サイレントの名作西部劇


『鬼火のロウドン』

原題:Blue Blazes Rawden(製作:1918年)

監督:ウィリアム・S・ハート

 

 鬼火と仇名される木こりのロウドン(ウィリアム・S・ハート)が、仲間たちと一緒に山を下りて、辺境の酒場にやってくる。そこで酒場女バベット(モード・ジョージ)にからんでいる男をあっさり殴り倒して彼女に惚れられる。ところが彼女はこの酒場の主人ヒルガード(ロバート・マッキム)の情婦だったので、ロウドンはヒルガードからいやがらせを受ける。

 ヒルガードはロウドンにサイコロ勝負を挑むが敗れ、暗闇の部屋の中での拳銃による決闘を挑む。子分に命じ、ロウドンの拳銃から弾丸を抜いておく。幸いヒルガードの弾丸は当らないが、相手の卑劣さに怒ったロウドンはヒルガードを殺してしまう。

 やがて、ヒルガードの母(ガートルード・クレア)と弟エリック(ロバート・ゴードン)が訪ねてくる。ロウドンは自分が彼を殺したとは言えないまま、ヒルガードは立派な男だったと言って、悲しみにくれる老母につくすのだ。

 バベットは恋がかなわぬ腹いせから、ロウドンがヒルガードを殺したことをエリックにしゃべってしまう。逆上したエリックはロウドンを射って負傷させ、木こりたちにリンチされかける。そのとき兄が卑怯者だったことがわかる。ロウドンは木こりたちを説得してエリックを救い、何処へともなく去って行く。

 

 この作品は、厳密には西部劇とは言えませんが、エス・ハート独特の西部劇の詩情があふれています。

 エス・ハートは美男とはいえませんが、大自然の風雪に鍛えられた風貌は個性的であり、男性的で人を惹きつけるものがありますね。

 やたらに強いが、人情に厚い主人公の性格は、エス・ハートが演じてきた西部劇の主人公に共通するものです。ラストの主人公の扱いなどは、股旅西部劇の典型的パターンです。遥か後年の『シェーン』のラストに似ています。

 この作品が日本で上映されたのは1920年。股旅文学の巨匠・長谷川伸が、心ならずも決闘して殺した男の遺族のめんどうをみるという「沓掛時次郎」を書いたのが1928年。翌29年にも、自分のふところ狙ったスリを殺してしまい、そのスリのいまわのきわの言葉によって残された子どものめんどうをみるという「関の弥太っぺ」を発表しています。

 この作品から、長谷川伸がヒントを得たことは充分考えられますね。

 エス・ハートは監督としても、一流なところをこの作品でみせています。ロウドンとヒルガードの暗闇での決闘シーンでは、二人の表情と精悍な動きのカット・バックで、1918年の年代にしては迫力あるものとなっていますよ。

 

『モヒカン族の最後』

原題:The Last of Mohicans(製作:1920年)

監督:モーリス・ターナー、クラレス・ブラウン

 

 18世紀半ば、独立前のアメリカ。イギリスとフランスはインディアンをそれぞれ味方につけ、植民地獲得に躍起になっていた。

 コーラ(バーバラ・ベッドフォード)とアリスの姉妹は、父親が司令官をつとめるイギリス軍の砦に向かうが、途中でフランス軍に味方するヒューロン族のマグワ(ウォーレス・ビアリー)の罠にかかる。しかし、モヒカン族の若き酋長アンカス(アルバート・ロスコー)とその父親、白人猟師のホークアイに救われ、コーラはアンカスに惹かれるようになる。

 姉妹は砦にたどり着き、父親との再会を果たすが、それも束の間、フランス軍によって砦は包囲される。姉妹は砦を脱出するがヒューロン族に襲われ、マグワに連れ去られる。アンカス父子とホークアイは追跡を開始するが……

 

 ジェームズ・フェニモア・クーパーの有名な小説の映画化ですが、ホークアイは傍役に追いやられ、アンカスとコーラを中心とした悲恋物語になっています。

 この悲恋物語を引立てるのが、マグア(ウォーレス・ビアリーが名演技)の存在です。コーラに横恋慕する、強くて凶暴なインディアンで、圧倒的な迫力で迫ってくるんですよ。

 クライマックスでマグワに追われたコーラが断崖から身を投げると、その片手をムンズとマグワをつかむ。ところが、アンカスが救出にやってくると、非情にも手を離すんですね。驚くアンカスに跳びかかり、格闘の末、アンカスまで刺し殺してしまう。こうなると、実質的主役ともいえますね。

 ロングショットで見せるクライマックス・シーンは素晴らしく、お薦めできる名作のひとつです。

 

『幌馬車』

原題:The Covered Wagon(製作:1923年)

監督:ジェームズ・クルーズ

 

 1848年、オレゴンを目指して、ウィンゲート(チャールズ・オーグル)をリーダーとする幌馬車隊が出発する。ウィンゲートの娘・モリー(ロイス・ウィルソン)の婚約者サム(アラン・ヘール)は、ミズーリの幌馬車隊を率いてきたウィル(J・ウォーレン・ケリガン)を敵対視するが、モリーは心優しいウィルに惹かれていく。

