オーディ・マーフィの西部劇


1960年代前半までは西部劇が映画のジャンルと確立しており、それこそピンからキリまでの西部劇が公開されていました。キリに近いのにB級西部劇と呼ばれる、アクションを中心とした低予算西部劇がありまして、それらに主演していた一人にオーディ・マーフィがいます。

24個の勲章をもらった第二次大戦の英雄で、帰国した時は映画スター以上の歓迎を受けたそうです。ハリウッドに招かれて映画界入りし、童顔・小柄、すばやい身のこなしを活かし、西部劇に数多く主演しています。会社や観客が期待するのは彼の演技力でなく、カッコよいアクションだったので、作品はB級西部劇ばかりなんですね。

 

『抜き射ち二挺拳銃』(1952年/監督:ドン・シーゲル)

シルバーシティ近辺の砂金採掘場は金鉱強奪団によって荒されていた。町の保安官タイロン(スティーブン・マクナリー)は、“稲妻”と称される早撃ちの名手だったが強盗団追跡中に負傷し、右手の指が利かなくなる。彼は強盗団に父を殺されたルークという若者(オーディ・マーフィ)を保安官助手にする。ルークは“シルバー・キッド”と異名をとる拳銃の名手だった。タイロンは傷を治療している時に知り合ったオパル(フェイス・ドマーグ)の家を訪ねた時に闇討ちを受けるが、ルークの働きによって逆に犯人を捕らえる。犯人は強奪団の一味であることがわかり……

有名になる前のドン・シーゲル監督作品。テンポのよい展開で最後まで退屈しません。黒皮上着に黒帽のオーディ・マーフィが溌剌とした動きを見せており、西部劇スターの面目躍如たるものがあります。

ただ悪党に魅力的な役者がいない(町の乱暴者としてリー・マービンが端役出演していたが)のと、フェイス・ドマーグとスーザン・キャボットという二人の女優に魅力がないのが作品を弱くしています。どちらも顔が似かよっており、当時の典型的なB級女優なのでしょうね。

 

『野郎!拳銃で来い』(1955年/監督:ジョージ・マーシャル)

保安官が酒場の経営者デッカー(ライル・ベトガー)に殺され、アル中のバーナビー(トーマス・ミッチェル)が保安官に任命される。バーナビーは、昔は名保安官のデストリーの助手として活躍した男で、任命されるや酒をやめ、デストリーの息子トム(オーディ・マーフィ)を保安官助手として呼び寄せる。ところが、やってきたトムは拳銃も持たぬ小男で……

『砂塵』のリメイク。ジェームズ・スチュアート、マルレーネ・ディートリッヒ、ブライアン・ドンレヴィと比較すると見劣りしますが、小男で童顔のオーディ・マーフィは強そうに見えないので持ち味が出ていると思いますね。

頼りなさを見せていた前半から、後半になると、酒場でデッカーたちの拳銃をとりあげ、射撃の妙技を見せてオーディの本領発揮です。射ち込んだ弾丸と保安官の体内にあった弾丸を照合して犯人をわり出したあたりから俄然面白くなってきますよ。

ラストの決闘シーンも鏡を使ったりして、色々楽しませてくれます。マリー・ブランチャードの脚線美も悪くありませ〜ん。

 

『クイック・ガン』(1963年/監督:シドニー・サルコウ)

正当防衛とはいえ、人を殺して2年間旅に出ていたクリント(オーディ・マーフィ)が死んだ父の牧場を継ぐために故郷の町に戻ってくる。途中で、昔の仲間だったスパングラー(テッド・デ・コルシア)に銀行強盗の仲間入りを勧められるが、クリントはそれを断り、スパングラー一味の囲みをやぶって町に着く。クリントは、保安官のスコティ(ジェームズ・ベスト)にスパングラーの銀行襲撃計画を告げるが、働き手は牛追いの旅に出て、残っているのは年寄りと女子供だけだった。そこへ、息子をクリントに殺された牧場主のトムが現れ……

いかにもB級西部劇といった平凡な作品。話してもわかる相手でないのに、悪党たちの所へ行ってアッサリ殺される保安官とか、ツッコミたくなるシーンが多々あります。それでも見られるのは、オーディ・マーフィの動きが悪くないのと、悪党のテッド・デ・コルシアが東映時代劇なら山形勲、ヤクザ映画なら安部徹といった感じで、臭い演技をしてくれているからで〜す。

 

『手錠の男』(1965年/監督:ウィリアム・ウィットニー)

クァントレル・ゲリラのクリント(オーディ・マーフィ)は、仲間のモンタナの裏切りによって北軍のアンドリュース大尉(バスター・クラブ)に捕えられ、20年の刑を宣告される。南北戦争が終了しても、クァントレル・ゲリラの残党であるブラディ(マイケル・ダンテ)が襲撃隊を結成してアリゾナを荒しまわっていた。アリゾナ・レンジャーの隊長となったアンドリュースは、クリントに釈放を条件に襲撃隊に加わり情報を流すように要請する。襲撃隊の中にモンタナがいることを知ったクリントは、モンタナに復讐してメキシコへ逃れるつもりだったが、アリゾナ・レンジャーの隊員になっていた弟が襲撃隊に殺されたことから、心が変わる。クリントは、襲撃隊のアジトに捕えられて炊事仕事をさせられているヤキ族の娘(グロリア・タルボット)を味方につけ……

アリゾナ・レンジャーが登場する西部劇って珍しいですね。隊長が懐かしのバスター・クラブというのも嬉しくなります。

脱獄の芝居をうって仲間に加わるのは、使い古されたものですが、仲間になった後のヒネリが色々あって工夫しています。マイケル・ダンテが油断せず、オーディ・マーフィが再三ピンチに陥るのですが、ご都合主義になっていません。ただ、グロリア・タルボットを殺さずに生かしておいたのは、甘かったで〜す。

 

『テキサス群盗団』(1966年/監督:レスリー・セランダー)

新聞記者の兄が死に、ジェス・カースン(オーディ・マーフィ)は真相をつかむためにリムロックの町へ帰ってくる。兄は拳銃を手にしたことがなく、相撃ちで死んだことが信じられなかったからだ。町はルーク・スター(ブロデリック・クロフォード)が支配しており、ルークが兄を殺していたのだ。ルークの手下がジェスの捜査を妨害するが、ジェスはルークのところで働くキット(ダイアナ・ロリス)と仲良くなり……

パンチもメリハリもないダラダラ展開する西部劇。次から次に出てくる登場人物がストーリー展開とは関係を持たず、単に時間つぶしに過ぎないんですよねェ。

ジェスはお尋ね者なので、賞金稼ぎが現れるのですがアッサリ殺されてそれでオシマイ。兄と一緒に働いていた記者や、相撃ちした相手の妻などが思わせぶりに登場しますが、ジェスに注意してオシマイ。

結局、キットに惚れていたルークがジェスに決闘を挑むんですよ。

「扉を見ろ。あそこに陽がさす前に町から出て行け!」なんて、使い古されたようなセリフを言ってね。

ブクブク太ったブロデリック・クロフォードはヨタヨタしていて、『必殺の一弾』の頃のような凄さはないし、オーディ・マーフィも若い頃のような身体のキレがありません。『野郎!拳銃で来い』ではサッと飛び越えていたバーのカウンターを膝まずくようではね。

ところで、CDに収録されていたニッコ・フィデンコの歌は劇中で流れませんでした。流れていたら、違和感にますますズッコケていたでしょう。

サントラCD

 

 

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