松竹時代の近衛十四郎


『浪人街』(1957年・松竹/監督:マキノ雅弘)

浪人・赤牛弥五右衛門(河津清三郎)と旗本の小幡伝太夫(石黒達也)・七郎右門(竜崎一朗)兄弟が喧嘩を始めた時、母衣権兵衛(藤田進)が浪人たちを引きつれて仲裁に入る。騒ぎを恐れた、旗本御用商人の近江屋(清水元)が浪人たちに金を渡してその場は収まったが、小幡たち旗本は浪人たちに遺恨を持つ。その金で赤牛が居酒屋で飲んでいると、居合わせた荒牧源内(近衛十四郎)と些細なことから喧嘩になり、またしても母衣権兵衛が仲裁に入る。源内は女スリのお新(水原真知子)のヒモのような生活をしており、権兵衛はお新に惹かれていた。赤牛が住む長屋に土居孫八郎(北上弥太郎)という若い浪人が帰参を夢見て妹・おぶん(山鳩くるみ)が暮らしていたが、帰参に必要な短刀を生活のために手放しており……

マキノ雅弘が弱冠20歳の時に監督した無声映画の傑作時代劇(現存するフィルムがないのが残念)を自らがリメイクした作品。

無頼の浪人たちの真情を、軽妙な演出タッチを通して描きだそうとしているのですが、巧くいっていません。内面演技が重要なんですが、藤田進と近衛十四郎の演技力ではねェ。対立する旗本たちもコミカル面が前面にきたので憎々しさが消え、せっかくのラストの大立回りが活きていません。

オリジナルにない新キャラとして登場した高峰三枝子も調和しておらず、ムダな存在でした。バランスの崩れたリメイク失敗作ですな。

 

『江戸群盗傳』(1958年・松竹/監督:福田晴一)

無礼打ちされた父の仇を討つために佃島から脱走した庄吉(北上弥太郎)と居酒屋で知り合った梅津長門(近衛十四郎)は、庄吉の心意気を気に入り助太刀を買って出る。その話を傍らで聞いていたヤクザの喜三郎(名和宏)も加わり、庄吉の仇・須貝嘉兵衛(石黒達也)の屋敷に乗り込むが、須貝は不行跡のかどで井伊家預かりとなっていた。須貝の屋敷にいた将軍の落胤・雪姫(嵯峨美智子)が長門を襲うが、逆に長門に犯されてしまう。幕府への怨みから雪姫を抱いた長門だったが、やがて雪姫を愛するようになり……

原作は柴田錬三郎で、主人公(近衛十四郎)は、初期の柴錬の小説では定番の反権力型ヒーローです。主人公に犯されながらも主人公を愛するようになる薄幸のヒロイン(嵯峨美智子)、主人公に味方する泥棒(北上弥太郎)・ヤクザ(名和宏)・講釈師(花菱アチャコ)、主人公と敵対する剣客(戸上城太郎・石黒達也)と、これまた定番キャラが登場してストーリー展開していきます。ただ、ストーリーを追うことに終始して、登場人物の整理ができておらず、説明的セリフだけで内容は薄っぺらいものとなっていますね。チャンバラの上手い近衛と戸上の対決をじっくり見せるとか、演出に工夫が欲しかったで〜す。

 

『柳生旅日記』

『柳生旅日記・天地夢想剣』(1959年・松竹/監督:萩原遼)

武者修行の剣士・茨木左源太(森美樹)と立ち合った柳生十兵衛(近衛十四郎)は、夢想剣を編み出すものの片目を失う。十兵衛との試合で左腕を失って柳生道場で養生していた左源太は、大名の動向を調べた密書を奪って逃走する。左源太を追った十兵衛は、遍路の集団に襲われる。沢庵和尚から解決の糸口は四国にあることを知らされた十兵衛は、弟子入り志願の藤四郎(名和宏)と荒木丑之助(松本錦四郎)を連れて阿波の国へ……

 

『柳生旅日記・竜虎活殺剣』(1960年・松竹/監督:萩原遼)

海賊片目の竜を捕えるために播州津の浦にやってきた柳生十兵衛(近衛十四郎)は、ならず者に襲われている権太(花菱アチャコ)を助ける。白山神社の竜神祭が間近にせまったある日、十兵衛は謎の浪人者(森美樹)に襲われる。そして、竜野藩が幕府に送る20万両の御用金が海賊に奪われ……

 

近衛十四郎が東映に移る前に松竹で見せた柳生十兵衛です。見所は、何といっても近衛の立回りですね。特に“竜虎活殺剣”は、立回りにうるさいチャンバラファンの間で評判の高かった作品で、期待通りでした。逆手二刀流の殺陣はスピード感にあふれ、近衛の本領を発揮しています。色恋なしの惚れたはれた抜きにチャンバラだけしていれば近衛は大スターですね。

内容の方は、“天地夢想剣”が石田三成の孫娘(桑野みゆき)を担いで徳川打倒を企てる一味との戦いで、“竜虎活殺剣”が福島正則の娘(宇治みさ子)を担いで徳川打倒を企てる一味との戦いという、同じようなプロットです。

“天地夢想剣”では、十兵衛が武芸者と試合して左目を傷つけ、右目を庇った盲目状態で相手の腕を打ち砕いて夢想剣を編み出すという、片目になる経緯が新手で面白かったで〜す。

 

 

『まだら頭巾剣を抜けば・乱れ白菊』(1957年・松竹/監督:倉橋良介)

老中・田沼意次の権勢を後ろ盾に、大名取潰しを画策する将軍側近(香川良介)の陰謀を正義の剣士まだら頭巾(近衛十四郎)が暴くチャンバラ映画ね。

まだら頭巾の正体は市井に暮す将軍の弟で、取潰された大名家のお姫さん(山鳩くるみ)が将軍暗殺しようとするのを防ぎ、取潰されそうになる大名(森美樹)家を救うんですよ。

これに、敵になったり味方になったりする縛連女(水原真知子)や、お姫さんと愛し合うようになるヤクザの若者(中村嘉葎雄)、剣の勝負を挑む刺客(月形龍之介)が絡んで展開していきます。

人間ドラマとしての厚みはなく、演出も平凡でして、見どころは近衛のチャンバラね。大刀2本を使った二刀流の立ち回りは、斬られ役の技術不足で今イチですが、月形との2度の対決は見せてくれますよ。月形の威圧感に押されぎみなんですが、相手がチャンバラ上手だと近衛の持ち味が活きてきま〜す。

 

 

 

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