大友作品集1


お市の方(1942年・大映/監督:野村昶)

1942年1月に新興キネマ、大都、日活の製作部門を吸収する形で、大日本映画製作株式会社(大映)が設立されました。1941年に連合国の経済制裁により、これまでアメリカから輸入していたイーストマン・フィルムが払底し、映画製作に支障が出てきたんですよ。国産の生フィルムは軍需品とみなされ、民間使用に著しく制限が加えられます。

映画会社は東宝、松竹、大映の三社だけになり、急速に映画産業の規模が縮小していきます。この作品は新会社大映の存在をしめした大作時代劇です。

各社でトップスターだった俳優が顔を揃えているんですよ。新興キネマからは大友柳太朗に羅門光三郎、大都からは阿部九州男、日活からは月形龍之介に宮城千賀子です。監督は、大学教授から映画監督に転じた野村昶。原作は谷崎潤一郎の『盲目物語』です。

表面上は悲恋大絵巻になっていますが、裏に反戦思想を感じることができますよ。時勢は織田信長に向いていることがわかっていながら、父・浅井久政を説得できず、信長との講和のチャンスをむざむざ逃して、勝てる見込みのない戦争に突入する浅井長政の苦悩は、当時の知識人の姿といっていいんじゃないですかね。

浅井長政役の大友柳太朗は生真面目を絵に書いたような演技。姿勢がよく、折り目正しい立ち居振舞いは今の俳優では出せませんよ。

月形龍之介の織田信長もいいなあ。ただ歴史教科書に掲載されている信長の肖像画のようなメイキャップは気に入りませんがね。

宮城千賀子のお市の方は、怖いオバさんで売っていた後年の宮城千賀子を私は知っているので、信じられないものを見た感じでした。当時は清楚なアイドル女優だったんですね。

 

維新の曲(1942年・大映/監督:牛原虚彦)

新選組の池田屋襲撃から坂本龍馬暗殺までを描いた幕末時代劇。

日活・大都・新興の3社が合併して設立された大映の創立第1回超大作。

阪東妻三郎(坂本竜馬)、市川右太衛門(桂小五郎)、片岡千恵蔵(西郷隆盛)、嵐寛寿郎(徳川慶喜)が顔を揃えたオールスターによる国策映画。

ラストでバンツマの竜馬が、御所の方へ向いて、「死して護国の鬼となり、王城を守護し奉らん」と言って死んでいくのは、現在の感覚ではフンプンものですね。

大友柳太朗が竜馬を暗殺する佐々木只三郎役で出演していましたが、セリフが殆どなく、チャンバラ・シーンにだけに登場するなんて、大友はんらしくて良いや。

 

素浪人罷通る(1947年・大映/監督:伊藤大輔)

お馴染みの天一坊事件。

偽のご落胤の参謀となった山内伊賀亮(阪東妻三郎)が、幕府に対して挑戦する物語でなく、天一坊は真のご落胤で、天一坊の父を恋うる気持ちにほだされた伊賀亮が、実父の吉宗に会わせるための義侠の物語になっています。

伊藤大輔の戦後第1作。進駐軍の検閲制度があって、バンツマらしい大立回りはありませんが、貫禄ある演技で悲愴美をうまく表現していました。

ところで、騒乱の種となるものは、本物であっても偽物として処分決定する冷徹な官僚として松平伊豆守(大友柳太郎)が登場するのですが、何で伊豆守なんだろう。伊豆守だと、寛永時代の知恵伊豆を思い浮かべてしまいます。ここは、大岡政談でお馴染みの大岡越前守でもよかったんじゃないかなァ。

 

大江戸七人衆(1958年・東映/監督:松田定次)

江戸の町で乱暴狼藉をつくす大身旗本の鬼神組に対して、勝川縫之助(市川右太衛門)をリーダーとする貧乏旗本が対立していたが、鬼神組の黒幕・松平帯刀(山形勲)の悪計により勝川は甲府勤番に左遷させられる。勝川が江戸を去ったのを機に鬼神組の挑発は執拗となり、勝川の恋人・染吉(花柳小菊)が帯刀に捕らえられ……

七人衆というのは、市川右太衛門、大友柳太朗、大川橋蔵、東千代之介、伏見扇太郎、尾上鯉之助、南郷京之助なんですが、南郷京之助は旗本でなく役者だから本当は違うんですよねェ。

大友柳太朗は花柳小菊を助けに行って斬殺されるんですが、その演技の臭いこと。大友はんの悪い面が出ています。酒好きの豪快なサムライというキャラクターは悪くないのですけどね。

ちなみに悪の七人衆は、山形勲、薄田研二、阿部九州男、加賀邦男、吉田義夫、清川壮司、香川良介ということになりますかね。それにしても薄田研二はメイキャップに懲りすぎで〜す。

 

風流使者・天下無双の剣(1959年・東映/監督:松田定次)

“戸田流音無しの剣”の達人である藤木道満(月形龍之介)は、伊達藩主の叔父で、門弟を連れて諸国を廻り、勤皇の名目のもとに天下を狙っていた。水戸の城下で、一味の連判状を奪おうとした芸者の竹千代(長谷川裕見子)は正体を見破られ殺されそうになるが、本多左近(市川右太衛門)に救われる。竹千代は左近の頼みで道満の内情を探っていたのだ。左近が乗り出したことを知った道満は、小野派一刀流の達人・島田虎之助(大友柳太朗)に左近を討たせようと、左近に化けて室賀三太夫を殺す。三太夫は虎之助の恩師であり、娘の佳永(大川恵子)と恋仲だったからだ。虎之助は、左近を追って江戸へ。侠盗・稲葉屋次郎吉(大川橋蔵)に連判状を奪われた道満も江戸へ……

原作は五味康祐の小説。主人公の本多左近は飯山領主の弟なんですが、どういう身分かよくわかりません。でもって、藤木道満の陰謀を何故探っていたのかよくわかりません。行動パターンは旗本退屈男ですね。

右太衛門が主役なんですが、実質的主役は月形龍之介ですよ。ワカトミ、大友はん、右太衛門の三人を相手にチャンバラするんですから。ワカトミの立回りはスピードがあるけど軽いし、右太衛門の立回りは型通りで新味を感じません。だけど、大友はんと月形のトッツァンの立回りは真剣の重さを感じさせて迫力ありましたねェ。これぞチャンバラの醍醐味でした。

 

 

 

 

 

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