変幻紫頭巾

(1963年・東映)


(スタッフ)

監 督:工藤栄一

原 作:寿々喜多呂九平

脚 本:加藤泰

撮 影:三木滋人

音 楽:鈴木静一

 

(キャスト)

報龍太郎 …… 大友柳太朗

花紫   …… 丘さとみ

お京   …… 北条きく子

佐野善三郎…… 山城新伍

お秀   …… 花柳小菊

田沼意次 …… 柳永二郎

田沼意知 …… 菅貫太郎

後藤庄三郎…… 阿部九州男

下野屋  …… 吉田義夫

偽紫頭巾 …… 戸上城太郎

佐平次  …… 多々良純

戸賀崎熊太郎……片岡千恵蔵

 

悪政を斬る!
   大友・千恵蔵が豪快剣を振う痛快巨編!!

 

(物 語)

時は天明4年春。権勢をほしいままにする老中・田沼意次の屋敷では、息子の意知ら腹心を集めて貨幣改悪の相談をしていた。そこへ、伏見奉行から美女を入れた人形箱が贈物として届けられる。一同、好色の眼が見守る中で人形箱が開けられるが、出てきたのは美女でなく、紫頭巾の武士だった。

紫頭巾は田沼の喉元に刀をつきつけ、これまでの悪行を書面に書き綴らせる。そして3日以内に老中を辞めぬ時には、その書面を天下に公表するといって風のように立ち去った。

紫頭巾によって田沼への人身御供から救われた娘・お京は、生きるアテもなく身投げしようとするが、通りがかりの浪人・報龍太郎に留められ、彼の友人の浮世絵師・狩田秀麿の家にかくまわれる。田沼は町奉行に厳命して紫頭巾捕縛に総力をあげるが、それをあざ笑うかのように紫頭巾は田沼一派の札差に天誅をくわえ、両国橋の欄干に縛りつけて晒しものにする。民衆は、紫頭巾を世直し大明神ともてはやす。

田沼は、紫頭巾の評判を落とすため、偽の紫頭巾に斬り込み強盗を働かせるが……

 

(感 想)

寿々喜多呂九平原作の“紫頭巾”は、無声映画時代から度々映画化されています。大井廣介氏の「ちゃんばら藝術史」によりますと、マキノ映画で初めて映画化された時は、目明し佐平次が紫頭巾と同等の比重を持っていました。紫頭巾も徳川幕府に反逆する殺人犯で豊臣の遺臣という設定だったそうです。

「紫頭巾は、旗本や岡っ引を次々手にかけ、佐平次が紫頭巾の捜査をする。佐平次は、大文字楼で花紫に入りびたりの報龍太郎に嫌疑をかけるが、殺人の行われた夜も登楼している。大文字楼には醜怪な浮世絵師が太夫の肖像を描きに出入りしている。佐平次は龍太郎が浮世絵師に変装して出入りし、紫頭巾で跳梁した龍太郎に立ち戻れば、時間の説明がつくと看破する」

マキノ省三は、龍太郎と浮世絵師の一人二役を阪東妻三郎にやらせようとしましたが、妻三郎の演技がうまくいかず、主役を交代させました。妻三郎はひどく失望し、悶々として自殺まで思いつめたそうですよ。

戦後にリメイクされた紫頭巾は、どれも田沼の賄賂政治と戦う正義の剣士になっています。ちなみに、1949年の『佐平次捕物控・紫頭巾』(東宝/監督:マキノ正博)の主役は阪東妻三郎でした。映画はヒットしましたが、占領下で立回りが制限されていたので、チャンバラ名人・バンツマの腕のふるい場がなかったそうです。

1958年に片岡千恵蔵主演で『紫頭巾』(東映/監督:大西秀明)が作られ、そのリメイクが本作品です。物語に直接関係ない剣豪・戸賀崎熊太郎役で千恵蔵が出演しているのは、前作の関係からのゲスト出演みたいなものですね。ところで、戸賀崎熊太郎は神道無念流の実在した剣豪なんですよ。

それと、佐野善三郎が城中で田沼意知に刃傷におよび殺害するのも史実です。映画用にかなり脚色していましたが、本作品に厚みが出たのは史実をうまく取り入れたからではないでしょうか。その脚色をしたのが名匠・加藤泰で、演出が異才・工藤栄一ですから見応えのある作品になっています。

大友柳太朗のチャンバラは、映画ならではのダイナミックなもの。テレビでは絶対に味わえないですね。偽紫頭巾の戸上城太郎との立回りは、玄人受けする見せ場になっていますよ。

 

 

 

トップ  作品