(1962年・東映)
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(スタッフ) 監 督:加藤 泰 原 作:林 不忘 脚 本:石堂淑朗 撮 影:鈴木重平 音 楽:鏑木 創 (キャスト) 丹下左膳 …… 大友柳太朗 鼓の与吉 …… 東千代之介 櫛巻お藤 …… 久保菜穂子 弥生 …… 桜町弘子 千鳥 …… 筑波久子 大岡越前守…… 近衛十四郎 蒲生泰軒 …… 神田隆 諏訪栄三郎…… 菅貫太郎 相馬大膳亮…… 花沢徳衛 渡辺三郎 …… 南廣 鈴川源十郎…… 山茶花究 天下の名剣二振りをめぐる鮮血の闘争! |
(感 想) 大友左膳シリーズ最終作。これまでの松田定次監督によるシリーズ4作の明るく豪快な左膳像と異なり、『仇討ち崇禅寺馬場』にみられる大友柳太朗の“暗”の部分を強く出した、独自の丹下左膳を作りだしています。これは、シリーズから離れた独立した作品として捉えた方がいいですね。 名刀きちがいの藩主に気に入られようと、丹下左膳は乾雲と坤龍の二刀を手に入れるべく小野塚鉄斎の道場へ忍び込みますが、鉄斎に気づかれます。鉄斎を倒し、乾雲を奪うことはできますが、鉄斎との対決で左膳は右目を失います。 オープニングで両目両腕のある大友柳太朗がアップで映し出されます。観ている人へ、左膳が片目片腕になる経過に興味を抱かせる加藤泰の心憎い演出です。 左膳は、乾雲を藩主・大膳亮に差し出しますが、逆に坤龍を奪ってこなかったことで叱責されます。そして、大膳亮は剣術指南役プラス500石加増という左膳に出した同じ条件で渡辺三郎へ坤龍を奪うように命じます。 「名刀は二つとないが、家臣の代りはいくらでもいる」と呟く、ひどい殿様です。 坤龍を奪いに、左膳は再び小野塚道場へ現われます。諏訪栄三郎を中心とする小野塚道場の門弟たち、渡辺三郎を頭領とする月輪一党を相手の乱闘の中で左膳は坤龍を手にいれますが、父の仇として左膳を狙う鉄斎の娘・弥生に右腕を刺されます。坤龍は左膳の意をくんだ鼓の与吉の手で、大膳亮のもとへ届けられます。 一方、江戸の治安を預かる大岡越前守は、密偵の蒲生泰軒(これまでの作品の中では一番位置付けが低い)の報告により左膳を捕えます。 越前は大膳亮に丹下左膳について尋ねますが、大膳亮はそんな人物は知らぬといって、左膳との関係を否定します。越前も相馬藩お取り潰しによる浪人が増えることを愁えており、左膳ひとりを悪者にして決着をつけます。 左膳は与吉と櫛巻お藤によって救出されますが、刺された傷がもとで右腕を失います。左膳は恨みの鬼となって、大膳亮への復讐を誓うのです。 主君の命令に服従して必死になる左膳から、虚無の情と怒りにまみれる左膳への移り変わりを、大友柳太朗は見事な演技で見せてくれます。松田監督による左膳シリーズで見せた、やたらカンラカラカラと高笑いするクサイ演技も大友柳太朗らしくていいのですが、あれは柳太朗ファンだけのものですからね。 モノクロのローアングルによる描写は、地味ですが激しい調子のリアリズムで貫かれています。周辺の人物(山茶花究の鈴川源十郎がバツグンにいい)、市井の描写もいきいきとして奥行きの深い作品となっています。難をいえば、相馬大膳亮と大岡越前守のキャスティングが弱かったかな。 興行的には大コケ(私も大友左膳シリーズの中で唯一劇場で観ていない作品)して失敗作とされていますが、今回初めてビデオで観て作品的にはレベルの高い秀作だということを痛感しましたね。当時は、大友ファンにも、名画ファンにも受け入れられなかったようですが、隠れた名作としてチャンバラ映画史の中で再評価の価値はある作品です。 |
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