酒と女と槍

(1960年・東映)


(スタッフ)

監 督:内田吐夢

原 作:海音寺潮五郎

脚 本:井出雅人

撮 影:鷲尾元也

音 楽:小杉太一郎

 

(キャスト)

富田蔵人……大友柳太朗

左近   ……淡島千景

妥女   ……花園ひろみ

前田利長……片岡千恵蔵

豊臣秀次……黒川弥太郎

豊臣秀吉……東野英治郎

徳川家康……小沢栄太郎

石田三成……山形勲

 

武士道がなんだ、掟がなんだ!
     裂かれた恋に怒りをこめて一世一代槍おどり!!

 

(感 想)
 “槍の蔵人”と異名を持つ富田蔵人高定は、豊臣秀次の家臣として豪勇を謳われていた。秀次が秀吉の怒りにふれ切腹すると、蔵人は伏見城大手門前に高札を掲げ、衆人の前で切腹することを広言する。

 蔵人は死ぬまでの数日を心おきなく過ごすため、贔屓にする女歌舞伎の太夫左近と妹分の妥女を酒の相手として招く。

 切腹当日、会場にはおびただしい見物人が集まり、差入れの酒をしこたま飲んで乱酔した蔵人は居眠りをしてしまう。切腹の定刻を過ごし、秀吉の使者に切腹を止められた蔵人は、草深い田舎家に隠棲する。そこに蔵人に恋をした妥女が訪ねてくる。妥女を愛している蔵人は、世捨て人となって妥女と暮しはじめる。

 関ヶ原で石田三成と徳川家康が対峙し、蔵人の庵に前田利長が訪れ、蔵人に仕官を勧める。利長の鼓にあわせ、槍を持って踊る蔵人に侍魂が甦り……

策謀多き世に、誠実に生きて死ぬ剛直な武士という役は、大友はんにピッタリなのですが、内田吐夢の演出は、はしょりすぎて心理描写に喰い足らなさが残ります。

三成に内通して処刑された兄の首を家康から見せられ、さらに左近の死と遭遇し、家康の本陣から三成の本陣へ、敵味方なくなぎ倒して死んでいくラストへの過程が説明不足ですね。

秀次や秀吉が死んだ時、蔵人に切腹を迫る兄の背後に三成がいたことは薄々わかるのですが、左近の唐突な死がわからない。

左近も蔵人を愛していたが、蔵人の心が妥女にあったので、可愛い妹分のために身を引いたのに、子どもができた妥女を捨てて戦に出た蔵人に対して抗議にきたのはわかるのですが、死と結びつかない。家康の密偵として秀次の愛妾となった左近の実の妹が、家康に見殺しにされたことも関係があるようだし、とにかくわからないのです。

ビデオ化したフィルム原版に漏れがあるんじゃないかなァ。

それにしても、ラストの大友はんの立回りは凄いですよ。甲冑をつけて、馬上で11尺(約3.3メートル)の槍を縦横無尽に振り回すんですからね。それも細かいカットのつなぎでなく、長まわしで遠景からのフルショットで見せてくれます。馬の手綱を離して槍を使う芸当ができる役者なんて、今ではどこにもいませんよ。

このラストシーンだけで、この作品を観る価値がありま〜す。

 

 

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