにしようと狙っており……

内面に西部劇の骨格が見える北海道を舞台にしたアクション映画。主演が裕次郎なので、無国籍アクションにしていませんけどね。だけど、無国籍アクションにした方が面白くなったでしょうね。

裕次郎は拳銃を捨てて、堅気になろうとしているガンマン。しまっておいたライフルを取り出して決闘に行くところは、拳銃を取り出して腰にまくガンマンと同じ風情です。一緒に決闘に行こうとする渡と殴り合いになり、組み伏された裕次郎が思わず石で渡を昏倒させるところは、『シェーン』のアラン・ラッドとヴァン・ヘフリンの格闘を思い浮かべましたよ。

頑固親父の桂小金治が、古い西部劇ではお馴染みのジョージ・ギャビー・ヘイズといったところでしょうか。桂小金治の娘役の太田雅子(現:梶芽衣子)が初々しくてよかったよォ。

 

 

 

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