東宝時代劇


御用金(1969年・東宝/監督:五社英雄)

財政が逼迫している越前鯖江藩は、佐渡からの幕府の御用船を沈めて金塊を奪った。その時加担させた漁民を皆殺しにして、“神隠し”として葬った。脇坂孫兵衛(仲代達矢)は、家老の六郷帯刀(丹波哲郎)のやり方に異を唱え、藩を出奔するが、3年後、帯刀がまたしても“神隠し”を計画していることを知り、帰郷するが……

フジテレビが製作した劇場用映画で、“神隠し”の唯一の生き残りが浅丘ルリ子、丹波の妹で仲代の妻が司葉子、それに幕府隠密として中村錦之助と、映画会社の枠を外したキャストが当時新鮮な感じがしましたね。パナビジョン、3トラック・ステレオ音響も当時としては珍しかったんじゃないかなァ。

雪中の決闘など殺陣に新機軸を出していましたが、リアリズムにこだわり過ぎて、スピード感がなくなったのが惜しいです。演出に散漫なところがありましたが、全体としては楽しめる時代劇でした。

この作品を西部劇化したのが『マスター・ガンファイター』で〜す。

 

『いのちぼうにふろう』(1971年・東宝/監督:小林正樹)

深川の武家屋敷の一角にあるその島は、四方を堀に囲まれ、島と街を結ぶ唯一の道は、深川吉永町にかかっている橋だけだった。その島には“安楽亭”という居酒屋がたった一軒あるだけで、そこはならず者の溜まり場となっていた。ある日、定七(仲代達矢)と与兵衛(佐藤慶)が袋叩きにあっていた富次郎(山本圭)という堅気の奉公人を助けてきたことから……

自分たちが失った純真な心を取り戻すために、命を捨てて戦う男たちの物語。

この手の“グッド・バッドマン”ものの傑作に、山中貞雄の『河内山宗俊』や、ジョン・フォードの『三悪人』などがありますが、小林正樹の演出は重く、笑いがないので、観終った後に爽快感がなく、暗〜い気分になります。

目ん玉ムキムキの仲代の演技は臭すぎます。そのてん、居酒屋の主人役の中村翫右衛門の演技は自然で巧いなァ。

それにしても、勝新太郎の出演は何だったのだ……

 

『蝦夷館の決闘』(1970年・東宝/監督:古沢憲吾)

ロシアの伯爵令嬢が蝦夷館の次郎左衛門(島田正吾)に拉致され、救出のために八人の男が函館の御用商人・越後屋(金子信雄)に雇われる。首領の宇佐新兵衛(三国連太郎)は公儀隠密で、次郎左衛門の殺害と蝦夷館に隠されている砂金の奪取という密命を帯びていた。八人は仲間の江戸三郎太(加山雄三)の活躍で蝦夷屋敷に潜入することに成功するが……

空撮による大掛かりな合戦シーンや、北海道の荒野を背景にしたロングでの立回りシーンなど、空間的拡がりがあって部分的には満足できるところもあるのですが、全体としてみるとウ〜ン。

時代考証がデタラメなのや、インチキ・ガトリングガンは許せるにしても、着ぐるみの熊だけはセンスを疑いますね。着ぐるみの熊と加山雄三の決闘なんて陳腐すぎて目がテンになります。

ヒロインの賠賞美津子は魅力的だったし、曲者傍役も揃っており、作り方次第では、もっと面白くなると思うんですがねェ。

 

斬る(1968年・東宝/監督:岡本喜八)

砂塵をまきあげる人気のない宿場へ、ヤクザ姿の源太(仲代達矢)と浪人姿の田畑半次郎(高橋悦史)が腹を空かせてやってくる。そして、小比木藩の七人の若侍が、同藩の家老を襲撃するのに出くわす。源太は藩政改革を志す若侍の味方になり、半次郎は権力を握った次席家老・鮎沢多宮(神山繁)に取入る。藩政を我が物にしようと考えた鮎沢は、私闘と見せかけて若侍を殺すために浪人を雇い、討手として若侍が篭る砦山にさしむける……

原作は山本周五郎の『砦山の十七日』で、『椿三十郎』の原作と同じなんですね。

『椿三十郎』より登場人物や話の展開は複雑になっていますが、その分、人間描写が薄味になっています。特に主人公のね。だけど、手際よくアクションを絡めて最後まで破綻なく見せる演出力は流石に岡本喜八です。

娯楽映画の面白さに満足、満足。

 

『秘剣』(1963年・東宝/監督:稲垣浩)

九州小笠原藩の下級武士・早川典膳(市川染五郎=現:松本幸四郎)は、剣の道に夢を描いていたが、戦乱も収まり、既に剣を必要としない時代となっていた。同藩を訪れた宮本武蔵(月形龍之介)に挑戦するが、重役たちは藩の面目をつぶした典膳を辻斬り犯として捕える。冤罪に怒った典膳は脱藩し、奈良の山中で秘剣をあみ出す。藩は、典膳と兄弟同様の間柄である細尾長十郎(長門裕之)に上意討ちを命じるが……

五味康祐の同名短編小説が原作ですが、結末は小説とは逆の内容になっています。そのためストーリー展開に無理が生じていますね。

秘剣をあみ出す修行内容も陳腐だし、どうやってその技が完成したかも描かれていません。原作の面白さを活かすことのできなかった失敗作で〜す。

目付役の三井弘次のご都合主義ぶりと、武蔵役の月形龍之介の剣豪ぶりだけが光っていました。

 

 

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