喜八監督の暗黒街シリーズ


東宝の“暗黒街”シリーズは一般的に、『暗黒街』、『暗黒街の顔役』、『暗黒街の対決』、『暗黒街の弾痕』、『暗黒街の牙』、『暗黒街撃滅命令』、『暗黒街全滅作戦』の7本を云いますが、“暗黒街”をタイトルに冠しているだけで、ストーリー的にもキャラクター的にも何の関係もありません。作風的には、岡本喜八が監督した『暗黒街の顔役』、『暗黒街の対決』、『暗黒街の弾痕』の3本に、『顔役暁に死す』を加えて一括りにした方がいいような気がします。

この頃の喜八監督は“独立愚連隊”シリーズを並行して演出しており、最も脂の乗った時期でしたね。大胆なカット割、スピーディーでシャープな展開、ギャグの面白さ、娯楽映画の第一人者としての才能を存分に発揮していま〜す。

 

『暗黒街の顔役』(1959年)

小松竜太(鶴田浩二)は、ボスの横光(河津清三郎)に弟・峰夫(宝田明)が歌手としてジャズ喫茶に出演しているのを止めさせるように命じられる。横光の仕業である殺人現場で、峰夫は飲食店の女店員に目撃されていたからだ。峰夫は堅気になるために、竜太の説得に応じようとしない。竜太に対抗意識を燃やす黒崎(田中春夫)が峰夫の消し役を買ってでるが……

ハリウッドを意識したギャング映画になっています。主演が鶴田浩二なので甘さが目立つのは仕方ないですが、狙いはハードボイルドです。

平田昭彦の経済ヤクザはキャラ通りですが、気弱な役の多い田中春夫が武闘派ヤクザを演じており、これが巧いんですよ。

トシローさんは、ギャングにいたぶられる板金工のオヤジ。さえない役なんですが、存在感があるんだよなァ。

喜八監督のアクション映画第1作目でして、東宝アクション映画史に興味のある人間には外せない作品で〜す。

 

『暗黒街の対決』(1960年)

新旧の暴力団が対立する町に汚職刑事(三船敏郎)が着任する。舞台となる町が荒神市(次郎長映画でお馴染みの荒神山からのネーミングでしょう)で、トシローさんは警官殺しの捜査にきた特命刑事。

政治家に賄賂を贈ってノシ上がってきた新興ヤクザが河津清三郎で、腹心の部下が中丸忠雄。そして平田昭彦率いる殺し屋集団(天本英世がバツグンの存在感あり)が雇われている。

一方、旧い土建屋ヤクザが田崎潤で、子分が佐藤允。佐藤允の兄貴分で、今は堅気となっているが愛妻を交通事故に見せかけて殺され、犯人に復讐しようと誓っているのが鶴田浩二。まさにイメージ通りのキャスティングです。ただ、司葉子だけはミスキャストだと思いますけど。

ギャグとアクションのバランスがよく、シリーズ最高傑作といってよいでしょう。

それにしても喜八監督、西部劇が好きなんですねェ。鶴田浩二のバーに見る何気ないショットにそれを感じますよ。

 

『暗黒街の弾痕』(1961年)

捕鯨砲の教官の草鹿次郎(加山雄三)は、コマツモータースのテストドライバーだった兄の事故死を不審に思い、大学時代の親友でトップ屋の須藤(佐藤允)と調査を始める。事故の目撃者であるダンプの運転手も事故と見せかけて殺され、東刑事(三橋達也)も次郎と須藤の行動をフォローする。事件の背後には、小松(中谷一郎)が設計した高性能エンジンを狙う国際産業スパイの暗躍があった……

この作品でも島崎雪子のバックコーラスをする殺し屋などのユーモアをまじえ、快調にアクションが展開していきます。今回天本英世は殺し屋であってもコーラスには加わっていません。加山雄三にやられっぱなしで今イチですね。中丸忠雄は、例によって胡散臭さ満点。

中谷一郎の妹役の浜美枝は、この頃はまだイモ姐ちゃん。艶っぽさでは、水野久美さんが断然いいのだ。

 

『顔役暁に死す』(1961年)

島崎雪子

家出していた佐伯次郎(加山雄三)がアラスカから5年振りに故郷へ戻ってみると、市長だった父親が半年前に殺されていた。町は半田組と後藤組の二つの暴力団が対立しており、父の後妻・久子(島崎雪子)は、後藤(平田昭彦)の情婦だった。次郎のもとに、犯人の指紋を売りたいという電話が入り……

意外性ある犯人は狙いとしては良いのですが、説明不足なのが問題ですね。射撃の腕前と、ライフルの入手経路が曖昧なんですよ。どこかで伏線を張っておいて欲しかったなァ。ライフルを盗まれたという村上冬樹を加山雄三が訪ねた時に、真犯人も一緒に射撃していたとかね。

物語の展開はテンポがあって喜八監督の演出は冴えています。加山雄三もトボケタ味わいがあってグッドです。彼の苦労知らずの育ちの良さが、市長の息子という主人公のキャラにプラスに作用していますね。

それにしても、前作の『暗黒街の弾痕』もそうだったけど、島崎雪子は悪女が似合いま〜す。

 

 

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