監督ならジョン・フォード


 西部劇史を語るうえで、代表的スターがジョン・ウェインなら、代表的監督はジョン・フォードになりますね。戦前からの西部劇ファンは『駅馬車』をフォードのベスト作品にあげますが、戦後の西部劇ファンは『荒野の決闘』を推す人が多いみたいです。私は、1962年のリバイバル上映でほぼ同時期に観たので、どちらも好きなのですが。

 戦後の西部劇は、J・ウェインの『拳銃の町』から始まったのですが、質的な面では満足のいく作品ではありせん。西部劇ファンだけでなく、映画ファンにまで満足を与えた西部劇となると、どうしても『荒野の決闘』になります。

 「再び彼の故郷とも云える西部劇に帰った彼は、この一作に更に肌のこまやかな西部風景を、まるで美術雑誌に収めたい様な美しさもって描いたのである。映画以外にはなし得ぬ表現、それは一人ジョン・フォードの独壇場である」と、公開時の映画プログラムに淀川長治さんが書いていますが、まさに西部劇を芸術の域までに高めました。

 『荒野の決闘』以後、1953年までの間に公開されたフォードの新作西部劇は、『幌馬車』(1951年)、『黄色いリボン』(1951年)、『リオ・グランデの砦』(1952年)、『アパッチ砦』(1953年)、『三人の名付け親』(1953年)の5本ありますが、その内の3本、『黄色いリボン』、『リオ・グランデの砦』、『アパッチ砦』は、合衆国騎兵隊を礼賛した作品で、フォードの戦争体験と軍隊の伝統への陶酔ぶりを反映した、今日、多くのフォード映画の中で最もフォードらしい作品とされています。

フォードの西部劇をよく観ると、戦後のアメリカ政治史を多く含んでいるのがわかります。そのことについては個々の作品でふれたいと思いますが、西部劇としての質を落とすものでは決してありません。映像に漂う西部の詩情性については他者の追随を許さず、幾百と作られた西部劇の中にあって、フォードの西部劇にはどれ一つとってみても駄作はありません。またラッセル・シンプスンやジャック・ペニックのような端役にいたるまで、出演者の一人一人が最善の演技をし、存在感をしめしているのもフォード西部劇の素晴らしいところです。

フォードは自分の演出術について、映画監督者“十戒”として発表しています。双葉十三郎さんのコラムにあったので転載しておきますね。

第一戒 映画監督は、自分の力のみをあてにしなければならない。モンタージュやその他のところで、すべてがうまく直されるだろうなどと考えて、いい加減なところで満足してはならない。

第二戒 映画監督は船長である。十分な指揮が出来るためには、到達すべき目的についてはっきりした観念を持っていなければならない。

第三戒 映画監督の仕事は、80%は仕事に入る前に、20%はステージの上でなされる。一つの映画はあらかじめ十分の準備がなされ、一つの場面は撮影開始前、スタジオに入る前に詳しく整理されているべきである。

第四戒 即席の演出は、天才の一型式ではなくして、ただ乱雑と怠惰の一型式にすぎない。

第五戒 俳優たちはロボットではない。とり直しで疲れさせればさせるほど、撮影に際しては自然味を失ってくる。理想的な方法は、最初のとり直しから撮影することである。

第六戒 監督の与える命令と忠告は、簡単でなければならない。細かなことをつけ加えれば加えるほど、理解されることが少なくなる。

第七戒 一本、2500メートルの映画を作るために5万メートルも撮影することはムダである。

第八戒 すべてのカメラの距離、角度、撮影された場面は、映画の最後のモンタージュの中に収まったときに唯一無二のものでなければならない。さもなければ、それは時間と材料と人間精力の損失である。

第九戒 映画監督は、自分の仕事のみに専心しなければならない。しかし、その協力者の仕事がすべて予め規定され、自働的に映画監督のすることから流れ出るようにそれをしなければならない。

第十戒 映画監督は、その協力者の職能のあらゆる機構を知っていなければならない。

 

 

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