大いなる西部

(1959年)


原題:The Big Country

製作:ウィリアム・ワイラー、グレゴリー・ペック

監督:ウィリアム・ワイラー

原作:ドナルド・ハミルトン

脚本:ジェムス・ウェッブ、サイ・バーレット

    ロバート・ワイラー

撮影:フランツ・E・プラナー

音楽:ジェローム・モロス

出演:グレゴリー・ペック(ジム・マッケイ)

    ジーン・シモンズ(ジュリー・マラゴン)

    キャロル・ベーカー(パット・テリル)

    チャールトン・ヘストン(スティーブ・リーチ)

    バール・アイブス(ルファス・ヘネシー)

    チャールス・ビッグフォード(テリル少佐)

    チャック・コナーズ(バック・ヘネシー)

    アルフォンソ・ベドヤ(ラモン)

 

大原野を行く駅馬車のロングと車輪のアップ、バックに流れる壮大なテーマ曲で、この映画は始まります。オープニングだけで、原題の“The Big Country”を感じることができますね。全編を通じてロングショットで映し出される映像は、雄大な西部の風物をあますことなく伝え、映画でないと味わえないダイナミズムに満ち溢れています。中盤にあるロングによるグレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの暁の殴り合いは、西部劇における殴り合いの中でも五本の指に入りますよ。

物語の開始は、東部からやってきたジム・マッケイがテキサスの開拓町に着いた駅馬車から降りたところからね。彼は、この地方の大牧場主テリル少佐のひとり娘パットと結婚するために父親が遺した船会社を処分して西部にやってきたんですな。ジムは船長をしていたこともあり、未知の世界に対する恐れは持っていません。町にパットと一緒にジムを迎えに来たのがテリル家の牧童頭スティーブで、山高帽姿のジムを見て、パットに思いをよせているスティーブはジムに反感を持ちます。西部男にとって山高帽は軟弱のトレードマークで、西部劇の定型になっていますね。

パットはスティーブを帰し、教師をしている親友のジュリーにジムを紹介します。剽悍奔放のパットと良識的なジュリーの対比が手際よく表現されており、計算された演出といっていいですね。パットとジムが馬車でテリル家に向かう途中で、テリル家と対立するヘネシー家の息子バックにからかわれ、ジムの山高帽が射撃の的になりますが、一発も当っていません。何気ないシーンですが、後で出てくるジムとバックの決闘でのバックの拳銃の腕前の伏線になっているんですよ。ワイラーの演出はシーンの一つ一つに計算が為されており、167分の大長編ですが大味なところはありません。

パットからジムがバッグに馬鹿にされたことを聞いたテリル少佐はヘネシー一家に仕返しをします。“やられたら、やり返す”が西部の掟で、今度はジムとパットの婚約パーティーの席にヘネシーが乗り込んできます。ジムは両家の悪縁を収めるために、ジュリーが所持している土地を手に入れようとするんですな。ジュリーの祖父はスペイン時代から住んでいて牧場をしていたんですが、その土地には旱魃期に必要な水源があったんですね。祖父が死んで牧場はやめたのですが、どちらかに売ると両家の間に血の抗争が起こると思ったジュリーは土地を売らずにいました。ジムはジュリーの牧場を訪れ、彼女と話し合い、牧場を手に入れます。“力の解決でなく、話し合いによる平和的解決”というワイラーの政治的メッセージになっていますね。ジムがこっそり荒馬を乗りこなしたり、道に迷わないように磁石を使ってジュリーの牧場を訪ねたりするのは、意志の強さと自信の表れを示しており、グレゴリー・ペックの持ち味が出ています。

だけど、そんなジムの本質を見抜けないパットから愛想をつかされ、ジムもパットの性格がわかり、ジムとパットは別れることになります。ジュリーがジムに土地を売ったことを知らないヘネシーはジュリーを拉致して息子のバッグと結婚させようとします。テリル少佐はジュリーを救うという名目で、ヘネシー牧場攻撃に出発しますが、ヘネシーもそれを見越して待ち伏せしています。ジュリーのことを聞いたジムは、単身ヘネシー牧場に乗り込み、事情を説明しますがバッグが決闘を挑んできます。決闘でのバッグの卑怯なやり方に、ヘンシーはバッグを射殺します。そして、「両家の対立は、二人の頑固な老人だけの争い」というジムの言葉に、ヘネシーはテリルと1対1の勝負を挑み、老人たちの決闘は相討ちに終ります。

力の正義で築かれた西部が、平和思想によって崩され、新しい西部に移っていくというアメリカの良識がテーマとなっていますが、現実のアメリカは未だに、“力が全てだ”とばかりに無用の流血をする二人の老牧場主に支配されていると思いますよ。逆にそのことが、現在この作品を観直しても古びない要素になっていますね。

 

主要キャストの記念写真

ウィリアム・ワイラー監督が加わりました

 

 

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