西部劇関連本


日本人作家の西部小説

『ゴールド・ラッシュ』(集英社文庫)

 柘植久慶:著

 1997年8月25日 初版発行

 

 名字帯刀を許された大和の豪農に生まれ、長崎へ商売の勉強に出た堀田大和之助が、香港を経由して、イギリス人の仲間とゴールド・ラッシュのカリフォルニアに渡り、冒険を繰り広げるサムライ・ウエスタン。

 背中に名刀・村正を背負い、腰のガンベルトにはコルト・ウォーカー・モデル、鞍にはロングレンジのマウンテン・ライフル。そして手裏剣をも隠し持つ。

 内容は完璧に西部劇。金鉱事業から手をひいて、護衛業を行う後半部分が断然面白いで〜す。

 

『地獄のレンジャーズ』(集英社文庫)

 柘植久慶:著

 1998年11月25日 初版発行

 

 『ゴールド・ラッシュ』の続編。アトランタで農場を営む堀田大和之助は、南北戦争が始まり、友人のストーンウォール・ジャクソンの頼みでレンジャーズの参謀として南部のために戦う。中西部で多大な戦果をあげた大和之助だったが、留守中に妻と友人を、妻の兄とその仲間に殺され農場を乗っ取られる。

 南部の敗戦が間近に迫り、アトランタに戻った大和之助は、妻と友人の復讐を果たし、農場を焼き払ってメキシコへ立ち去る。

 話の展開からして、さらに続編が書き継がれる内容になっていますが、発表の場がないのかなァ。西部劇ファンにとっては、嬉しい小説ですが、マイナーなジャンルだから売上が期待できないのかも……

 

『マクシミリアンの傭兵』(集英社文庫)

 柘植久慶:著

 2001年6月25日 初版発行

 

 前作(『地獄のレンジャーズ』)のラストでメキシコへ向かった主人公が、マクシミリアンの傭兵となって、ファレスの革命軍と戦う冒険物語。

 1965年当時のメキシコはフランスの信託統治下にあり、ナポレオン三世によってオーストリアからマクシミリアンが派遣され、皇帝の地位に就いていました。ゲーリー・クーパーとバート・ランカスターの決闘が話題になった名作西部劇『ヴェラクルス』と同じ舞台設定ですが、こちらは西部劇というより戦争アドベンチャー。

 フランス軍の撤退とともに主人公もメキシコを去り、次回はアメリカ中西部を舞台としたインディアンとの戦いが中心になりそうで〜す。

 

『五枚の金貨』(中央公論新社)

 柘植久慶:著

 2001年10月10日 初版発行

 

 外出したついでに立寄った本屋にあったのを、何とはなしにページをめくったら、これがアメリカ西部史。

 『ゴールド・ラッシュ』、『地獄のレンジャーズ』で、確かな西部考証をしていた作者のものだけに期待して読みました。

 金貨の眼を通して、その所有者であるアメリカの歴史上の人物が描かれており、ノンフィクション・コーナーに置かれていましたが小説です。

 西部劇史の謎のひとつであるジョニー・リンゴの死は、この作品ではフランク・レスリーによる殺害になっています。フランク・レスリー犯人説は昔からあったのですが、少しレスリーを持ち上げすぎのような気がします。マア、そのへんが小説なのですが……

 

『アリゾナ無宿』(新潮社)

 逢坂剛:著

 2002年4月20日 初版発行

 

 「小説新潮」に掲載されていたものを加筆して出版したもので、挿絵は津神久三さんが描いています。

 第1章部分は、「小説新潮」で読みましたが、サグワロ(これが居合いの達人で、含み針も名人という日本の侍)は登場していなかったような気がします。おそらく単行本化するうえで加筆されたものと思われます。

 全体を通しての物語の軸はなく、1話完結のテレビ西部劇を見ている感じです。だから、これからも話をドンドン続けることができ、続編も期待できますが、要はこの本の売行き次第でしょうね。

 

『墓石の伝説』(毎日新聞社)

 逢坂剛:著

 2004年11月30日 初版発行

 

毎日新聞で2002年11月1日〜2003年12月27日まで連載されていたものを単行本化したものです。西部劇ファンの逢坂剛が西部劇への思いを小説という形態で表現しています。

語り部である岡坂神策は作者自身ですね。西部劇の映画製作を計画している塚山新次郎も作者自身です。

“OK牧場の決闘”の真実をメインにして物語は展開していくのですが、不完全燃焼のような気がしますね。何を言いたいのか、わからな〜い。“OK牧場の決闘”を扱った映画を鑑賞する上での参考資料にはなりますが……

でもって、こんな小説を喜ぶのは私のような西部劇ファンだけじゃないですかね。それも、マカロニに関しては全然言及していないので、西部劇ファンといっても50年代〜60年代にリアルタイムで西部劇を観た50歳以上の人たちだけでしょうね。

若い人に西部劇の魅力を伝えるのは、時代劇以上に難しいことで〜す。

 

『龍の荒野』(文芸ポストNOVELS−小学館)

斎藤純:著

2005年1月10日 初版発行

 

時代は19世紀末、日本の絵師が、恐竜の復元画を書くために化石を発掘しているアメリカ西部へやってくる。部族連合を企てているインディアンの英雄に間違われて賞金稼ぎに狙われたり、殺人犯人に間違われてシェリフに追われたりと、彼の行く手には様々な危難が待ち受けている……

著者は西部劇について、それほど詳しくありませんね。映画で知りうるレベル程度です。お話が面白いかというと、ウ〜ン。主人公に魅力が感じられないんですよ。悪党たちが勝手に共倒れしていく感じで、カタルシスを得られませ〜ん。

1999年夏号〜2002年秋号に「文芸ポスト」で連載されたものを今頃単行本化したのは、少しばかり西部劇が話題になっているからですかね。

 

『逆襲の地平線』(新潮社)

 逢坂剛:著

2005年8月30日 初版発行

 

ジェニファ、トム、サグワロの三人が活躍した『アリゾナ無宿』(2002年4月20日発行)の続編です。今回は彼らにジャスティ・キッドという早撃ち自慢の若者が加わります。

内容は女牧場主の依頼で、コマンチにさらわれた娘を探し出す物語。宣伝文が“誇り高きハードボイルド”で、西部小説になっていないのは西部劇では売れないと考えたからでしょうね。でも、内容は西部小説。

『必殺の一弾』がお気に入りの著者らしく、ペーパーガンマンの登場や、ファニングは当らないという薀蓄が出てくるところはその影響が見受けられます。

本文に“ワイアット・アープと、何年かのちに関わりをもつことになろうとは、そのときは想像もしなかった”という記述があるのは、著者が続編の構想を持っているからでしょうね。続編も期待したいと思いま〜す。

 

 

 

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