丹下左膳

(1956年・日活)


(スタッフ)

 

製 作:水の江滝子

監 督:マキノ雅弘

原 作:林不亡

脚 本:棚田吾郎

撮 影:永塚一栄

音 楽:鈴木静一

 

(キャスト)

 

水島道太郎:丹下左膳

月丘夢路 :櫛巻お藤

河津清三郎:岩城主水正、蒲生泰軒(二役)

沢村国太郎:小野塚鉄斎

南田洋子 :小野塚弥生

金子信雄 :諏訪栄三郎

堀恭子  :お艶

フランキー堺:鼓の与吉

小林重四郎:鈴川源十郎

坂東好太郎:大岡越前守

 

(感 想)

 

乾雲の巻、坤竜の巻、昇竜の巻の全三部作。

 刀剣収集に狂っている主君・岩城主水正の頼みで、左膳之助(ひだりぜんのすけ)が浪人・丹下左膳となって、小野塚道場の家宝である“乾雲・坤竜”という名刀を手に入れるために江戸へやってくる。

 道場の後継者を決める試合に左膳が現れ、小野塚鉄斎を倒し、乾雲を奪うが、坤竜は鉄斎の娘・弥生に持ちさられる。弥生は坤竜を師範代の諏訪栄三郎に預ける。栄三郎は、乾雲を取り戻すことを誓うが……

 

 乾雲と坤竜が呼び合い、左膳が狂ったように人を斬って乾雲に血を吸わせ、捕り方に追われるという設定は、大河内伝次郎が演じた戦前の伊藤大輔の作品がもとになっているような気がします。 

 伊藤大輔の名前はどこにもクレジットされていませんが、主君に裏切られた左膳の有名なセリフ「お目出たいぞよ、丹下左膳」が、この作品でも使われているんですよ。ただ、水島道太郎の左膳には、悲愴感がなく、笑い声も狂笑になっていませんけどね。

 笑い声で良かったのは、何と言っても『丹下左膳 乾雲坤竜の巻』の大友柳太朗でした。それにしても刀が哭いたのには驚いたなァ。“刀が哭く。離ればなれの乾雲丸と坤竜丸とが、丑満の頃になると、啾々として咽び泣く”と、原作にある通り、哭いでいましたよ。

 ところで、水島道太郎がギッチョだったので左膳に起用したと、マキノ雅弘は『映画渡世』で書いていましたが、立回りは、まずまずの出来といってよいでしょう。下から上に斬上げる逆袈裟斬りは決まっていたと思います。捕り方を相手にした乱闘シーンは今イチでしたが。

 諏訪栄三郎の金子信雄はミス・キャスト。栄三郎って、原作では美剣士なんですよ。化け物の左膳と美剣士が戦うから絵になるのにね。それに金子信雄のノイローゼ演技にもまいった。

 逆に良かったのが、鼓の与吉のフランキー堺。後年、『幕末太陽伝』でみせた軽妙な演技を見せてくれます。『幕末太陽伝』の名演技の下地が、この作品にあったんですね。

 月丘夢路の櫛巻お藤は、縛連女にしては品がありすぎで〜す。

 

 

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