芝居の中で、とつぜん歌や踊りが出てくるミュージカル映画は、アメリカの専売特許ではありません。 日本にもあるんですよ。中でも特筆すべきは狸ミュージカルというジャンル。人間に化けた狸が、歌って踊るミュージカル映画です。なにしろ狸の世界の物語ですから、空想のおもむくまま、何でもありの映画なんです。 1939年の新興キネマの『狸御殿』が記念すべき第1作です。狸モノとしては、これより前に同社の『阿波狸合戦』と『文福茶釜』がありますが、狸の姿を借りた空想の世界を木村恵吾監督は、“シンデレラ”を下敷きに、歌あり踊りありの歌舞伎レビュー風に仕上げました。 『狸御殿』は、3週続映という大ヒット(当時は週替りが普通)となり、1942年には新興、大都、日活が合併してできた大映で、『歌ふ狸御殿』として同監督によりリメイクされヒットしています。 木村恵吾監督は、戦後も大映で4本(『春爛漫狸祭』、『花くらべ狸御殿』、『初春狸御殿』、『狸穴町0番地』)の狸ミュージカルを作っており、結局日本では確立できなかったミュージカルに挑戦した数少ない監督の一人ですね。彼の功績はきちんと評価されるべきだと、私は考えます。 狸ミュージカルは大映十八番モノとなりましたが、各社でもいろいろ作られています。 松竹が『満月城の歌合戦』(戦後最初の狸ミュージカル)を、東映が『満月狸ばやし』を、新東宝が『歌まつり満月狸合戦』を、東宝が『大当り狸御殿』を作っています。 私が狸ミュージカルを観たのは最近なのですが、これがもの凄くバカバカしくて楽しいんですよ。映画の面白さは理屈じゃないんですね。 当時の観客は夢の世界にウットリしたのかもしれませんが、現在の感覚で観ると完全にブッ飛んでいる映画といっていいでしょう。 |
歌ふ狸御殿(1942年・大映)
(製 作) 監督:木村恵吾、原作:木村恵吾、脚本:木村恵吾、撮影:牧田行正 特撮:三木滋人、音楽:佐藤顕雄、歌謡作曲:古賀政男 作詞:サトー・ハチロー 出演:宮城千賀子、高山広子、草笛美子、益田喜頓、雲井八重子 (感 想) カチカチ山の狸の娘・お黒(高山広子)は、父を亡くした後、継母と義姉のきぬた(草笛美子)に下女のように、こき使われていた。 きぬたは、美貌を鼻にかける高慢ちきな女で、森一番の美しい花・白木蓮の樹を、河童のプク助(益田喜頓)を色仕掛けで騙して切らせようとした。お黒はプク助を説得して思い止まらせ、白木蓮を救う。 狸祭りの夜、身なりの貧しいお黒は、白木蓮の精(雲井八重子)の魔法により、さぎり姫に変身し、狸御殿で催される宴に参加する。 そして、若君・狸吉郎(宮城千賀子)に見初められ…… “シンデレラ”をベースに、歌と踊りで綴る他愛ない物語。 |
高山広子と宮城千賀子 |
春爛漫狸御殿(1948年・大映)
明日待子と喜多川千鶴 |
(製 作) 出演:明日待子、喜多川千鶴、草笛美子、暁照子、杉狂児、坊屋三郎、萩町子、笠置シズ子 (感 想) 満寿妃は、名門・小鼓山家の若君・狸吉郎(喜多川千鶴)を自分の娘の婿に迎えようと、狸御殿の狸祭りに狸吉郎を招待した。しかし、狸吉郎が見初めたのは夕月姫だった。怒った満寿妃は、夕月姫に毒酒を飲ませて老婆に変えてしまう…… これまた“シンデレラ”と“白雪姫”をベースに、歌と踊りで綴る他愛ない物語。 何と言っても見どころは、天才・笠置シズ子の歌と踊りなのだ。 |
花くらべ狸御殿(1949年・大映)
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(製 作) 監督:木村恵吾、脚本:木村恵吾、撮影:牧田行正、音楽:服部良一、美術:上里義三 特撮:円谷英二 出演:水の江滝子、喜多川千鶴、柳屋金語楼、京マチ子、暁テル子、藤井貢 (感 想) 話にだけは聞いていた水の江滝子のレビューを初めて観ました。男装の麗人・水の江滝子は、“ターキー”の愛称で知られるSKD(松竹歌劇団)のスーパースターでした。 SKDは浅草の国際劇場をホーム・グランドにし、1949年頃は人気の頂点にあったんですよ。なにしろ、SKDのスターたちのプロマイドは、当時、全映画スターを一緒にしても追いつかないほどの売行きを示したそうです。 ターキーは、歌に踊りにタップにと、いろいろ見せてくれますが、これが実にカッコいいんですね。舞台での芸の基礎ができているからでしょう。 ターキー以外でも、この映画の出演者は、みんな芸達者です。妖艶な京マチ子(最高に色っぽくて、かわいい!)、ハゲの柳家金語楼、SKD出身の暁テル子、怪優・藤井貢、戦前は人気コメディアンだった杉狂児に渡辺篤。現在のタレントと比較するとスマートさはありませんが、芸に幅があります。 映画の内容は、風来坊の青年が王女を助けて、魔女と結託する悪い大臣と戦うという、西洋の童話ネタ(「白雪姫」と「笑わないお姫さま」)からアイデアを頂いたもの。 |