 大河を渡り、砂漠を越え、食料調達のバッファロー狩り、そしてインディアン襲来。

カリフォルニアに金が出たという知らせに、幌馬車隊は二手に分かれ、ウィルはカリフォルニアへ。ウィルの命を狙ってサムもカリフォルニアへ……

 

 何といっても濛々たる砂塵をあげて幌馬車隊が進んで行くシーンの壮大さに感動しました。CGにはない本物の魅力があります。

 本物といえば、登場するインディアンは白人が扮したインディアンではなく、生粋のインディアン。押し寄せるインディアンに対し、幌馬車隊が円陣を作って戦うシーンの凄いこと。

 この作品では、インディアンをかなり差別的に扱っていました。ジム・ブリッジャーのインディアン妻の名がウスノロとオロカモノですからね。

 ジム・ブリッジャーは実在の人物で、ロッキー山脈を最初に越えた男と云われています。この作品にも出てきますが、ソルトレーク地方を開拓し、オレゴン・トレイルにブリッジャー砦を建設し、西部への移住者の便をはかったんですよ。

 オレゴン・トレイルを通ってブリガム・ヤング率いるモルモン教徒が移住した史実(骨に書かれたメッセージが出てくる)や、画面には登場しませんが、メキシコ戦争でウィルが軍の家畜を盗んだのは、飢え苦しんでいる部下たちを救うためだったことを調べてウィルの無罪を証明したのが弁護士時代のリンカーン、といった有名人物の名が出てくるのも嬉しかったで〜す。

J・ウォーレン・ケリガンと

ロイス・ウィルソン

 

『アイアン・ホース』

原 題:The Iron Horse(製作:1924年)

監 督:ジョン・フォード

 

 1862年、リンカーン大統領(C・エドワード・ブル)は大陸横断鉄道法案に署名し、西と東から鉄道工事が開始される。鉄道建設に命をかけた父が、二本指の白人ドルー(フレッド・コーラ)に率いられたインディアンに殺された後、監督として現地に赴任したデーブ(ジョージ・オブライエン)は、初恋の女性ミリアム(マッジ・ベラミー)と再会する。

 デーブは、ミリアムのことで技師と対立し、ドルーと結託している技師に殺されかけるが、逆にドルーたちの悪事を暴くのだった。

 ユニオン・パシフィック、セントラル・パシフィック両鉄道の言語に絶する難渋の大建設工事という太い背骨を一本通し、これにインディアンの妨害、若い男女の恋、友情と復讐などをないまぜた壮大な西部劇です。

 この作品は、鉄道建設を背景にした最初の西部劇なんですよ。1869年5月、東西の線路がユタ州ポロモントリー・ポイントで黄金の釘により結合するシーンは、西部史に残る貴重な一コマといえます。このシーンは、コメディ西部劇で何度もパロディ化されていますね。

 西部史といえば、リンカーンの他にバッファロー・ビルやワイルド・ビル・ヒコックなどの英雄が登場するのも楽しいです。

 この映画の見所は、何といってもインディアンが鉄道を襲うシーンです。射ち合いながら走る両者の平行移動や、機関車がカメラの頭上を通過するショットは、『駅馬車』のアパッチ襲撃シーンの先駆けとなっていますね。この迫力には、無声映画なのに音が聞こえてくるような気がしました。

 

『三悪人』

原 題:Three Bad Men(製作:1926年)

監 督:ジョン・フォード

 

 西へ向かうお尋ね者、マイク(J・ファレル・マクドナルド)、ブル(トム・サンチ)、スペイド(フランク・キャンポー)の3人は、幌馬車を襲って馬を奪おうとするが、別の強盗に父を殺された娘リー(オリーブ・ボーデン)に救いを求めらる。3人は幌馬車隊に加わり、ランドラッシュ(土地獲得競争)で沸き立っているカスターの町へ彼女を送り届ける。

 町を支配する悪徳保安官ハンター(ルー・テルゲン)が、リーに手を出そうとしたので、3人はリーと彼女の恋人ダン(ジョージ・オブライエン)を守って、ハンターと戦うことになる。

 この映画は、西部劇の一つの定型である“グッド・バット・マン”ものなんですよ。表面的には悪党だが、根は善人というパターンですね。それと3人というのも定石ですね。2人だと少し淋しいし、4〜5人となると、各人の性格づけやら収束が面倒だけど、3人だとバランスがよく、このような小品には丁度よい人数なんでしょう。

 主役のジョージ・オブライエンは、演技がヘタですね。『アイアン・ホース』で人気スターになったとのことですが、どこがいいんでしょうか。芸達者な無法者トリオが、本当の主役といえます。この3人が醸し出すユーモアは、後のフォード西部劇の爽快なユーモアの母体になっていますよ。

 この映画の見所は、なんといってもランドラッシュのシーンでしょう。全部実写だそうで、スピード感のあふれた壮烈なアクション演出になっています。だけど、あんな危険なシーンをどうやって撮ったんでしょうね。

 フォードはこの作品の後、しばらくは他のジャンルの作品で名声を上げ、『駅馬車』で西部劇の巨匠としての名を確立しました。

 

 

トップへ    シネマ館へ     目次へ