日活京都のチャンバラ映画


日活(大日本活動写真株式会社)は1912年に設立された老舗。東京の向島と京都の二条城西櫓下に撮影所を設け、前者では現代劇を、後者では時代劇を制作していました。

日活京都のスターといえば、“目玉の松ちゃん”こと尾上松之助にはじまり、阪東妻三郎、大河内伝次郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、月形龍之介が名前を連ね、戦前の日活といえばチャンバラ映画の代表的存在でした。

 

江戸の春・遠山桜(1936年/監督:荒井良平)

尾上菊太郎

 チャンバラというより、人情時代劇です。主演の尾上菊太郎は、戦前の日活京都でずっと二枚目を演じています。汚れ役ができないので、二枚目から脱皮できなかったようで、戦後は殆ど活躍していません。

映画史に残るような名作に出演していないので、今じゃ知る人も少ないでしょうね。私だって、この映画を見るまで全く知らなかったんだもの。

それより、“アノネのオッサン”高勢実乗(たかせみのる)が出演していたのが嬉しかったです。

この映画でも鳥羽陽之助と組んでコメディリリーフをしていますが、「アーノネ、オッサン、ワシャ、カナワンヨウ」のセリフはありませんでした。

 

堀部安兵衛(1936年/監督:益田晴夫)

黒川弥太郎

B級チャンバラスターだった黒川弥太郎が主演。

臭い芝居なんですが、どこか味があるんですよ。だけど突出した魅力はないんで、A級スターになれませんでした。

戦後は、いろいろな映画会社を渡り歩き、バイプレイヤーとして息に長い役者となりましたね。

私がスクリーンで黒川弥太郎を最初に見たのは、『赤胴鈴之助』(1957年・大映)の千葉周作じゃなかったかなァ。長年のチャンバラスターとして鍛え上げられた風格が印象に残っていま〜す。

 

髑髏銭<総集編>(1938年/監督:辻吉朗)

 原作は角田喜久雄の伝奇ロマンの名作。封切当時は前後編だったものを、大幅に編集したため、筋を追うだけの粗っぽいものとなっていました。

この原作を映画化した作品の中で一番出来がよいという評判だったので、前後編でちゃんと放映してほしかったのですが、おそらくフィルムが現存してないんだろうなァ。

『髑髏銭』といえば、主人公の神奈三四郎(嵐寛寿郎)より、盲目の剣鬼・銭酸漿の方が魅力的なんですが、原健作の銭酸漿はブキミさが弱く、少し線が細かったですね。

それにしても、昔の映画はなんと難しい漢字を使っていたんだろう。髑髏銭(どくろせん)、銭酸漿(ぜにほうずき)と読むんですよ。昔は小学生でも映画を見て難しい漢字を覚えた、と親父が言っていました。

 

栗山大膳(1936年/監督:池田富保)

黒田藩主・忠之(尾上菊太郎)は、愛妾・お秀の方(入江たか子)の色香に溺れて酒色にふけっていた。家老の栗山大膳(大河内伝次郎)は忠之を諌めるが逆に反感を買う。さらに大船建造を禁じる幕府の政策を無視する忠之の所業は、御家取潰しの危機を招くと判断した大膳は独断で建造中の船を焼いてしまう。怒った忠之に全ての役職を解任され、蟄居を命じられた大膳は、忠之を諌める最後の手段として幕府に上訴する。

“加賀騒動”や“伊達騒動”の中心人物(大槻伝蔵や原田甲斐)が悪人として描かれることが多いのに対して、“黒田騒動”の栗山大膳は忠臣として名を残しています。大膳は藩主の愚行を幕府の法廷にさらけ出すことによって黒田藩の立て直しを図ったのです。幕府の裁決は、大膳の“狂気”が巻き起こした事件として処置されますが、幕府は事情を熟知しており、そのことは忠之の耳にも伝えられたものと思われます。大膳は盛岡藩にお預けになりますが、公儀から不自由ない扶持を与えられ、天寿をまっとうしました。

内容は、テンポが悪く退屈極まりないものですが、大河内伝次郎の風格ある演技は栗山大膳にピッタリでしたよ。

 

弥次喜多道中記(1938年/マキノ正博)

役人に追われた鼠小僧(杉狂児)は料亭に逃げ込むが、そこで面をつけて踊っていた遠山金四郎(片岡千恵蔵)と出会う。金四郎のおかげで逃げることのできた鼠小僧はホトボリをさますために江戸を離れることにする。一方、金四郎も家督を弟に譲るため、家を出て東海道へ。二人は、ひょんなことから弥次・喜多となって旅をすることになるが……

本者の弥次・喜多が楠木繁夫とディック・ミネで、旅役者の座長が美ち奴、他にも服部富子など歌手が出演して、数々歌うオペレッタ調の時代劇。この下地があったので、翌年『鴛鴦歌合戦』という傑作ミュージカル時代劇が生まれたんですね。

偽の鼠小僧を暴くのが突発的ですが、笑いあり涙ありで、最後まで退屈しない娯楽作品に仕上がっていま〜す。

 

江戸の悪太郎(1939年/監督:マキノ正博)

貧乏長屋に住む島崎三四郎(嵐寛寿郎)の寺子屋に、親の決めた婚礼を嫌って逃げ出してきた浪乃(轟夕紀子)が少年の恰好をして住み込む。長屋の土地は邪教集団に狙われており、三四郎を中心に長屋の住民が協力しあって土地代を工面しようとするが……

“子供の味方”のアラカンのキャラクターがピッタシの、後味が爽やかな作品。轟夕紀子も良し。

アラカンのチャンバラ映画ということもあったのですが、実は先月亡くなった星玲子が出演しているので興味深く観ました。

星玲子の名は、ディック・ミネとデュエットした「二人は若い」で知っていたのですが、顔を見るのは初めて。三四郎と仲の良い少年の母親役で、邪教の教祖の毒牙にかかる悲劇の女性を演じていました。

あの艶っぽさには、教祖ならずともムラムラときますね。星玲子は、マキノ監督の弟・満男氏と結婚したのですが、満男氏もムラムラっときたのでしょうか。

 

 

トップ     目次